中仁のバイト事情
「ああ、暇だ」
という、なんでもない一言にサクラが「そうね」と答える。なんせ今日はサクラの実家のお店にしてはめずらしく閑古鳥が鳴いている。べつに人が全くいないわけではないが客も高齢者が多く将棋や囲碁に熱中していてコーヒーのおかわりも一時間に一回ぐらいだ。
「こんなに暇なことってあるんですね」
とバイトの後輩であるゆうちゃんが話に参加する。
「そういえばゆうちゃんって何回生?」
「四年生の二回生ですね」
「じゃあ、今が楽しい時期だ」
「それがそうでもないんですよ」
「そうなの?」
意外だな。少し落ち着いた茶髪のショートヘアにサバサバした雰囲気で接客も明るくて人当たりもいいからそんな風に見えないや。
「うちの学科にいるパリピがうるさくて」
なるほど、しっかり授業を受けたいのにそのパリピのせいで集中できないと。確かにそれは深刻な問題だ。それで学校が楽しくないというのは至極当然な話だ。
「それは大変だね」
「そうなんです、大変なんですよ。あいつら、バカみたいなトーンでスマホゲーの話しやがって。そんなに好きなら二次元に永久就職してろ、現実から消え去れ、笑い方キモイんだよ!」
「おっ、おう……」
まあ、いるけど。電車の中で大音量でしゃべって「ざまあーwwwww」とか「おいっ、ちょおまっ」って言っている人。
いや待てよ、なんか俺の知っているパーティーピープルとなんか違うような。
「あのぉ、念のために聞くけどゆうちゃんのパリピのイメージってどんな人?」
「どんな人って…それは…。当然月二万以上スマホアプリに課金して徒党組んでダンジョンかミッションかは知りませんけど四六時中もぐっている人たちのことでしょ」
「いや、違うよ!」
「へっ?」
「『へっ?』じゃないよ。それパリピじゃないよ!いや、たしかにパーティーで行動してるけどそれ絶対一般的なパリピの逆位相の人だから、オタク系でも少し白い目で見られるイキリ系オタクだから」
「へー、そうなんですね。それはそれでかわいそうにせっかく大学デビューしたのに男子高校生のノリでしか明るさを表現できない人たちだったんですね」
「やめて、そんな残念な子たちを見るような眼で俺を見ないで」
「これは失礼しました。そうですね、中仁先輩は少なくともい……いえなんでもないです」
「おい、今なんて言おうとした」
「……」
なぜに目をそらす。
「よし、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「いえ、本当に何もないですよ」
「ゆうちゃん、目を見て言いなさい目を」
「……」
少し間をおいてからようやく口を開いた。
「いやー、中仁先輩詳しいからそっち側の人なのかな…って」
「いや、違うよ」
「ああ、そうなんですね。それはすいませんでし…」
「というか、むしろどこまで行っても落ちていく底なし沼に片足突っ込んでいるのにあらがって浮上しようとしている連中を憐れみながら沈んでいっている途中だから」
「そっ、そうなんですか!すいません、よくも知らないで好き勝手に言ってしまって。あの、その、お願いなんでそんな人を闇に引きずり込む悪魔みたいな目で見ないでください。ほんとっうに反省しているのでごめんなさい」
「大丈夫だよ、あれでしょ。ツンデレ的な気になって仕方ないけど手を出す勇気がないって感じだよね。大丈夫だよ、うまくいけば見た目じゃわからないサクラみたいな感じになるから。失敗しても一眼レフを持ち歩いて大量の缶バッチがリュックについて声だけで二次元と三次元を行き来するだけだから」
「それ、大丈夫な感じがしないんですけど」
「大丈夫大丈夫、すそのは広いから。ちゃんと、新刊本を書店に予約して買うようになるレベルで止まるように先導してあげるから。まずはこの動画を見なよ」
「いやぁぁぁー!」
色々教えるのがめんどくさいので手っ取り早く「く〇○○病」に感染させました。




