第5話 狩りのレクチャー
「ちょ、早い……待って……」
祐也は狩りの見学のために先行しているサーシアの後ろを追いかけていたのだが、全力で走っても追い付かない。
たまに止まって様子を見てくれるのだが常に全力で走れるわけもなくついにはばたりと倒れこんでしまった。
「……他の世界の人間ってこんなに脆弱なの……この世界の子供と同じレベルなんだけど」
「いやいや……」
祐也の体力は高校生の平均程度だ。足の速さに至ってたは早い方だ。これが子供レベルってさすが異世界だ。この世界の人間が強いだけなんじゃ……。
「あ、もしかして……管理魔法の名前の横を見てみて!」
「名前の横?」
「ええ、早く!」
祐也は急かされながらステータスウィンドウを開いた。
神凪祐也 1
こんなとこに数字あったんだ……能力欄と魔法欄しか見てなかった。時間があるときにでもしっかり確認しようと心に決めた。
「1って書いてるんだけど……」
「やっぱり……」
がくり、といった感じだ。もしかしなくてもレベル的な概念ですよね。つまり現在レベル1!?
そりゃ子供レベルだわ。まぁ日本で特に狩りとかしてたわけじゃないから当たり前だけど。
「それは階位と言って上がるほど身体能力や魔力、寿命が上がるんだけど……やっぱり1か」
案の定レベル的なものだったようだ。多分レベルより上がりづらそうだとゲーム経験から予想する。
「1ってどれくらいなんだ」
参考までに聞いてみた。
すると驚く返答が返ってくる。
「だいたい4~5歳ね。あんたの年齢だと普通の村人でも3、冒険者とか探索者は5位になっててもおかしくないわ」
「マジか……」
超雑魚じゃん。祐也は内心毒を吐く。
「じゃあこの世界の俺の身体能力は五歳時レベルってことか?」
「いいえ。あんたの身体能力は階位2はあるわ。もとがそれってことは逆に凄いのかな……」
サーシアはブツブツ呟きながら考え事を始めた。もともと階位なんて存在しない世界から来たからな~。 普通に生きてるだけで成長期なら身体能力は上がるし。
「ん~ま、いっか」
ちょっと待て何を納得した。背中の寒気が凄いんだが。これ以上のスパルタは勘弁していただきたい。
「でもそうね。その階位だと近接武器は危ないわね」
「近接武器でやらそうとしてたのか!?」
危ね!普通に死ぬところだった。いやー階位低くてよかったー。全然よくないけど。
そもそも狩りって銃とか弓とか罠とかが基本だろ。この世界の常識はどこかおかしい。
異世界なのだから、もとの世界の常識が通用しないなんて当たり前である。
「そうなると弓ね。特技の“必中”を覚えるまでしばらくは弓のトレーニングしないとね」
「特技ってなんだ?」
だいたいわかるが一応説明してもらいたい。もしかしたら自分のの思ってる特技とは別の可能性があるからな。
「特技もなかったの……どうやって生きてきたのよ」
科学の力です。あ、これ二回目だな。
「特技っていうのは使い続けることで覚えれるものなんだけど、覚えたらその特技の恩恵を得ることができるようになるの。例えばさっき言ってた“必中”だけどこれは、弓の初級の特技で狙った物を外さない特技よ。もちろん相手が動いたらその限りじゃないけどね」
つまり常時発動ってことか。かなり便利だな。ただ格好いい技とかも使いたかった。
そうだ、これ聞いとかないと。
「格好いい技?ってのがどういうのかはわからないけど必殺技的なのはあるわよ。ただその特技が使えるようになる専用の武器がいるわ。あとは才能」
才能は別として専用の武器って、課金要素ですか。◯円で一回とかSSR確定とかそんなやつですか。え、違う?
「じゃあ普通の特技って誰でも習得できんの?」
ゲームなら専門職とかあるからな。全て使えるようになるなら是非とも習得したい。時間があれば。
「上級までの特技なら誰でも可能だけど上級を覚えるには才能もしくはかなり努力しないとダメね。」
全部とか無理そうだな。もともと必要があるとは思えないけど。いったい何を目指しているのだろうか。
「上級の上は?」
「超級と伝説級があるわ。それが必殺技クラスの特技ね。超級を使える人はちらほらいるけど伝説級になると国に一人か二人ってレベルね。あいつらは化物だから関わらないことを推奨するわ」
サーシアが化物って言うとかヤバイんですけど。てか、必殺技使いたい!だけどそこまで化物に慣れ自信がない。
そういう能力を持った人はいそうだな。全ての特技を習得とか。なにそれ羨ましい。是非ともその能力と自分の能力を交換して欲しい。
「あいつらって言ってたたけど知り合いにいるのか?」
「伝説級を使えるやつを一人だけ知ってるわ。はっきり言ってもう関わりたくないわ」
「お、おう」
嫌われてるな。凄い表情歪めてるし。伝説級使える化物はいったい何したんだよ。
聞いたら殺されそうだから聞かないけど。
「嫌なこと思い出したせいで苛立ってきたわ。ほら、早く狩りをするわよ!早くこのイライラを発散させないと……」
させないとどうなるんだ!怖い。やばい。怖い。
あまり刺激しないようにしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
あの後少し移動した辺りで獲物を見つけた。獲物は熊だ。しかも角が生えてるから魔物だ。
熊の魔物とかいきなりついてねー。しかもなんか見覚えあるし。
サーシアは狩る気満々だし。
「相手は熊ね、憂さ晴らしにぴったりだわ。ククク……」
ほらこの通り。邪悪な笑みを浮かべている。憂さ晴らしに付き合わされる自分の身にもなって欲しい。
獲物をいち早く見つけたサーシアはハンドサインで屈めと指示を出す。祐也は指示通り屈んだ。というか熊の魔物を見るなりへっぴり腰だった。ビビりである。
熊の魔物を前にしてサーシアの指導が始まる。
「では今から憂さ晴らし……じゃなかった。狩りの指導を始めるわ」
うわ。真面目に間違える辺り酷い。そして怖い。
既に熊の魔物に同情しそうになっていた。だが熊の魔物の地獄はまだ始まってはいない。
「とりあえず弓ってことで準備するわ」
そう言ってサーシアは次元倉庫から緑ベースで所々金色に輝いている綺麗な弓を取り出した。
見た目からして凄い物なのがわかる。
「あ、これがさっき言ってた必殺技のついてる武器ね。月の女神の弓。これを持ったまま管理魔法を開いたらどんな効果があるかわかるわよ」
と言って弓を祐也に渡した。
言われた通り管理魔法で確認してみる。
開け、ステータスウィンドウ!
月の女神の弓
魔力で弓を作ることができ、魔法で属性が付与できる。
使用者に“追跡”を与える
ホーミング機能に魔力で弓の生成とか……。
これが希少な武器なら納得の性能だ。いつかこんな武器が欲しいものだ。
……能力で創れないだろうか。
詳しいイメージは出来ない。性能が追加されるにはどうすればいいかとかわからないし。どのみち弓は必要になるのだ。ならばチャレンジしてみてもいいだろう。
祐也は弓を持ったまま能力を発動した。
「どうだった?同じ性能の物はできた?」
祐也が創ることを見越して弓を渡したようだった。ちなみにサーシアに能力のことは言っていない。言う前から知ってる風だった。
多分漂流者は特殊な力があるとかで有名なんだろう。
姿形が同じものはできた。問題は性能だ。
本物の方を返して性能の確認をする。
月の女神の弓(複製)
魔力を弓にできる
使用者に“必中”を与える
複製だから少し性能が落ちているけど祐也にとっては充分な代物ができていた。
さらに能力に新たな一文追加されていた。
“創造”
自分の考えたものを無から創る能力
ただし生物は創ることができない
使用範囲は能力者から半径5メートル
手に持った希少武器は複製が可能(一つ限定)
改めて自分の能力の優秀さを確認した瞬間だった。さっき交換して欲しいとか思ってすいませんでした!心の中で土下座する。これも二度目だな。
「で、どうだったのよ」
あ、サーシアに報告するの忘れてた。
急いで報告した。
「一応成功かな。本物より性能は落ちるけど魔法の矢も使えるらしい。あと言ってた“必中”もらった」
「そう!それならいちいち訓練する必要がなくていいわね」
「そうだな!」
本当に良かった。訓練となると何するかわからないからな……魔力混ぜ事件が良い例だ。最悪死ぬってことを本人に言わずにやるとか。そこにシビれる憧れるぅ~。勿論冗談です。大胆だとは思うけど。
弓と言えばクラスに弓道部がいたっけ?あいつ何て名前だったかな~。心の中で孤高さんって呼んでたのは覚えてるんだよ。ずっと独りでイヤホンしてスマホ触ってたから。
どうでも良いことを考えていたら狩りが始まった。
「よし、なら狩りの仕方を教えるわよ。あの魔物には訓練の相手になっていただくわ」
熊の魔物はまだこちらに気付いてなかった。
今までひそひそと話していたのだ。
途中、祐也が興奮して無理矢理口を抑えられたのは別の話である。
サーシアは弓を構えて説明を開始した。
「まずは魔力の矢の説明からね。弓を引いたら勝手に矢が出来るわ。射つと同時に魔力が使われる。ゆっくり弦を戻したら矢は無くなるわ。もちろん魔力はそのまま」
実際に矢を作りながら説明する。
魔力の矢の見た目は光の棒みたいな感じだ。
「矢の強度は魔力量によるわり飛距離と威力は力も必要によなるわね。普通の動物程度ならあんたの矢でも大丈夫よ」
祐也も試しにと弓を引いてみた。
すると光の矢が現れたがサーシアの光よりも淡い。この光の強さが強度を表してるのかもしれない。
「最終的に矢はどうなるんだ?」
「時間がたつと消えるわ。これも魔力量によって変わるわね」
自動で消えるってのは便利なのか不便なのかわからないな。敵の生命力が高い場合残ってた方が便利だし、狩りから消えた方がいいだろう。
矢に使う魔力量を調節できないのだろうか?矢ができる時に魔力を込めたりとか。要研究だな。またやることが増えてしまった。
「弓に関してはこのくらいにして次は狩り事態を教えるわ」
本番はここからだ。熊の魔物にとっても……南無三。
「狩りの基本は一撃で殺すことよ。何回もグサグサと矢が刺さったら素材が悪くなってしまう。そして相手に苦しみを与えないように一瞬で絶命出来るようにすること。これはマナーね」
「一撃か……自信がないな」
「その辺は大丈夫。頭狙えばいいのよ!相手が動かなかったら当たるし。それに頭撃ち抜かれて死なないやつはこの森にいないわ!」
大分適当である。しかも森の外ならいるのかよ!頭撃ち抜かれて死なないとかどんな化物だよ。
「あの魔物はその辺心配要らないわ。頭撃ち抜いて一発よ!でも今回は一撃で殺せなかったときの対処法とか色々教えるから頭を狙うのは最後になるわ」
つまりなぶり殺しということだ。エグい。
「準備はいい」
「お、おう」
サーシアはゆっくり呼吸を整えて息を止める。横から見てもわかるぐらい、凄い集中だ。
そして矢を放った。一直線に熊の魔物の足に突き刺さる。熊の魔物は怒りで雄叫びをあげ周囲にいる敵を探した。
見つけると同時にこちらに向かって走ってきた。足に矢が突き刺さっているため速度は遅い。サーシアはこの事を考えて足をわざわざ狙ったのだろ。
熊の魔物との距離はまだあるため余裕の表情で対処法を語る。
「一番重要なのは焦らないことよ。焦ったら助かる命も助からないわ。相手によっては逃げるのも手ね。次に二射目は距離と一射目がどこに当たったのかを確認する。遠い場合は足を狙うことを推奨するわ」
説明中に近づいてきた熊の魔物の足で矢が刺さってない方を的確に射抜いた。
熊の魔物の進行速度はさらに低下する。
「近い場合も焦らないように。このようにデタラメに射ってはダメ」
デタラメの見本もきっちり見せてくれた。手や耳、腹等にどんどんと矢が刺さっていく。
苦しそうに熊の魔物は悶えている。
もうやめてあげてほしい。
「たとえ近くてもしっかり狙って射つ。出来る限り攻撃回数を抑えること。わかったわね?」
サーシアは熊の魔物の頭を射ち絶命させた。時間にして一分弱だが学ぶことは多かった。
そして熊の魔物に同情した。
一撃で決めれるようにしよう。そう思った。
サーシアは剣を出し魔物の首を落としたあと逆さまに魔法で浮かして血抜きをした。首のない熊が空中で逆さまに浮かんでるって、それなんてホラー。血抜きが終わり矢が消えると熊の魔物を次元倉庫に仕舞った。今日のご飯行きだ。
「どんどん行くわよ!」
と言ってまた獲物を探し始める。熊の魔物だけでは足りないようだ。
次は猪に会った。今回は魔物ではないようだ。魔物なんてそうそういてたまるか。
今日会う動物って初日と同じ種類ばっかりだ。
「今回はあんたが仕留めなさい。ただの動物だから大丈夫のはずよ」
「お、おう」
装備がいいから大丈夫か。
祐也はゆっくり矢を引いた。すると視界にスコープみたいなのが現れる。これが“必中”の効果なのだろう。照準を猪の頭に合わせて矢を放つ。
矢は一直線で頭に向かい刺さった。猪は横にパタリと倒れて動かない。即死のようだった。
サーシアは熊の魔物同様さっと首を落として血抜きを始めた。
「初めてで一撃なんて凄いわね!」
「まぁ装備のおかげだな。“必中”が無かったら絶対に無理だった」
「それもそうね。で、どうだった?初めての狩りの感想は」
「そうだな……」
正直に言えばなんとも思わなかった。いや、思う暇がなかった。矢を放っただけで終わってしまったのだ。だけど生きるために必要なこととはいえ、今まで動物を自らの手で殺したことが無かったからだろうか、この世界での命の軽さを実感した。
この後兎の魔物を二匹と鹿を狩って初めての狩りは終了した。兎の魔物が祐也の矢を弾いたのはまた別の話である。兎だからといって魔物を侮ってはいけないと実感した。
「これだけあれば明日の朝の分は充分ね。じゃあ帰るわよ」
熊、猪、鹿、兎が二匹で二食分とは……。妖精の姿に是非とも戻っていただきたい。自分が渡した服とはいえ、狩りの途中にスカートの中がどれだけ見えたことか。ありがとうございます。
「帰るって言うけど場所わかるのか?どれだけ進んでどっちがテントのある場所なのか全然わからないんだけど」
祐也の言った通りテントのある場所からかなり離れていた。普通の人は迷わないように目印を付けながら移動するものなのだが、そんな事をしないでここまで来たので帰れる気がしなかった。
だがそれは杞憂に終わる。
「言ってなかったわね。妖精種の種族特性で森の中で迷ったりしないのよ」
種族特性便利だな!人間にもあるのだろうか。
あるわけないと思いつつも念のために聞いた。
「人種の種族特性?あるわよ」
なにそれすごく気になるんだけど。人間ってたいして特別な所ないからな。猿から進化した生き物と言われてるし。全然わからないな。
「ど、どんな特性があるんだ」
「繁殖力ね」
は?聞き間違いだろうか
「もう一度頼む」
「繁殖力よ」
ガクリと祐也は肩を落とした。
でも納得だ。動物でも年中発情してるのは人間と兎だけって言うし。でも嬉しくない!もっと便利な特性がほしかった。
祐也は気付いていなかった。この種族特性の恐ろしさに。
「これがかなり厄介なのよ。人種は昔滅ぼされかけたのに現在、殆どの大国は人種の国。この意味わかるでしょ」
「確かにそれは凄いな」
凄いのは凄いが特性を持ってる人種にその実感はない。個々には何もないのと同じだからな。
それにしても滅ぼされかけたって何したんだよ!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
二人は雑談しながらテントに向かう。雑談の内容は主に祐也の世界の話だ。サーシアは興味津々に聞いている。飛行機やロケットの話をしてる時が一番食い付きがよかった。
そうして帰っている時、今まで一直線に歩いていたのだが急に方向を変えて走り出した。
何かあったのだろうか?
走った先には虎の魔物がいた。まだ食料が欲しかったのだろうか?食いしん坊だな。
サーシアは弓を次元倉庫に仕舞い、代わりに剣を出して一瞬で虎の首を刎ねた。
あまりの剣撃の美しさに祐也は見惚れてしまう。もしかしなくても本職は剣なのだろう。剣も弓同様美しい。ただ、服の違和感が凄いので剣とサーシアの容姿に合う服を創ろうと決意する。どんな服がいいだろうか。
「そんなところで突っ立ってないで早くこっちを手伝って」
考えを一度中断してサーシアの方に向かった。手伝って何を手伝えばいいのだろうか。祐也は不思議に思っていたがそれを見て納得する。
サーシアは女の子を背負っていた。どうやら食料のために虎の魔物を殺したわけではないようだ。血抜きはしっかりしているが。
「この子あんたの知り合いよね?」
その女の子は祐也の通っていた学校の女子制服を着ていた。
ステータスウィンドウと呼ばれてるものです。
本編で紹介出来ないのでここで紹介させていただきます。
名前 階位
健康状態
状態異常
能力
魔法
特技
次元倉庫 容量
となっております。
それと特技の“追跡”ですが詳細は設定集に書きました。
今後説明する可能性はありますが早めに知りたいという方はそちらをご覧ください。
まぁ名前通りなんですけどね(笑)