家族の話2
さてさて、なつき君とよくわからない運命を引いてくる神様に文句を言いたいがそろそろ姉の話をしないと何かしらのクレームがきそうだ。
誰かからはわからないけど…。
僕の若いほうの姉ーー「旅人」のほうは変わり者である。
もちろん、定職もつかず日本中をぶらぶらしているのは我が姉ながらどうかとは思う。だけど、それすらも許してしまえそうなのが彼女なのだ。
そして、彼女の一言一言はゆっくりと深く、まるで毒のように、もとい薬のように染みこんでいく。
彼女の言葉は
哲学的で、文学的。
詩的で、素敵な。
でも、真理に迫り、
核心をつき、
時には嘘をつき、
人を納得させる。
たった一言で人を変える。
そういうあ……
「あぶねっ!!」
目の前を静音に定評のあるハイブリットカーが猛スピードを通り過ぎていく。猛スピードって言っても法定速度内だけど。
だから、今のはこっちが悪い。
やっぱり、イヤホン聞きながら歩いて、さらに考え事はダメだね。危うく死にかけた。
もしかしたら、クラクションを鳴らしてくれていたのかもしれない。もしそうだとしたら、運転手に感謝しないと。
まあ、命拾いしたのだから今日は充実して過ごさないと罰があたりそうだ。
とりあえず、周囲を見渡す。
誰もいない。
じゃあ、いつも通りやるか。
「ああ、世界はほら 悲しいほど 快晴で」と外に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で歌う。
間違いなくこんなところを見られたら変人だと思われるな。最近はいくら日本でもやばいやつがたくさんいるからな。
変わっていると思われるのは別にいいけど、薬物やってると思われて通報とかは嫌だもんな。
「相変わらず、人がいないと思ったら歌うのね。しかも、曲は二年前から一緒だし」
気がつくと横にサクラが立っていた。
アサシンかよ。
怖いわ、急に話しかけんなよ。
「好きだからね」と何事もなかったように答える。
「理由になってないし。というか、JAZZもクラシックもEDMも聞くのにこういう時はJ―POPなんだ」
よくわかってらっしゃる。
「本当に変わらないよね。軽快にいきたいときはJAZZ、ノリノリでいきたいときはEDM、しっとりいきたいときはクラシック。何もない時はJ―POP」
本当に知られすぎて怖い。
いや、その話はしたよ。大学の部室でしたけど覚えてないよ普通。
「まあ、唯一訂正する箇所があるとすれば、歌が邪魔な時もクラシック、ストーリーを考えたいときはJーPOPかロックね」
「その感覚だけは何年たっても理解できないわ。歌が邪魔になるとかいう人が自分の作品のストーリー考えるときに歌聞いてしかもオリジナルを考えられることが信じられないわ。頭の中どうなってんの、デュアルコアなの?」
そんな、一台二万円のパソコンにつまれているCPUと同じにされても困るけど。なんだったら、いまのスマホのほうがいいのつんでるよ。
それから、デュアルコアは同時並行処理できるっていう意味じゃないから。
「でっ、今日は何すんの」
「それはねえ」ともったいぶるように言う。
「本を大人買いする」




