レスティングガールズ
「はあ……練習つかれた」
「だね」
「うん疲れた」
めずらしく忍が喋った。
しかも、アイスを食べているからずっとシャリシャリ音を鳴らしている。
「いやあー、でもびっくりしたよ。隣のコート見たら忍がバトミントンしてんだもん」
「卯月、バトミントンじゃなくて。バドミントンね」
「あれ?そうだったっけ。まあ、細かいことは気にしない気にしない。ねえ、それよりも忍ちゃん。それ何食べてんの」
「これはシャリシャリ君のスイカ味。季節感を出してみました」
そういうと、忍ちゃんはピースする。
(意外とおちゃめなところがあるんだ)と少し感心した。
マチみたいに人見知りをするタイプなのかもしれない。
「ああ、アイスか。あたしも炭酸にするんじゃなくてアイスにすればよかった。クーラッシュのメロンソーダあったのに…」
「実はここにちょうどいい感じに溶けたクーラッシュが1つ」
「ああ、さすが神様、仏様、忍様。はい、120円」
「残念、コンビニ価格で140円です」
「ええーっ、ケチ」
「等価交換だから」
すると、卯月は仕方ないなといいながらさらに二十円払った。
「んーっ。やっぱり、練習の後はアイスだねー」
コンビニに行ったとき、「練習の後は炭酸ジュースだ!」って豪語していたのに炭酸への忠誠心はいずこへ行ってしまったのか。
「ん?あれ、ナッキーとメイじゃない」
卯月の指さしたほうに目をやるとそこには確かにメイとなつき君がいた。
「ねえ、追いかけてみようよ」
「やだよ。ストーカーみたい」
「いや探偵みたいで面白いと思うけど、まあ来ないならいいや。行こう忍ちゃん」
そういういと、二人は走って行ってしまった。
まあ、面白そうだからついて行ってみようか。
○
「うーん…何いってるか聞こえないなー」
「しょうがないでしょ。これよりも前に行くとさすがにバレちゃう」
すでにしびれを切らし始めた卯月をなだめてみたもののせめて声の聞こえる範囲にというのは同意したい。
「ねえ、忍ちゃん。もう少し前に行けない?」
「だめ。これ以上前に行くとなつきにバレる」
なつき君はエージェントとか何かなのか。まさか、そんなことはないだろう。
そう思って一歩ふみだしてみた。
その瞬間、さっきまで普通にメイと会話していたなつき君が怪訝そうな顔で私たちが隠れている壁をじっと見つめた。
「だから、だめだって言ったじゃん」
忍ちゃんが少し怒り口調で抗議した。
「ごめん、まさかあんなに鋭いとは思わなくて」
いまだに、心臓がバクバクいっている。一瞬だったとはいえ蛇ににらまれたカエルの気分だった。
「あっ、逃げた」
「えっ?うそ!!」
「もう、葉月は大事なときにやらかすなー」
そういうと、卯月と忍は走っていってしまった。
二人の後ろ姿を少し見ていたがすぐに豆粒ぐらいのサイズになってしまった。
もともと、足はあまり早くないから追い付く気もしないけどそれ以上に走ろうという気にもならなかった。
「はぁー、帰ろ」




