第4話 本来の姿
昨日の今日ですが更新します。
休日パワー恐るべし。
こんな感じで更新ペースは不明です、すいません。
少なくとも3日以内という認識でお願いします。
「起きなさい」
誰かが体を揺すっている。
でもまだ眠いから寝ていよう。
「起きなさいって言ってるでしょーが!!」
「ブハッ」
異世界に来て3日目の朝は体が小さい女の子の強力な蹴りで目を覚ました。
蹴られた場所は顔。
顔を蹴られたら痛いのは当たり前だが体に似合わない威力の蹴りだった。
妖精種だからなのか、サーシアだからなのか。謎である。
「魔法の訓練で疲れてるだろうと思って多目にみたけど、いい加減に起きなさいよ!もう昼よ。お腹すいたから、早くご飯作ってよ」
祐也は腕時計を見て時間を確認する。
時刻は12時を回ったというところだった。
寝過ごしたなんてレベルじゃない。それに昨日の夜の記憶が曖昧でいつ寝たのかも覚えていない。
祐也は寝落ちした程度に考えてご飯を作るために立とうとした。
だが力が入らずふらっとして倒れこんだ。
「あ、あれ?」
急いでサーシアが様子を確認した。
そして呆れたって顔をされた。
「魔力切れの後遺症ね。午後には治るわ」
「マジか。ごめん」
「今回は注意し忘れてたこっちの不手際だからいいわ。でも次からは気を付けるように」
「へーい」
「じゃあご飯は私が作るから、あんたはそこでじっとしてなさい」
そう言ってテントから出ていった。
魔力切れに後遺症とかあるのか……怖いから今後は気を付けよう。それにしても暇だ。じっとしてなさいって言われた手前魔法の練習をするわけにもいかないし……。
ふと思ったのだがサーシアはどうやって料理をするのだろうか?あの体では包丁を持てないだろう。ならば体に合った包丁を使う?それだと作るのが遅くなる。……わからぬ。
テントから覗いて見ることにした。
「なっ―――」
そこに居たのは村娘風の服を着た日本の女性の平均身長より少し大きいくらいのスレンダーな女性だった。髪は紅色で目は全てを見透かした水晶のような綺麗な碧色をしている。顔立ちは美少女というよりは美人といった感じで少しきつめだ。ちなみに胸はない。スレンダーだからな。
ってそんなことはどうでもいい!いや、どうでもよくないけど、それよりも誰だ?
「何してんのよ。じっとしてなさいって言ったでしょ」
女性は声を掛けてきた。
いや、誰だよ。
この世界にいる祐也の知り合いは学校の奴らとサーシアしかいない。
紅色の髪をした、ましてやスレンダー美人など知り合いにいるはずがない。
「えっと……お姉さん誰ですか」
ついついお姉さんとか言ってしまった。祐也は思春期であり、さらにタイプの女性が目の前にいるのだ。緊張で変なこと口走らないように気を付けなくてはならない。
「お姉さん……ふふふ」
スレンダー美人さんはお姉さんと呼ばれてかなり嬉しそうだ。頬が緩んでる。
だらしなく笑っているのに可愛いと思ってしまう。美人はずるいな。
「そろそろご飯できるからもう少しだけ待ってなさい!」
スレンダー美人さんは鼻唄混じりに調理を再開した。
親以外で初めて女性の手料理を食べれる。しかもそれがタイプの女性なんて。
……いや、一度落ち着こう。何で手料理を作ってもらってるんだ?
祐也は浮かれすぎて一度死にかけているのでその経験生かして冷静になった。学ぶ男なのだ。
頭の中で情報をまとめる。
・ここは魔法がある異世界
・この世界の住人で知り合いは一人
・クラスの奴らに紅髪をした人はいない
・魔力切れの後遺症でふらふらなため料理を作ってもらう予定だった。
・紅色の髪をした胸のない女性
祐也は全てを悟った。最後の一つが決定的だった。
いや、まだ確認していない。まだサーシアの知り合いという可能性が残っている。
恐る恐る尋ねた。
「サーシアさんですか……」
いまだに敬語なのは緊張からなのか、現実逃避からなのか、それは本人ですらわからなかった。
「当たり前でしょ」
痛恨の一撃!祐也は精神的に大ダメージを受けた。羞恥心で。気分的には知らないうちに知り合いにナンパしたって感じだ。過去にこれほどダメージを負ったのは親にパソコンの履歴を見られて以来だ。
やばい、羞恥心で死ねる。
「よし、完成!お姉さん特製野菜炒めに、お姉さん特製薬草スープ」
「グハッ」
あまりの恥ずかしさにまたもや大ダメージを受けた。知らぬが仏とはよく言ったものだ。お姉さんとか言った過去の自分を殴り飛ばしたい。もしくは気付いてしまう前に考えることを辞めるべきだった。
「だ、大丈夫!?お姉さんに何かできることは」
もうやめて!祐也さんのHPは0よ!
心のなかで叫んぶ。
とりあえずお姉さんってのを辞めてくれ!!
「へーそういうことね」
祐也は食事をしながらさっきの事情を説明した。サーシアはずっとニヤニヤしている。人間サイズで。にやけ顔も可愛いのだからずるい。本人には絶対に言わないが。
「ということでさっきのは誤解だ」
「えーお姉さん悲しい」
「グハッ」
さっきからこんな感じで弄られっぱなしだ。
しばらくこのネタで弄られるのだろう。ごりごり精神が削られていく。鬱になりそうだ。
しかも人間サイズなのが余計にたちが悪い。このままでは分が悪い。
話を逸らすことにした。
「な、なんでそんな姿になってるんだ?」
「そんな事別にどうだっていいじゃない。あんたも綺麗なお姉さんと一緒にいれて嬉しいでしょ!」
「ぐっ……それはそれ、これはこれだ!」
否定はしない辺りが祐也という男である。
「はいはい、そういうことにしておいてあげるわ。お姉さん優しいから」
こっちの考えは全てお見通しといった感じだ。
悔しいがこちらに成す術などないし、話が逸れるならそれでいい。そういうことにして無理やり納得させた。
「この姿は妖精種の本来の姿よ。いつもの小さいのは仮の姿ね」
「本来の姿?なら何でいつもそっちの姿じゃないんだ」
いつもが人間サイズならこんな勘違いも起きなかっただろう。というかそっちが本来の姿なのかよ!妖精種のくせに。
「この姿燃費が悪いのよ。魔法や身体能力は上がる代わりに凄くお腹が空いたり、空を飛ぶ時もスピードは落ちるし不便なのよ」
確かに燃費は悪そうだ。
食べる量は普段の二倍、いや三倍は食べているのにも関わらず食事のスピードは落ちていない。あの小さい体のどこに入るのか気になっていたがもとがこれなら納得だ。
「なるほどな。その服はどうしたんだ?」
「あーこれね。とある村で買ったの。服は大きさが変えれないからあの姿の時は次元倉庫に入れてるのよ。似合ってるでしょ」
「悔しいけど似合ってるよ。後でそっちの姿の服も創るからさっきのことは無しにしてくれ」
「ええ、いいわよ」
何かが足りない気がする……。祐也は服を創りながら違和感を覚えた。羽だ!羽がないのだ。
村娘の服は背中があいていない。どうなっているのだろうか。
視線に気付いたのかサーシアは教えてくれた。
「こっちの姿では、羽はないのよ。もともと魔力で作ったものだし」
羽が偽物だった件について!
妖精種というわりに妖精してない。もう体の大きさを変化できる人間でよくね?名前詐欺だ。
サーシアという存在は夢と理想をぶっ壊してくれた。悪い意味で。スレンダー美人だから許す。
いったい何様のつもりなのだろうか。
まぁ羽を気にして服を創らなくていい分楽でいいか。プラスに考えることにした。
「こんなもんかな」
新しく創った服をサーシアに渡した。
色々考えたが、動きやすさでTシャツとスカート、趣味でニーソを渡した。
自分で言うのも何だが良い趣味している。もちろん良い意味で 。
「相変わらず服のセンスはいいのよね」
サーシアもご機嫌である。
服を受けとるとすぐに村娘の服から渡した服に着替えようとした。祐也の目の前で。
「ちょ、ストップ、ストップ!」
「何よ?」
早く着替えたいんだけど、と言いた気の目線を向けている。
既に上は脱いでいるため、ない胸が丸見えだ。
初めて会った時は小さくてよく見えなかったため良かったが今はやばい。
さっきとは別の部分の精神にダメージを受ける。タイプの女性なのだ。仕方がないと言えるだろう。
「き、着替えるならテントの中にしてくれ!」
目線を逸らして叫んだ。
「ふーん、お姉さん別に気にしないけどなー」
ニヤニヤしながら挑発するかのように祐也の目線の方に移動する。
「俺が気にするんだよ!」
「はーい、仕方ないわね~」
嬉しそうにテントに入っていった。
人間サイズになってからというもの良いようにされ過ぎである。思春期の弟を弄る姉のようだ。
着替え終わってサーシアはテントから出てきた。
適当に創ったが祐也の目は正しかったようだ。凄い似合っていた。
「仮の姿の時も思ったけどこの布いいわね。着心地が凄くいいわ」
「気に入ったようでよかった」
こちらも良いものが見れたのでWin-Winだ。
これからも貢がせて戴こう。創る分にはタダなので損が一切ない。
「そうね。気に入ったからしばらくこの姿でいることにするわ」
「え!?」
嬉しいけどなんか嫌だ。複雑な気持ちになった。
「そろそろ治ったでしょ。今日も訓練するわよ!昨日の続きで浄化魔法から。魔力切れ起こすまで練習したんだから出来るでしょ。見てあげるからやってみなさい」
「へーい。“浄化”」
気を取り直して浄化魔法を発動する。昨日やっとの思いで完成させた浄化魔法。
サーシアは感心したように頷いている。
「回転させたら綺麗になりやすいのね」
「ん、こうやるんじゃないのか?」
「普通はしないわね。私も参考にさせてもらおうかしら……」
普通のやり方じゃないのか……いや、新しいやり方を発見したんだ、それでいいじゃないか。
ということにした。
「浄化魔法も合格ね」
「よし!じゃあ次は!」
「お待ちかねの次元倉庫ね」
アイテムボックス来たぁぁああ!!
祐也のテンションは鰻登りだ。
それのために魔力切れまで起こしたのだ。馬鹿である。魔力切れを起こさなかったら恥をかかなくて済んだのに。
「次元倉庫は浄化魔法よりもかなり難しいわ。今回は練習のしすぎで魔力切れを起こさないように」
「ハーイ」
棒読みである。
アイテムボックス……絶対に物にしてみせる!
心の中で固く誓った。
「やり方を説明するわね。次元倉庫は空間に穴を開けてそこに物を仕舞う。仕舞える物は自分の物だけで、他の人の物は仕舞えない。それだけなんだけどイメージが難しいのよ。イメージさえ出来ればすぐに習得出来るわ。空間に穴を開けるのは開けたい場所に魔力で渦を作るイメージね。一応見本を見せるけど、はっきり言って物が出たり消えたりするだけだからあまり参考にならなから。そのつもりで」
「わかった」
見本って言われてもいつも解体前に見てるから新鮮味がない。
「じゃあやるわよ。“解放”」
目の前に村娘の服が出てきた。いつも出てくるときはびっくりする。自分の“創造”はどうなのかって?あれは別だ。どう別かは上手く説明できないけど。
というか初めて呪文聞いた気がする。いつもは無詠唱?もしくは頭の中で唱えたりとかが出来るのだろうか。これは要研究だな。
「仕舞うのは初めて見せるわね。“回収”」
今度は服が急に消えた。
サーシアの次元倉庫の中にはいったのだろう。
やはり見たところでわからなかった。
「やっぱり分かりにくいわね。やってみるのが一番早いわ」
「そうだな!」
祐也は仕舞う物を準備するためにテントに入った。テントから取り出したものは初日に創った金の延べ棒だ。リュックでは心配だったので丁度よかった。
金の延べ棒に向けて魔法を発動させる。
「“回収”」
金の延べ棒が目の前から消えた。
まさかの一発で成功した。
「……驚いたわ。一回で成功するなんて」
「俺もビビった。浄化魔法は出来なかったのに何でだろうな」
イメージが良かったのだろうか?カードゲームやアニメで次元の裂け目なんてよくあるからそれをイメージしたんだけど、本当に上手くいくとは思わなかった。
やはり異世界に行ったオタクは強いようだ。
「一応確認のために管理魔法で見てみなさい」
管理魔法でステータスウィンドウを開いた。
魔法
・契約魔法
・浄化魔法
・次元倉庫
浄化魔法と次元倉庫が増えている。その他にも変化があった。次元倉庫欄ができていた。
次元倉庫 1/20
・金の延べ棒
この名前の横にある1/20って何だろうか。賞味期限?金の延べ棒なのに。さすがにそれはないだろうとサーシアに聞いてみた。
「それは後どれだけ入るかを表してるのよ。左が入ってる数で右が上限数ね」
「へー。じゃあ上限数20って多いのか?」
「初期でそれなら中の上から上の下ってところね。魔力は魔法を使ってたら増えていくから上限数も勝手に増えるわよ。増え方はもとの魔力量から倍ごとに5ずつ増えるわ。つまり10増やそうと思ったら魔力量を今の三倍にしないといけないってことね。私も最初は30程度だったわ」
30程度って……初期の状態から既に祐也の1.5倍も魔力が多いことになる。
祐也は恐る恐る尋ねた。
「ちなみに今はどれくらいなんだ」
「えっと、私の今の上限数は120ってところね」
「120!?」
1.5倍の状態から18倍だから……約30倍!
凄すぎる。改めてサーシアのすごさを実感した。
「どうしよう。今日一日は次元倉庫に使うと思ってたから他にやること考えてないんだけど……」
お昼を食べてから一時間くらいしかたっていない。本人でさえ一発でできるとは思っていなかったのだから仕方ないだろう。
ただ時間が余ったなら残りは休みにして欲しい。
祐也はそう思っていた。それなりに馴染んではいるがまだ異世界に来て数日しかたっていないのだ。
疲労が溜まっていてもおかしくはない。
これは休むしかないのではなかろうか。
祐也は休むこと以外考えれなくなっていた。
「今日はこの辺で休ま―――」
「よし!狩りの見学をしましょう!」
言い終わる前にサーシアに遮られてしまう。
狩りの見学?マジですか。
「それに本来の姿になってるせいでお腹が凄い空くのよね。量もいるから今から行っても無駄じゃないし」
どうやら狩りに行くことが決定したようだ。
祐也に拒否権の『き』の文字もなかった。
「そうと決まれば早くいくわよ!」
サーシアは走り出した。
体は疲れているが仕方ない。
祐也は走るサーシアの後ろを追うのだった。