プロローグ 亡国の王と新国王
新年おけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
かつて王だった男は冷たい床を足に感じ、奇異の視線を浴びながら、ただ、項垂れていた。数日後には処刑台に立つ。
頭には奪われた王冠がわざわざ被せられ、手は背後で鎖に繋がれている。その様は当に罪人。
己の罪は何であったのだろう。
勝者が正義で敗者が悪の世の中。ならば罪は時勢を見誤ったことであろう。
この戦に勝てると思った。彼の国は乱れ、国力は減じていた。実際、途中までは上手く行っていた。即位したばかりの王を討ち取ったこともある。しかし旗色が変わり、それでも諦め悪く戦を続けていたら、重税に喘いだ民が立ち上がった。
コツコツ。靴には硬質な床を叩く音が混じる。
「鎖を解け」
威厳を持つには高い、されど木漏れ日のように穏やかな声色。
手の自由を得てそっと目を上げれば、少年が膝を曲げ視線を同じくしていた。
「何故?」
勝利した国として玉座でふんぞり返っていればいいのに。
「あなたは国王だ」
自分に恥をかかせぬため、この国王は王座を降りたのだ。
「貴殿がササナの新たな王か?」
未だ少年と言うべき年頃。小さな身体に、きらびやかな衣装は、意匠を凝らしたマントは、宝石で飾った王冠はあまりに不釣り合いだった。
「はい」
しかし少年は肯定する。その重い責務を頭上に背筋を伸ばして。
「カレドニア国王。あなたの民は僕が譲り受けます。彼らが豊かで幸せになれるよう最大限の努力します」
嗚呼、小さくとも彼は王である。民を捨て置き自らの利益と欲望に走った自分と異なり、民のことを思い、民のために動く。
「他に憂いはありますか?」
天使の慈悲深さで、新たな国王は死に逝く自分を気遣う。
この小さな国王の前で、王はただの男になり、ただの人間になり、そして。
「娘を」
残された子の行く末を憂うただの父になった。
小さな手が震える自分の手を握った。
「必ず」