姫と僕
中仁さんが殴られてから時間がたちもう夕方になっていた。
全力パンチだったので生駒さんにこっぴどく叱られていた。
それが気に食わなかったのか反省したのかはわからないけど、泣きながら部屋に泣きながら行ってしまった。そこからは、ずっと部屋から出てこない。ほんとはずっと声をかけて慰めてあげたいけどテスト勉強をしないといけないので合間を見ながらときどき声をかけた。
何度もトライし続けているものの反応がない。
ちょうど、勉強会が終わったので今は部屋の前に座り続けている。
「姫、いい加減出てきてくださいよ。中仁さんも怒っていないですし、生駒さんも帰りましたよ」
「…」
扉越しに話しかけてみるも、さっきから返事がない。かれこれ、三時間はこの調子だ。
困ったし、もう疲れてきた。
さすがに、廊下に一時間も座り込んでいたら体のあちこちが痛くなってくる。
「反応がないとわからないですよ。姫、寝てるんですか?それともすねてるんですか?まあ、寝てるならいいですけど。こんな時間に寝ているのは幼稚園児か赤ん坊ぐらいですけど」
ガチャッ
扉が少しだけ開いた。その小さな隙間から僕を見ている。
「寝てないし…」
「なら、返事をしてくださいよ」
「やだ」
即答である。
「僕ここに三時間も座ってたんですけど」
「部屋に入ってこればいいじゃん」
「女の子の部屋に勝手に入るほどデリカシーのない人間じゃないです」
「男の娘なのに?」
「女装趣味はないですけど…」
「ふふふっ」と姫が笑う。それにつられて僕も「はははっ」笑う。
やっぱり、姫は笑っているほうがいい。
姫は覚えていないかもしれないけど。あの日、秘密結社にきたその日に見せてくれた笑顔で僕は…。




