全員集合
「ただいまー」とできるだけ明るく言ってみたものの部屋は静まり返っていた。
玄関からリビングまでは廊下でつながっていて一直線になっている。その廊下とリビングをつなぐ扉から負のオーラみたいなおどろおどろしいものがあふれていた。
卓也となつき君もそれを察してか俺の後ろに張り付いている。ようは「お前が先に行けよ」という意思表示だ。
そうされては原因の一端がある俺が先に入らないわけにはいかない。
「ただいま。ごめん遅くなって」
「おっす」「おじゃましているわ」と先生二人しか返事が返ってこない。残りの生徒たちは全員撃沈していた。
「えーっと…これはいったい…」
「お腹がすきすぎて勉強したくないそうです」
さいですか。
「じゃあ、すぐに準備するか」
「やったー」
姪が満面の笑みでバンザイをする。
「元気じゃないか」
「私だけだけどね」
「真剣にやってたらそうはならないと思うけどな」
「私は効率重視なので」
姪はなんだか得意げに言う。
「そうですか。もし、効率よくやってるんじゃなくて省エネ運転で点数が悪かったら知らないけどな」
「ううっ…単語覚えてきます」
姪にしては殊勝な心掛けだ。
「何か手伝いましょうか?」
「いいよ。ゆっくりしてて」
なつき君は「すいません」といってソファーにむかう。俺は時間が気になったので時計を見た。時間は19時だ。
人数が人数だけにご飯は二度だきでカレーはどんなに頑張っても一時間ちょっとはほしい。
姪、つまり神田メイは勉強もスポーツもそこそこ悪いけれども、容姿と空腹、特に空腹においては右に出るものはいないんじゃないかと思えるほど、強い。耐久力が半端ない。
つまり、中学生になってもなお、遊んでいて気がついたらおなかがすいていたということを平気でおこせる人間である。
しかし、よくよく考えれば中学生になって大人の階段を順序良く上っている中学生の大半が空腹耐久力に優れているわけではない。これは、姪と暮らした続けたことによる弊害の三つのうちの一つだということにいま気がついた。
あれこれ考えても、カレー用の材料しかないのであきらめるしかない。
ピンポーン
ちょうどいいタイミングでインターホンが鳴る。最後の一人が到着した。
玄関まで迎えに行き「いらっしゃい」と言って扉を開けた。
「ごめん遅くなって。お父さんたちがあれ持って行けこれ持っていけってうるさくてすごく時間がかかっちゃった」
「いいよ。ちょうどこれから作るところだったんだ。」
「ということは、まだ食べてないんだ」
彼女は「よかった」と言って安堵の表情を見せた。
それから彼女は「はいこれ」と言って袋一杯につまったパンを渡してくれた。
これで全員集合した。
次から週一にして長めに書いていきます。




