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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者逃亡シリーズ

勇者は平凡を望む…

作者: Rui



『勇者よ!魔王を倒した暁には…我が娘を嫁にやろう』



全ては、この言葉がきっかけだった。

何故、何故、その言葉でやる気を出してしまったのか…

あの時に戻れるのならば…命の限り全力で阻止するだろう


今思えばあの時国王が…うっすらと涙目になって遠い目をしていたじゃないか

将来を思い描き、妄想ワールドを展開していてスルーした事が悔やまれる


あれは…俺に対する哀れみだったのか!国王!



『ねぇ、大丈夫?』


鈴を転がすような声で俺の袖を引っ張りながら、首を横に曲げて俺を上目遣いで見上げる

まるで天使が舞い降りてきたかなような顔立ちで

出るべきとこは出て、出てはいけないとこはちゃんとおさえてるナイスボディー

しかも回復魔法の使い手とくれば

男なら一目で心奪われる…外見だけは超1級な美少女

“リディア = コルタコフ第1王女様”



『おい!大丈夫か!』


そう言ってミシッと肩を後ろから掴んできたのは…

ん?肩が痛い!関節外れたぞ多分!なんて馬鹿力なんだ!

うっすら涙目で睨みながら肩を擦りながら元に戻す


『団長!何するんです!痛いじゃないですか!』


『大した事ないだろ?ボーとしてて心ここに在らずな感じがしたからな、心配しただけだ』


熊みたいな巨体で大口開けて笑ってる…脳ミソが筋肉で出来ているであろうこの人は

“ヴィクトール = エラギン騎士団長”王国1強い剣士

平民から騎士爵にのし上がった叩き上げだ




『こんな敵前で散漫しとったら危険だぞ』


気配なく後ろから声をかけられる

あれ?今さっきまで目の前にいたような…いつのまに…

気付くといつも背後にいたりする


『魔法職は後衛、しかも儂もか弱き老人だからの…若者に守ってもらわんとな』


とは、この爺さんの言葉だ。確か100才間近とか…いつも気付くと気配なく背後にいたりする、実は幽霊だったりする?なんて思わなくも…


『だれが幽霊だ!足ならちゃんとあるぞ!』


ご立腹にいい放つその姿が怖い…声に出してもいないのに…心が読める?本当に人間なんだろうか…普通心て読めないよな?


『勇者がしっかりしなくては、魔王は倒せんぞ!』


そう言ってくるこの爺さんは

“ワディム = チェルノゴロフ元宮廷筆頭魔術師”

外見はその辺にいる年寄りと変わりがない、だがしかし!

簡単にポキッと折れてしまいそうな細すぎる、少し腰の曲がった身体でいつも微笑みを、物腰の柔らかいその態度に舐めてかかると痛い目をみる事になる。肉体的にも精神的にも…

爵位も大公と…そんな人間がか弱き老人であるはずがない


俺と、そんな濃いパーティーメンバーの4人で討伐の旅に出た

今は魔王城と目とはなの先にいるが…あまりの現状に一瞬現実逃避をおこして固まっていたらしい、何故ならば…


一面に広がる魔族達の死体の山…魔法を使わずにいたのならもっと酷い景色になっていたに違いない…

魔法で塵も残さず消滅させていたからな…

思わず遠い目にもなるもんだ…


魔王城直前で、四天王のその1とその配下の魔族達が立ちはだかった


『よくぞ来たな!勇者達よ!我こそは魔王軍四天王が1人、アー……』


スパーンと勢いよく首が飛びましたよー

四天王の首が!

アーなんだろ?せめて名乗りくらいはする間待ってやれなかったものなのか…四天王なのに登場して瞬殺…

そんな事をやらかしたのは脳筋事、ヴィクトール団長で


『四天王?その割には柔な奴だったな!きっと四天王1最弱に違いない!』


本人はそんな事を呟いていたが…

竜人といえば…体を覆うその鱗は何よりも固く、なおかつ魔法耐性も強く魔法が効きづらい

最低限オルハリコンの武器を使用しないとかすり傷すら負わせられないとか…

手にもつその剣は、ただの銅の剣ですよね?

それで竜人相手に首飛ばすとか…伝説の聖剣とかじゃないですよね、寧ろ聖剣なら俺の右手にあるけれど…貴方が規格外過ぎるだけです

だってほら…大将を殺られたはずの部下の竜人達が、怒り襲いかかってくるどころか…引いてる確実に!ビビってやがる!ただの銅の剣で瞬殺されるとは思ってもないよな…


ブァーと一面に炎が見えたと思ったら、竜人達が次々と斬られ燃え始めた…団長に続いて動いたのは、魔法使いのワディム様ではなく…

短剣を魔法で炎剣に替えて勇ましく斬りかかったのは…姫様だ


『あら?竜人とは魔法が効きづらいと聞いたのだけれど、意外と大丈夫なようね!色々と試してみたい事があるの!』


小さな子供が新しい玩具を発見した時のように目をキラキラとさせて微笑んでいる

貴方は…回復サポート要員だったのでは?

何故、短剣から赤黒い塊が発生して伸びて普通の剣の長さになり、振るうと炎が出るのか…

魔法剣士、その呼び名が一番相応しいかもしれない…

斬る時の顔が今まで見てきた中でも一番満面の笑みだったのを…見なかった事にしたい…姫様像が崩壊していく…

国民の憧れの的、清廉潔白なイメージの姫様はいない…いるのは…ただの戦闘狂だ…よくぞ今まで隠し通してきたものだ

王様の苦労が目に浮かぶ…


魔王を倒したら?あれ?あれを嫁に?イヤ、どう考えても無理だ!そんな勇気は俺にない!一生涯尻に敷かれる姿しか見えないなんて嫌だ!

ホラ!竜人どもも姫様に戦慄を覚えてるじゃないか!

自分とこの大将を瞬殺した団長よりも姫様を怖がってるぞ!


ドゴーンと竜人達の背後から炎の柱が上がった。今ので1/3は葬ったのではないのか?

勿論、そんな芸当が出来るのは1人しかおらず…


『なんじゃ…竜人とはこんなにも脆いものか?』


そう呟いてため息をついたのは、魔術師事、ワディム様

一番の最強てこの人じゃないのか?

敵が弱すぎてため息つくとか…通常竜人1人相手に最低限10人は必要だという…竜人が弱いわけじゃない…貴方が規格外な人としての領域を越えてるだけです



何この規格外な集まり…

俺必要?いらないよね?俺、あの3人の足元にも及ばないよ?

戦士、魔法使い、僧侶(魔法戦士)のパーティーで魔王倒せるよね?

パーティー組まなくても各自単独でいけそうな気がしないでもないよ?俺なんでこの人達とパーティー組んでるの?S級ランクの英雄パーティーに駆け出し冒険者のFランクが混ざった感じだよ!俺荷物以外の何物でもないだろ!


勇者と言っても、つい10日前まで城で働く下級文官の見習いだったのだから!


10日前…王家に伝わる伝説の聖剣をうっかりと触ったのが運のツキ…

魔王が300年振りに復活したとかで、勇者選定の儀式があった

勇者は聖剣が選ぶ、聖剣を手にとると選ばれし者なら聖剣が光るらしくて

国中から色々な人が集められて聖剣に触れていく、1日じゃ足りないから数週間に渡って儀式をする予定だった。だったハズなんだ…


雑務に終われヘトヘトになりながら日々を送っていたあの頃

日々の癒しは、女性の先輩文官が入れてくれる甘い紅茶だった


『アルス君はお砂糖2つよね?はい、どうぞ』


そう言ってニッコリ微笑んで紅茶を差し出してくれる、同じ平民出身のメーリー先輩、特別美人な訳じゃない、華があるわけじゃない、どちらかと言えば地味な部類だろう

でも、その眼鏡の奥に潜むとても温かい眼差しに俺は癒されていた。先輩が入れてくれる紅茶を飲むと…日々の残業でヤられた体と頭と心の疲れがぶっ飛ぶんだ。癒しの女神と日々心の中で思っていた。だからそんな女神様のお願いを断るすべはなく


『紅茶を飲み終わったら悪いけど…これを届けてもらってもいい?』


お使いを頼まれた帰り道、ちょうど儀式の間の前を通ると、見張りの騎士が同期のやつに代わっていた。


『よう!アルス!こんな時間まで残業か?文官は大変だな、俺は今夜は夜勤で今来たばかりなんだ』


『騎士はいいよな…時間がキッチリ決まってて…文官のほうは手が足りなくてデスマーチだよ!俺も騎士目指せばよかった!』


『俺らだって一度戦いが始まれば時間なんて関係ないぞ?しかも命の保証すらない、文官のほうが命の危険がない分羨ましいけどな…そうだ!アレ触ってみるか?光ればお望みの騎士どころか勇者様だぞ!』


『おいおい!勝手にいいのかよ?』


『大丈夫だって!もう一人の見張りは、気がいい奴だから誰にも言わないし、気分転換にどうだ?』


そんな事をふざけ合いながら、悪ノリに乗ってしまったのが間違えの元だった…恐る恐る触ったら…ピカッーて光ったよ!

部屋から漏れだすくらいに黄金の輝きを放って!


『これで光ったら俺勇者だな~』


なんて能天気に笑ってた自分を殴りたい…


即確保されました。その足で王様の所へ連れていかれましたとも

何?何のドッキリ?嘘だろ?俺はしがない平民で下級文官の見習いでしかないのに…こんな、王座の間になんか来たことないし、そうそうたるお偉いさん達に囲まれるなんて1度も体験した事なんてない

何でも、聖剣を持って魔王討伐の旅に出ろとか無理難題言わないでもらえます?

こっちはまともに剣なんかもった事なんてないし、魔法だって使えない!適正ないから!体も色白な貧弱もやしなんですよ!

女性から『どうやったらそんな陶器のような白さと美しい美肌を保てるの?』なんて言われちゃうくらい貧弱なんですよ!

仕事が忙しくて髪なんて切ってる暇がないから、伸ばしぱなしのいつのまにか肩まで伸びた髪のせいで女に間違えられる事もしばしば…

え?訓練をすれば大丈夫?

あの“戦慄の魔導師”“人外の悪魔”の2つ名を持つあの方達が指導すると?

それ…旅立ち前に天に召されますよ!まだ死にたくないです!

まだ親孝行も出来てないし、まだ若いのです!これからあんなことやこんなことも…え?回復サポートに姫様が付くと?

あの、空から舞い降りてきた女神様のような姫様が?国中の憧れが?俺の為に!しかも魔王倒した暁には姫様を嫁に出来ると?


『精一杯頑張らせてもらいます!』


何であんなことを言い切ったのか…

まずは基礎を叩き込んでから旅立つと、みっちりと特訓と言う名の地獄の拷問に耐え、どうにか最低限の基礎だけ合格ラインに立てたのが1週間、後は道中鍛えられるらしい…

何度御花畑と川が見えた事か…きっと姫様は蘇生魔法が使えるに違いない…そのまま召されていたほうが幸せだった気がする…


それから3日で魔王城目前に来て、四天王のアーなんとか?とその部下達に遭遇したんだ。


そんな事を思い出しながら…現状を遠い目をしながら現実逃避していたら、姫様から『ねぇ、大丈夫?』と声がかかったのだ。


寧ろ大丈夫なほうがおかしいと思う…そんなかわいらしい仕草と声で話し掛けられても…戦闘狂の姿を見ているのでちっともときめかない…短かったな…俺の淡い恋心


『俺帰っていいですか?』


勿論そんなのが許されるわけもなく…何故なら魔王は、聖剣でしかトドメはさせないらしく、俺がいないと困るらしい

劣等感の塊と化している俺が帰りたくなるのは仕方ないと思う

気持ちだけは分かって欲しい…


それから俺の出番は魔王のトドメをさすまでなく…


斬っても生えてくる体に、人とは思えない悪魔の微笑みを浮かべ返り血を浴びながら斬りまくる団長のほうがよっぽど魔王らしく思ったのは秘密だ。


色々な魔法を、時には違う属性を掛け合わせながら斬りつけ体内で爆発させながら…こっそりと回復魔法をかけたり、うん。最高の玩具をすぐに壊したくないだけだよな?きっと


回復魔法が掛かって魔王本人びっくりしてるぞ!

普通、戦闘中に敵から回復魔法掛かるとは思わないよな…その意図に気づいて姫様に戦慄してるぞ魔王の奴


ん?魔王の後ろから黒い煙みたいな…いつの間にか魔王から少し離れた後ろにいたワディム様は…魔王の魔力を吸い取っていた…オイ!

しかも少し若返っているような…人として越えてはいけない領域を絶対に越えてるよな?


『流石は魔王!魔力量も多いいが味も美味ぞ!さて!儂もたまには暴れるかの!』


ニコニコと肌をテカテカとさせながらご満悦な様子…

あ!魔王が魔法使えなくなって焦ってる!魔力全部吸いとったのか…何てえげつない…その事に気づいたのか魔王が涙目になってる…

魔王ってかなり凶悪な顔してるハズだけど…生まれたての小鹿に見えるのは何故だろう…


そんな魔王が涙目で俺を見つめるんだ。


『頼むから殺してくれ!』


目が切実に語ってる、腹を空かせた狼の集団に囲まれた

生まれたての小鹿て感じだもんな…

まさか…魔王に同情する日か来るとは!

そんな人外どもに囲まれてさぞかし怖いだろう…安心しろ魔王!俺がお前を助けてやる!


そして俺は聖剣を振るった…


トドメを刺されて灰と化して消え行く間際魔王が

涙目でうっすらと微笑んで


『勇者ありがとう…感謝する』


そう呟いたのが聞こえた…

魔王よ!次は人として生まれ変わってこい!

お前となら友達になれそうな気がする…何故だかとても魔王に親近感を覚えてしまった。目から汗が流れ落ちた気がするのは…気のせいじゃないだろう


勝手にトドメをさした事に人外どもが怒っていたが何とか宥め…

こうして俺達の旅は終わった。


国へ帰り…凱旋パレードでは、平和の持続がもたらされた事を喜び祝い、街中お祭り騒ぎで賑わいを見せた


パレード中黄色い声援が飛び交うが…素直に喜べない

俺のした事は魔王にトドメをさした事だけだからな…



国王様から…姫と婚姻を結び時期国王にならないかと打診がきたが…命に替えてみせても、全身全霊で回避に逃げだそうとしたり…


何故だか…魔王が本当に転生してきて再会を喜び合ったりと…それはまた別のお話し



うん。やっぱり俺平凡が一番だと思う






















駄文をお読み頂きありがとうございます!

その後の話を短編で出すか…連載にしちゃうか…

ちょっと悩んでます!

もしかしたら出さないかも…

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