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短編小説シリーズ

橋の下のあなたへ

   「橋の下のあなたへ」


 むかしむかし、とある町に幸せに暮らす一家がありました。お父さん、お母さん、そして小さい男の子ビルスの三人家族でした。平凡ながらも幸せだった一家の生活は三年前のある日を境に突然終わりを迎えます。

 ビルスのお父さんとお母さんが流行病で無くなってしまったのです。途方に暮れる男の子はそれから親戚の叔父のもとに引き取られることになったのですが、意地の悪い叔父は「わしの食い扶持が減る」などといってビルスを追い出してしまいます。かわいそうに、それからビルスはこの大きな橋の下ですっと一人で暮らしてきたのです。楽しいことなど何もなく町の住民達に虐げられる毎日で、ビルスは生きる希望さえ見失っていました。

 そんなある日のこと。

 ビルスがいつものように小川でどぶさらいをしていると、一枚の紙片が頭の上に落ちてきました。それは手紙でした。ビルスは濡れないように落ちてくる手紙をそっとつかみます。橋の上でちりんちりんと、郵便屋さんの自転車のベルが聞こえてきます。きっと風に飛ばされたのでしょう。

 このままでは手紙を出した人が困るに違いない。そう思ったビルスは急いで郵便屋さんの後を追いかけます。しかしビルスの足では自転車に追いつくこと叶わず、ついに郵便屋さんを見失ってしまいます。

「この手紙どうしよう……」

 ビルスは人の良い性質だったので、手紙を郵便屋さんの代わりに自分で届けてあげることにしました。そして、そこで初めて手紙の送付先を確認するのですが、彼は思わず自分の目を疑います。

 手紙の宛名には「橋の下のあなたへ」と書いてあったのです。

「橋の下のあなた……ひょっとしてこれはぼくへの手紙だったの!? 風で落ちてきたんじゃなくて、郵便屋さんはきちんとぼくに届けたんだ。けど一体誰が……」

 もしかして叔父さん? けどあの叔父さんが今更ぼくに手紙をよこすなんて思えないし……。

 考えても考えても、手紙の送り主は思い浮かびません。とうとうビルスは手紙を開けてみることにしました。

 ぺりぺりと糊がはがれていく音がして、中に入っていたのは小さな一枚の便箋でした。

 ビルスは早速便箋を取り出して読み始めます。



 __橋の下のあなたへ


 お元気ですか。突然のお手紙でごめんなさい。私はケイトです。

 ふふ。知らないのも無理はありませんね。だって私はまだあなたに会ったことがないんですもの。

 きっとあなたもわけがわからなくて混乱してるでしょうね。そんな様子が目に浮かびます。だって私だって混乱しているんだもの。

 まずこんな手紙を送ったわけを話しますね。

 実は私はこの時代の人間ではないのです。信じられないかもしれませんが、私はあなたの未来の結婚相手なのです。

 夫であるあなたは私にいいました。

「ケイト。今でこそ僕はこうして笑っていられるが、僕にもどうしようもない時期があった」

「あなたに、本当?」

「ああ。そのとき僕は生きる希望を見失っていた。一歩間違えば死んでしまっていたかもしれない」

「そんな……」

「もちろん君と出会えて僕は幸せさ。だから、あのころの僕に。不幸で生きる希望を見失っていた僕に、ケイト、君から手紙を送ってくれないか」

 夫の言葉で私はあなたに手紙を書く決心をしました。

 大丈夫。あなたはきっと幸せになれる。だから辛抱してがんばるのよ。きっと明るい未来が待っているのだから。


   親愛なるケイトより


 読み終える頃にはすでに手紙はくしゃくしゃになっていた。書いてあったことはすべて本当だったから。自分にも明るい未来がある。両親が亡くなってからというもの、ビルスは明るい未来、希望を想像することはなかった

。そうした感情を持つこと自体が許されないことだと思っていた。

 しかしケイトの手紙を読んでその考えは変わる。今はつらいけど、ぼくも結婚して幸せな家庭を築ける。そんな未来が待っているんだ。

 ケイトはどんな人なんだろう。きっととっても優しくて暖かい人なんだろうな。

 ビルスはまだ見ぬ未来の花嫁に思いめぐらして手紙を懐へ入れる。そして、またどぶさらいを再開する。

 町の人たちは笑いながらどぶさらいするビルスを気味悪がっていたが、ビルスはそんなのお構いなしに笑い続けた。

 

 いつか、誰かがこう言った。


 __地球は回る。だから朝日は必ず上るんだ、と。



   おしまい


知人とのちょっとした遊びで生まれた小説。

一人3つずつお題を出し合って、集まった6つのお題に順に番号を振ります。サイコロを二回振り、出た目の箇所がお題。制限時間は30分ほどで、長さは原稿用紙で5枚以下くらい。そんな大雑把なルールで始めたこの遊びですが、意外と面白かったです。一度試してみるとハマるかも!?

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