第3話 魔法訓練
次の日の朝、サーシアが起きる前にご飯の用意をする。朝のメニューは昨日の鹿の残りでスープを作る。
暖めたスープを味見して溜息する。
スープはスープでも日本のように調味料がないため素材の味を生かしたスープである。
要は味が薄い。
一応手元にある食材を最大限活用したのだが、鹿と山菜ではどうにもならなかった。
日本で生きてきた祐也にとっては由々しき問題である。
「これからどうすっかな~」
自分の分のスープをのみながら遠くを見つめた。木しかないが。そういう気分なのだ。
ウグイスのような鳥の鳴き声に耳を傾けながらこれからのことを考えた。
とりあえず狩りができるようにならなくてはならない。魔法を使えるようになりたい。サーシアに恩を返さなくてはならない。
やることが多すぎる……
サーシアは生きるのに最低限の事は教えてくれるらしいので甘えることにしている。
ヒモになりたくはないのだ。
昨日の夜にわかったことなのだが、サーシアは祐也より歳上であった。
たとえ歳上でもヒモになりたくはないのである。
祐也がのスープが無くなったあたりでサーシアが目を覚ました。
昨日創ったミニチュアテントから出て来た。小人みたいだ。実際小さいのだが。あと寝癖全快である。頭が爆発しているとも言える。
寝癖を気にする素振りを見せず、眠そうに目を擦りながらワンピースを着る。
何それ、カワイイ。
勿論性的な意味ではない。
祐也は幼女好きではないのだ。
どちらかと言えばスレンダーで美人な人が好きなのである。
はいそこ!貧乳好きとか言わない!あくまでもスレンダーだから!ちなみにサーシアは貧乳である。
「あんた今失礼なこと考えてたでしょ!」
「ソ、ソンナコトアリマセン!」
棒読みである。
まさか超能力者だったのか。いや、魔法か?
どちらにしろ、サーシアを貧乳ネタでいじるのはやめた方が良さそうだ。
この空気を変えるために暖め直したスープを渡した。スープの量は祐也と同じである。
妖精種は体に比べたら大食いなようだ。その小さい体のどこにそれが入るのだろうか?謎である。それでいて出るとこは出ず、出ないとこも出ない。
素晴らしい直線具合である。
またサーシアに睨まれた。学ばない男なのだ。
「はぁ……もういいわ。それより今日からしばらく訓練するから!」
「お、おう」
「とりあえず今日は生活魔法一通りマスターして貰うわ!ビシバシいくから覚悟しときなさい!」
「お、おう」
サーシアの目が燃えてるように見える。目の錯覚だろうか……。
まさかの熱血スパルタ教師のようだ。
祐也は中学の体育教師の影響で熱血とスパルタって言葉に弱いのである。
中学で何があったのかって?……それは聞かないで欲しい。
サーシアの授業は座学から始まった。座学と言っても基本的な種類と使い方くらいだが。
「生活魔法には大きく分けて三つあるわ。一つ目は契約魔法。基本的には商人がよく使ってるわ。あとは、召喚魔法の契約とかもここに入るわね。二つ目は―――」
「ちょっとストップ。メモ取らせてくれ!一回でそれを覚えるのは無理だ!」
祐也は急いで昨日のペンとノートを取り出してメモをする。
「……続けても?」
「ごめん。続けて」
「二つ目は浄化魔法。これは簡単ね。体や物を綺麗にする魔法よ。汚れの取れ具合は魔力によるわね。あ、あと浄化魔法を使っても綺麗になった気がしないのが難点ね。だから体はお風呂で洗ったあとに浄化魔法が一般的ね。最後に三つ目だけど、これは既に使えるはずよ。管理魔法って言って自分の体調や状態異常、スキルとかが見れるわ」
「なるほど」
ふむ、全くわからん。管理魔法はステータスウィンドウのことだとして後の二つはなんだ?
契約魔法は地球でいうところの契約書だろう。ただし絶対に破れない。
浄化魔法?三種の神器とまで言われた洗濯機様が泣くぞ!
てか、そんな便利な魔法があるなら昨日使ってほしかった。酷い女だ。
まぁドラム缶とお湯を創って風呂には入ったのだが。能力様々である。
「あ、昨日言ってた次元倉庫?あれは何なんだ?一般的な魔法って言ってたけど」
「あれは生活魔法を出来るようになってからよ。生活魔法の発展系と考えといていいわ。じゃあ契約魔法からやるわよ。今から見本を見せるからしっかり見るのよ!」
「おう!」
サーシア指に光を纏うと空中で文字を書き始めた。文字は女神サポートによって日本語じゃなくても読めるようになっている。
空中に書いた文字は消えずに残っている。不思議な光景である。
一通り書いたところで手が止まる。
「ここに血を着けて」
言われた通り少し指を切って血を出し、契約書で言うところの印鑑を押す所を血を着けた。
何もないはずなのに何かを触った感触があった。
不思議な感覚である。
血を着けたあとしばらくすると文字が消えた。
「これで契約終了よ。これであんたは私に嘘が付けなくなったわ!試しに嘘をついてみなさい」
「俺はサーシアのことを巨乳だと思っている」
嘘を言ったとたんに転けた。
動いていないのにスルーンと転けた。
柔道で綺麗に技を掛けられた時と同じ感覚で心臓がフワッと浮いた。
「な、なんですって!私の胸は慎ましやかなのであって、断じて貧乳なんかじゃないわよ!」
慎ましやかって認めてる時点で負けであることにサーシアは気付いていない。
「あ、あくまでも巨乳とは思ってないだから!貧乳とかちっとも思ってないから!」
何故わざわざ怒られるような嘘をついたのだろうか?その理由は朝その事を考えてたからだろう。
人間急に嘘をつけと言われてもなかなかつけないものである。朝からサーシアは貧乳なんて失礼なことを考えていた祐也が悪いのだが。自業自得である。
勿論言い訳した後も転けた。
当たり前だ。思っていたのだから。
「ぐぬぬ……ま、まぁいいわ!私もあんたを騙して契約魔法を使ったようなものだから。ただ、イラッとしたから最初は解約するつもりだったけどするのやめるわ。つまり、これからあんたは私に嘘をつくことができないわ!」
変なところで弱味を握られてしまった。自業自得だが。
「いい経験だと思って、これからはしっかり契約内容を読むことね!」
「へーい。んで、どーやったらその契約魔法?使えるようになるんだ?」
「練習あるのみね」
「コツとかないの?」
「コツというよりは魔力を指に纏わせて文字を書くだけ、かな」
魔力を指に纏わせるねぇ~。
魔力が存在しない世界から来た住人に魔力云々って言われても分かるわけがない。
「まず魔力って何?俺の元いた世界にそんなものはなかったんだけど」
「魔力がないってどうやって生きてきたのよ?」
科学の力です。
この世界にも科学はあるのだろうか。
下手したら魔法オンリーで漂流者は魔法が使えないから能力を与えられたとかだったどうしよう!
祐也は忘れている。自分が管理魔法を使えることを。
「わかった、それも教えるわ。魔力は魔力生成器官と呼ばれる場所で作られていて、これを持ってない人はこの世界では生きれないわ」
魔力生成器官とかあるわけないだろ!
昔とったレントゲンにも写ってなかったし。
実はこのことも女神はしっかり説明していた。話を聞かない男である。
「魔法を使うには、まず魔法生成器官を理解しないといけないわ。少し荒い方法だけど我慢しなさい」
そう言って祐也の背中の方に回って手を当てる。
すると体の中に何かが流れ込んできた。
その何かは体の中心に向かっていく。心臓の辺りで止まり、自分の何かに入っていった。
この入っていった場所が魔法生成器官だと直感的に理解した。何故わかったのかはわからないが、そうなんだろうと思った。謎である。
「これが魔力生成き―――」
ここで祐也の意識は途切れた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ここは……」
「お、起きた。意識が飛ぶ程度で済んでよかったわね」
意識が飛ぶ程度って……。これより酷いことが起きるかもしれなかったのか。
喜んだらいいのか、悲しんだらいいのか
祐也は複雑な気持ちになった。
「普通は血を吐いたり、最悪死ぬわ」
最悪死ぬって、マジか……
祐也は素直に喜ぶことにした。
ちなみにサーシアを責めるという選択肢は最初からない。あくまでも教えてもらってる立場なのだから。一言言って欲しいくらいはあるが。
「でもこれで魔力生成器官についてわかったでしょ?」
「不思議な感覚だったけど、多分わかった」
飛ばされてからというもの、不思議な感覚のオンパレードである。
言い方が古い?さいですか。
「よし!じゃあ特訓再開よ!」
「おう!」
まず目を閉じて魔法生成器官を意識する。魔法生成器官は糸玉のようなイメージだ。
自分の体の中にある糸玉。それを解いて腕に伸ばす。次は手、最後は指。
「成功ね」
目を開けると自分の指が光っていた。
某SF映画みたいである。昔真似してライトで指を光らせたのを思い出した。
「おお!」
祐也は試しに日本語で書いた。
内容は祐也の生活に協力する事。
下衆である。わざわざ読めない日本語で書いて協力を取り付けようとしたのだ。こっちの文字は読めるが書けないというのもあったが。
だが祐也の思惑は砕けちるのだった。
「読めないのに契約をするわけないでしょ」
正論だ。反論の余地もない。
契約が成立しなかったため書いた契約文が消えた。
「これで契約魔法は使えるようになったわね。管理魔法の魔法欄を見てみなさい」
祐也は言われた通り魔法欄を見た。
魔法
・契約魔法
契約魔法が増えていた。
魔法が使えるようになったおかげでMP的な概念?と言えばいいのだろうか。後どれだけ魔法が使えるのか分かる気がした。
「新しく魔法が使えるようになったら魔法欄が増えていくから。一度使えるようになったらかなり楽になるわよ。試しにやってみなさい」
契約魔法を発動するために魔力を指に纏わせた。
一度目よりもスムーズになっている。いちいちイメージしなくても発動できるというのは楽だな。
「次は浄化魔法ね!ぱぱっとやるわよ」
「ちょっと待って欲しい。あの……昼御飯は食べないのか?」
太陽は祐也たちの真上まで来ていた。
講義やら特訓やら気絶やらで結構時間がたっていた。最後の一つは物騒だが。
「お昼にご飯って、どこの貴族よ。そんなものあるわけないでしょ」
「ま、マジですかぁ~」
ガクッ。祐也は膝から崩れ落ちた。
言っては悪いがあの粗食で二食っていつの時代だよ……。
調味料なしで山菜、肉、水でできたスープと焼き肉で二食では、現代日本で育ってきた人は満足できないだろう。
異世界行きなのだからある程度覚悟していたとはいえ耐えられなかったようだった。
祐也は決意した。町に降りたら調味料買いまくって美味しいご飯を作ろう、と。
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとやるわよ!」
「へーい」
「次は浄化魔法ね。契約魔法より難しいわよ。じゃあ見本を見せるから。“浄化”」
魔法を発動すると頭の上あたりがキラキラした。そのキラキラは下に降りてきて体が綺麗になっていった。
キラキラが無くなるとサーシアの肌はツルツルになっている。着ていた服も新品みたいにピカピカだ。
……本気で洗濯機要らないな。
「こんな感じね」
「……何かこう、ない?」
「うーん。変身するイメージ?」
変身するイメージって。
確かに魔法少女の変身シーンみたいな感じだったけど……って男で変身とか誰得だよ!
実際は変身しない?さいですか。
「とりあえずやってみる」
魔力生成器官から魔力を全身に巡らせて放出する。
……何も起きなかった。
「やっぱ無理か~」
「これに関しては挑戦し続けるしかないわ。これができるようになったら次はお待ちかねの次元倉庫だから。頑張りなさい」
「次は次元倉庫……ゴクリ」
現金な男である。
よーし!アイテムボックスのために頑張りますか!元気百倍、やる気千倍だ!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「まだやってたの」
「はぁ、はぁ。アイテムボックスの、ために」
すでに日は暮れて今は夜だ。
サーシアは狩りに行っていた。
その間も練習していたのだが、なかなか上手くはいかない。
イメージとしては定まってきたのだが、何か足りない気がする。
「訓練はその辺にして解体の時間よ」
今日の獲物は四匹の兎だった。何故うさぎ。
良心が痛む!美味しいらしいけど。
サーシアに文句を言われながら解体は進む。
解体の仕方は鹿と殆ど同じだった。二回目とはいえやはり慣れない。
吐き気を抑えながら解体を進めた。
内臓は別にわけた。サーシアは内臓が好きならしい。
今回も変わらず食欲が無くなった。一日二食なので、もちろん食べたが。
食事を終えたあとドラム缶風呂に入りながら魔法をについて考えていた。
祐也は浄化魔法を使えるようにはなっていた。だが、本来の性能ではない。そのような気がしていた。
魔力量的にもっと綺麗になるはず、とサーシアも言っていた。
何が足りないのだろうか……。
どれだけ考えてもわからなかった。
このまま風呂に入っていても埒が明かないし、逆上せるので上がった。
新しく服を創って着る。
寝ようと思ってテントに入ったら着ていた服が散らばっていた。
浄化魔法が使えないから洗えていたなかった。
洗濯機があれば便利なんだけどな……。
「洗濯機……」
浄化魔法のキラキラに洗濯機のように回転を加えたらどうだろうか?それにほら、魔法少女の変身シーンってくるくる回ってるし。
物は試しだ。
「“浄化”」
頭にキラキラが集まり、祐也の体を回転しながら下に降りる。
気分は皮を剥かれているリンゴだ。シュルルルーって感じ。
キラキラが消えて体の汚れを確認する。
前よりも綺麗になってる……気がする。
回転の速さを変えたりしたら、効率が上がりそうだ。
この後、浄化魔法の使い過ぎで魔力切れを起こして気を失うのはまた別の話である。
書きためが無くなった……
3日に一回の更新を目指します