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コーヒーの時間

サクラの実家である喫茶店には優しい人が多い。それも、あってかお客さんもいい人が多い。

たまに怒りっぽい一見のお客さんも来るがサクラのお父さんが淹れるコーヒーを飲めば温泉に浸かっているかのような顔をして黙りはじめる。

僕たち従業員はそれをいつからか極楽コーヒーと呼んでいる。

当然、お客さんはこの極楽コーヒーを目当てで来る。はずなのだがーー

「えっ、店長がダウンした?」

「なんか食べあわせが悪かったみたいでさっきまでは元気だったんですけど」

と、ゆうちゃんは苦笑いで答えた。

「じゃあ、誰がコーヒーを淹れるの?」

「一応、サクラさんには連絡しました。帰りがけだったらしくて30分ほどで帰ってくるそうです」

「よし、じゃあその間にお客さんが来ないことを願おう」

「それはそれでどうかと思いますけど祈るだけ祈っておきましょう」

カランッカラン

キター!!

どうしようどうしよう。常連のおばあさんが来てしまった。

「先輩頑張ってください」

「グッじゃねぇよ」

しかし、常連さんをないがしろにするわけにもいかない。一応、断ってみるか。

「あっ、あのぉ……」

「ホットコーヒーを1つ」

「はい、かしこまりました」

 断れなかったー!

どうしよう、ホントにどうしよう。

「先輩…」

 ゆうちゃんが少しうつむきながらもじもじしている。もしかしたら、この状況を心配してくれているのかもしれない。

「断らなかったのは先輩の責任ですよね。ガンバ」

 満面の笑みで言った。

 満面の…笑みで言った。

 落ち着けー大丈夫だ。大丈夫。何回もやったことあるし大丈夫だ。そうだ思いだせ、あのポテチを1週間分削って買った豆でカフェオレを飲み続けた日々を。

 あれ?そういえばブラックでは一度も飲んだことがないような……うんないな。どうしよう、ああもう思い出すんじゃなかった。誰だよ、思い出せとか言ったやつ。

 ああ、俺だ。なんで今なの、出す前に思い出さなくてもいいじゃん。そりゃ、出した後に思い出すよりはいいけどさ。なんか忘れたころがよかったわ、家でぼーっとしてる時にそういえば…みたいな感じでいいじゃん。やる気も出てさらに効果アップだよ。

 なんで今かなーなんで…

「どうぞ、こちらホットコーヒーでございます」

「あら、ありがと」

「ごゆっくりどうぞ」

 あれ?いつの間に、いつの間に終わったんだ。一通り、やったんだよな。だって、コーヒー出したんだもんな。

 もう、出しちゃったものはしょうがない。そりゃ、味が違うのは当然だ。さすがに誰でも気づく。でも呼び出しを食らうことはないよな。

「あの、男性の店員さん」

 呼ばれた、たった数秒で希望が打ち砕かれたー!

「はい」

「今日は、店長さんは?」

「実は体調崩してまして…」

 怒られるの、もしかして怒られるの。

「ああ、なるほど。納得がいったわ、あなたが淹れたのね」

「はい…」

 大噴火か、アルマゲドンかグランドゼロか。

「いつもより、マイルドで私こっちのほうが好きだわ」

 ほっ、褒められたー。

「この調子で頑張って頂戴ね」

「ありがとうございます!」

 こうして、店長ぶっ倒れ事件は幕を閉じた。

 少し残っていたコーヒーがあったので飲んでみたが店長とは比べられない程おいしくなかった。

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