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ヘタレ伯爵と戦乙女  作者: アストロ
と松葉杖の少年王
31/34

十三通目 真実

「終わった、な」


駆けつけた使用人たちが床に飛び散った血の跡を拭っている。壁や柱の傷は後日職人を呼ぶだろう。犠牲は決して少なくない。死者は仲間がその損失を悼み、丁重に家族の下へと送り出される。生者は互いの勝利を喜び合い、王を讃える名目で早くも祝宴の準備をしている。

対照的に敵は命落とした者は荷車に詰められ、外へ運び出された。命ある者は捕らえられ、牢に繋がれた。気の毒に思う気持ちもあるが、俺たちが負ければ立場が逆転していた、それだけのことだ。


「さ、騎士団長の屋敷に行くぞ。王兵が残党狩りをしているらしい」

「俺たちの出る幕じゃないって。てか、まだ戦い足りないの?」


鉄の匂いがする謁見の間を出、新鮮な空気を吸い込む。意気込む女騎士を宥めつつ庭園の方に誘導していると、渡り廊下で座り込んでいる友人の姿を見つけた。


「おいテオ、何してたんだよ!」


尻の位置は床より高い。足はフリルのついた白布。こんなところに椅子なんてあったか? 待て、手足がある……?


「とある方から情報を得てね。ここではっていたのさ。成果はあったよ」


言語学者は腰を上げた。その下から現れたのは使用人。いや、使用人姿の少年だ。


「君の言ってた変わった音の少年、こいつじゃないかい?」


瞳は閉じられているが、日に煌く金糸の髪に、女にも見える顔立ち。


「!」


桶一杯分の水を呼び出し、見覚えのあるその面にぶっかけた。


「ッ!」


意識を取り戻した少年は咄嗟に武器を構えようとしたが、その手足は固く縛られている。


「よう、素敵なお目覚めだな。ついでに良いことを教えてやろう。王の命は守られ、フィリップは捕らえられた。どうだ最高の気分だろ?」


金の髪を掴み、歪む顎を上げさせる。


「お返しに教えてくれよ。てめぇの主人は、フィリップとマーシアの裏で手を引いていたのは?」

「誰がっ」

「あ~あ、俺、優しいから最後のチャンスをやったのに。今言わなきゃ拷問士に吐かせるだけだ。普通の人間する魔女にする奴らだ。俺のように手ぬるくないぜ?」


それでもこいつは恐らく吐かないだろう。俺より年下だが忠誠心は固い。わかっていたことだ。ま、駄目もとだが、こいつの口が割れれば手間が省ける。逃げる算段をしている黒幕殿を捕らえられるかもしれない。


「あまり喉を傷つけないようにしてくれたまえよ? 成長過程なんだから」

「テオ」


逆賊に情けは無用である。視線で咎めると、

「正体を知りたいんだろ」

と嘯いた。


「もっと楽しめるかと思ったけど、大した謎じゃなかったよ。私の出身はどこかという質問に対し、彼は生まれてからずっとロンディニウムに宿泊している(stay)と答えた。ササナ人なら住んでいる(live)を使うところを、だ。

これはカレドニア人のササナ語に特徴的な使い方だ」

「違う、僕はッ!」

「ほら、焦ると母音が伸びなくなる。カレドニアは我が国ほど母音の区分が繊細じゃないからね」


口を開くたびに墓穴を掘るのを悟り、若き暗殺者は唇を噛む。俺は指輪に手をかけた。


「エリオット! 至急カレドニアの関係者を洗って」

「何寝ぼけたこと言ってるんだ?」


冷やかな声に氷水を浴びさせられた気がした。


「お前は、聡明なはずの殿下も、ある人物を注意深く容疑者から外してきた」


情報屋は冷徹に精緻に言葉を重ねていく。ナイフを喉元に突きつけるように。


「……どういうことだ?」

「まだしらをきるつもりか? お前は夢を見た時点で気付けたんだ。獅子と同格のユニコーン、身を包む糸杉は哀惜、誰かを喪った悲しみだ。周囲には隠しきれない復讐と敵意、そしてアザミ。

まだある。テオドールから聞いたが、"敵の名を示せ"という呪文を使ったところ、リストのタイトルが反応したらしいな。あれは誰の誕生日だった?

いつまで目を背ける気だ。黒幕は自ずと浮かび上がるだろ?」


何を言っている? 違う。本当はもう、わかってる。そうじゃない可能性を探して足掻いていただけだ。


「だって! だって、それじゃあまりにも……」


そいつを語る時の、ライオネルの控えめな笑顔を思った。


「なあリック、俺は情報屋だ」

「何言って」

「まあ聞け。金と人手があれば、情報を集めることなんざ誰にでもできるんだ。必要なのは、その情報の中から真実を取捨選択すること」


一人、墓石の前に佇む背。


「それを踏まえて言わせてもらう。国王の、ましてお前の個人的感情は関係無い。重要なのはその情報が真実であるか否かだ」


あの時、エリオットはどんな顔をしていたのだろう。


「認めたくない事実だってある。真実を暴かず、嘘を信じた方が心安らかに生きられるだろう。だがそれで、くそったれな現実は変わるのか?」


大切な家族が愛する家族を殺す。そんなどうしよもない出来事に、こいつは決して目を背けたりしなかった。ひたすらに前だけを向いていた。


「お前の王は、相変わらず狙われている。黒幕を捕まえない限りずっとそうだ。

現実を変えたいなら、俺たちは戦わなければならない。まずは目を開いて、戦うべき相手を見定めろ」


     ‡   ‡   ‡


窓から、高くなった日が差す。右に一歩、左に一歩、また右に一歩。足は鉛でできたように重い。後ろを行くメディシーナは何も言わない。牛歩の歩みに文句すら。この長い廊下の先は、今回の後始末に追われるライオネルがいる執務室。このまま永久に辿りつかなければ良い。

唐突に指輪が熱を持つ。


「よう、くそ主人。今日は大捕り物だったんだって? 問題は解決したのか?」

「ああ」

「じゃ、とっとと戻ってこい。こき使ってやるから」

「まだ暫く」

「なんだ、てっきり祝杯上げてるかと思ったぜ。首謀者もわかったんだろ?」

「陛下に、これから伝えに行く」

「ふーん」


必要以上に口を閉ざす俺に、長い付き合いの部下は何かを悟ったのかもしれない。


「てめぇら人間は難儀な生き物だねぇ。あたしらは餌を手に入れるために同族と行動を共にすることはあっても、基本一人だ。顔を合わせたら縄張り争いするし、親子だって食い物にする。なのに人間は必要以上に群れようとする。友人、家族、夫婦。愛情なんてあやふやなものを与えて見返りが返ってくると信じている。絆なんてありもしないもので繋がっている気になっている。信じなければ裏切られることもない。一人でいれば傷つくことも無い」

「そんなの」


なんて寂しい生き方だ。なんて悲しい生き方だ。


「そんなの獣と一緒じゃないか」


徹底的に反論しなければならない。完膚なきまでに拒否しなければならない。そう思うのは、その言葉にどこか共感したがる己がいるからだ。


「その方が、楽なこともあるさ」


指輪が金属本来の冷たさを取り戻す。執務室の扉が開いた。決して狭い室内ではないが、忙しなく人が行きかう。羽ペンを走らせながら指示を飛ばしている少年王は、俺に気づくと軽く手を上げた。


「やあリック、僕に何か用?」


音も無く立ち尽くす俺の背後から、メディシーナが声をかけた。


「陛下、人払いを」


侍従や警護の騎士は退出した。部屋には俺とメディシーナ、陛下の三人のみ。それでも尚、俺は口を開けなかった。


「どうしたの、浮かない顔だよ?」


茶化すような、明るい声。俺を気使うその優しさが、今は辛い。


「そうだ、今度庭園にアザミを植えるつもりなんだ。カレドニアの国花にもなっててね、ベアトリクスが喜んでくれるといいんだけど」


何気ない笑顔に胸が締め付けられる。


「陛下」


その笑みが消え去る瞬間を見たくない。だが、俺は見なければならない。


「黒幕の正体は王妃殿下です」

「ベアトリクスが黒幕……?」


聡明なはずのライオネルが白痴のように繰り返す。理解出来ない、したくないのだ。


「ええ。近い内に裁判にかけることになるでしょう。星室庁の召集を」

「何かの間違いじゃ……」


エメラルドの瞳が訴える。否定してくれと。


「いいえ」


直視することが辛かった。いっそ偽ってしまいたかった。


「事実です」


革張りの椅子に背を投げ出し、天を仰ぐ。


「僕はカレドニア国王に会ったことがある。首を切られる数日前だ。僕は反対したが、争いの火種になると議会で処刑が決まっていた。僕は彼に思い残すことはないか聞いたんだ。国の行く末、裏切った臣下のこと、自身のこと。王として人として他に言うこともあっただろうに。彼は、残される娘のことだけを願った」


声が聞こえるほど近くに居るのに、その瞳はどこか遠くを見るようだった。


「羨ましかったんだ」


そこにいたのは、ササナ国王ではなかった。ライオネルと言う一人の少年だった。


「知っての通り、僕の父は僕をランクへ人質にやった。母は顔も知らない。王の子に生まれたなら、政略の道具になるのが当然だと思っていた。親が与える無償の愛なんて、物語の中の、遠い出来事のように思えた。それが目の前に現れた。死を目の前にしても気にかけ、慈しまれる子供が、途方も無く羨ましかった。そんな彼女とならきっと、良い夫婦になれると思った。亡くなった父親の分まで大切にしてあげたかった。彼女から父親を奪った僕が恨まれるのは当然だ。けどいつか、憎しみではなく愛を分かち合う家族になりたかった。家族に、なれると……」


ライオネルがあの女に向ける感情は恋ではないと思った。その直感は正しい。親の愛を知らぬ孤独な少年は、恋ではなく愛を求めていたのだ。


「どうして、こんなことになってしまったのだろう」


迷子になった幼子のように、呟く。彼は自分の信じた道を立ち止まらず進んできた。


「僕の足が動いたら、こんなことにはならなかったのだろうか」


今までライオネルは自分を憐れんだことが無い。身体が不自由なことも。親兄弟がいないことも。


「僕がダンスを踊れたら、彼女は僕に笑いかけてくれただろうか」


嘆く前に、諦める前に、常に理想に近付こうとしていた。


「僕がもっと努力したら、彼女は僕の名前を呼んでくれたのだろうか」

「お前は! お前は、よく頑張ったよ」


もういいと言ってやりたかった。お前が普通の王として振る舞うためにどれだけ犠牲を払ってきたか、俺は知っている。

白馬に乗った王子なんて糞食らえ。俺の王はこいつだけだ。こいつは神様みたいに完全無欠じゃなくて。頭が良くてもまだ子供で。人の悪意を怖がるただの人間で。欠点があるから愛しい。欠点を補う努力を敬う。民のために心を砕き、私を捨てて尽くす。その気高き魂こそが、何より得がたい王の器。

ライオネルは何も悪くない。なのに彼は自分を責めた。裏切った妻ではなく。何故彼が傷つかなければならないんだろう。こんなにも繊細で心優しい国王なのに。この少年を踏みにじったあの女を滅多刺しにしてやりたい。気が済むまで何度も。

メディシーナが腕を引く。ライオネルと同色の瞳が落ち着けと呟く。いいや、俺はこれ以上無いくらいに頭が冷えている。臓腑が煮えたぎっているけれど。怒りが憎しみが臨界を突破すると逆に平静になるのだと始めて知った。


「ライオネル」


覚悟を決めてその名を呼んだ。


「これから起こることはお前にとってあまりに惨い。俺が全部代わってやる。全てが終わるまで耳と目を塞いでいろ」


近い未来、彼は自分が妻と呼んだ女が証言台で糾弾されるのを聞き、首と胴体が離れるのを見なければならない。


「僕は王だ。王になると決めたんだ。この国のことで僕が目を背けていいことなんて、何一つない」


責任感の強いこいつなら、こう返すとわかっていた。俺の言葉は、傷ついた彼を鞭で打っただけだ。でもどこかで、これ以上傷つかずに済めば、と願っていた。

茨の道を行くと決めた王は、顎を引き、強い眼差しで宣言する。


「衛兵を呼べ。王妃を捕らえよ」


     ‡   ‡   ‡


その日、王妃は日常の中にいた。自分が仕掛けた戦いの結末を知ろうともせず、ただ「今日は騒がしいわね」とだけ呟いた。不審な点は無かったと、その後侍女たちは口を揃えて証言した。

常人なら興奮し、或いは恐慌するだろう。心臓が鋼でできているのだろうか。

それは彼女なりの心を落ち着ける儀式であったかもしれないし、動揺しているところを見せたくないという王族としてのプライドかもしれない。もしかしたら忠実な手駒が戻ってくるのを忍耐強く待っていたのかもしれない。

お茶の時間になり、用意された紅茶を口に含もうとして、しかし茶器を置いた。その水面が揺れているのに気づいたからだ。

普段お上品に扱われる樫の木の戸が爆発するような勢いで開く。部屋に踏み込むなり、騎士たちは抜き身の刃で取り囲む。


「王妃殿下、あなたを捕縛します!」


慌てふためく侍女たちを横目に、王妃は骨組みだけの無骨な扇を手に悠然と席を立った。


「誰の許しを得て」


扇が煌き、刃の一つが音を立てて跳ねる。


「この私に剣を向けているのかしら?」


 ――鉄扇


名前だけは聞いたことある。武器の携帯を許されない場で護身に使う東洋の武器。実物を見たのは初めてだ。こんな扱い方をすることさえ。己の得物が無くなり呆然とする騎士の顎を扇にのせる。


「私はカレドニア国王の娘、そしてササナ国王の妃なのよ? 私に指図できるのは王だけ!」


鎧が鳴る。女とは思えぬ気迫に、大の男が震えているのだ。


「その陛下の命で御座います」


尻込む騎士たちを押しのけ正面に出る。俺を寄越したことに陛下の本気を感じ取ったのか。


「……陛下の信の厚いあなたが出てきたのなら、そうなのでしょう」


先ほど啖呵を切ったのが嘘のように従順に扇を閉じ、テーブルに置く。


「で? 私は捕らえられる覚えが無いわ。一応罪状を聞いておきましょうか。陛下の母上と同じく不義密通? それとも」

「主なものは陛下殺害未遂、内乱幇助罪です」

「まあ。でっち上げたにしては随分大げさね。あなたでも冗談を言うのね」


抵抗する気はないようだが、素直に縄につく気も無いらしい。


「あくまで罪を認めぬというのですね」

「当たり前でしょ。犯してもいない罪なんて認められないわ」

「罪に問うだけの確証がこちらにあるとはお思いになりませんか?」

「やってみなさいよ」


無罪を訴える割には不遜に笑み、優雅な足取りで俺の横を通り抜ける。剣を構えているはずの騎士たちが半歩下がった。


「あら、ササナの男は気が利かないわね。さっさと牢獄までエスコートしてくださらない?」


王妃は自ら進んで歩き始めた。騎士たちは彼女を取り囲んでいるが、捕縛せず、武器を向けず、またその理由も無い。それは連行していると言うより付き従っているようだ。これより彼女は身体の自由を奪われ、尋問が行われるだろう。次会うのは裁きの場だ。


「王妃殿下……っ!」


声の限り呼び止める。振り返る王妃の足元になりふり構わず跪き、頭を床に摺りつける。


「お願いです、罪を認めてください」


その場に居る者が唖然としているが構うものか。これを逃せば機会は無い。


「自白すれば罪が軽くなる可能性があります。決して軽くは無い罪です、罰は下されるでしょう。しかし全ての罪を告白し、懺悔すれば或いは。お願いです、あなたの命を守らせてください」


正直、こいつの命なんかどうでも良い。寧ろ死ねば良い。だが、あの少年の心を思うとそうは言ってられない。


「何を言っているの?」


藁にもすがる思いで持ちかけた司法取引を、王妃は一蹴した。


「くだらない。私は国が敗れたとき、父とともに死んだ人間よ。それが囚われ、この国で生き恥を晒した。この期に及んでみっともなく命乞いなんかしないわ」


声を荒げることは無かった。しかし肩を怒らせる感情のままに吐き出し、思い出したように付け加える。


「それが喩え言われない罪のためでも」


なんて高い、天井知らずのプライド。自身の命を皿に載せても、この女の天秤は傾かない。俺は諦めて膝を立てる。


「あなたの罪はあなた一人のものではない」


目線で合図を出す。メディシーナが進み出る。その腕に掴まれたのは縄で縛られた少年。進もうとするのに彼の足は反抗し、湖を思わせる瞳は頑なに正面を見ようともせず、俯いている。見間違うくらい僅かな間、王妃の顔に動揺が走る。それで十分だった。


「お知り合い、ですね」

「だったらどうしたって言うの」


俺は彼を縛る縄を受け取るとその身柄を引き倒し、米神を踏みつけた。


「この者は俺たちを監視し、命を狙った。のみならず、陛下を害する手助けをしようとしていたようです。この者が主と言う人物の命に従って。どんな罰を受けるのでしょうね」

「私を脅そうって言うの? そのどこの馬の骨とも知れぬ子供如きで?」


爪先に体重をかける。くぐもった悲鳴が上がった。


「リック止せ、キサマ無抵抗な子供を甚振る様な男では」

「黙れ」


メディシーナの制止を一喝する。この少年は主人に尽くした。その魂は尊重すべきだ。こんなことやりたくない。だが俺は何だってする。何だってできるんだ。あの王のためなら。


「この者は尋問官に引き渡されます。あなたのように丁重には扱われますまい。決して死なせず、口を割るまで死んだ方がましと思える責め苦を受けるでしょう。女のようなこの顔は腫れ、指は折られ、膝には穴くかもしれません。また、楽には死ねません。生きながら火にくべられるか、重石を載せて水に沈むか、或いは腕と足を四方に走る馬で繋がれ、四肢を裂かれるか」


自分の死に様を想像したのか、足元から震えが伝わる。もっと具体的な話だってできる。魔女狩り候補の俺は誰よりこの手の話に詳しい。


「しかしあなたのたった一言で、この忠実な少年は救われます」


国を越え自分に付き従ってくれた部下。誰より信頼していた馴染みの少年。如何にこの女と言えど、少しは情があるはずだ。


「好きにしたらいいじゃない」


だが彼女は俺とは別の生き物だった。


「彼がどうなろうと構わないわ。それが私に何の関係があるの?」


少年の水色の瞳が絶望で光をなくす。俺も同じ顔をしているだろう。彼女は王族だ。ライオネルとは正反対の、王族らしい王族だ。生まれながらに傅かれ、奉仕されるのが当然だと思っている。命を賭して尽くした忠臣がどんな惨い死に方をしたって、何の痛痒も無いのかもしれない。王妃は背を向け、歩き出す。が、途中でその足を止めた。


「ハーネット伯爵」


その表情は見えない。


「その者は私の罪を暴く重要な証人なのでしょう? だったら裁判まで損なわず決して死なせないようにしないさい」


振り返らず王妃は去る。僅かに見せた慈悲に、少年の涙が床を塗らした。

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