【詩】「いっぴきの岩」「きぼうの樹」
「いっぴきの岩」
荒野にて耐えている
孤独なるいっぴきの岩の上を、
速やかなる雲が過ぎていく。
そこには、
沈黙と
緊張の
静寂が満ちている。
やがてくる
渡り鳥の一群を
待っているのか。
吹雪すら
待ち遠しいのか。
冷たい雨も
何も語らぬままに。
岩は
己だけの言葉で、
語る。
吹き抜ける
朔風の中で。
誰も知らない、
誰にも聞こえない、
崇高な詩を。
「きぼうの樹」
夜明けよりも、
夕暮れに。
雨上がりよりも
晴れ続きに。
茂る夏よりも
すっきりとした冬に。
その姿の良い樹の
背後から照らす光。
少し暖色に色づいている、
眩しい夕陽を隠すように。
まるでその姿は、
きぼうの樹だ。
輝く力が
今日という一日を
まるごと認めるように。
枝という枝に光満ちている。
それが、
やがて色褪せる
ひと時の光だとしても。