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生きる意味

作者: ふくしょう
掲載日:2015/02/11

人は無くしてやっと、その物の良さに気づいたり、その物の重要性に気づいたりする。それはしょうがない。むしろ、そうであるからこそ、人であるのだろう。そのことを万人が知っているからこそ、世の中は平穏に流れていくのだろう。そんなこと病室の窓から空を眺め、考えていた。もうこの病室に入って数年が経った。医者から告げられた余命はもう過ぎている。僕はどうして生き続けているのだろう。人生に意味を見つけ出そうとすることに価値を感じることはできないが、もし仮にあるとするなら、僕の人生の意味はいったい何なのだろう。親へ手紙でも書いて、親がこの先平穏な日々を暮らしていくための心の支えになることが僕の人生の意味か?それも何か違うような気がする。誰かを利用しなければ、自分の人生の意味が見出せないのなら、僕にとってはそんな人生の意味なんて無意味で、無価値だ。などと暇潰し程度に考えてみたりもする。とりあえずは病院生活の七割は暇なのだ。後の三割は同室で同い年の理沙と話す事に時間を費やしている。同室に話し相手がいるのに七割は暇と言うと不思議に思う人が出てきそうだから、もう一度言うが、ここは病院である。つまりは検査や治療のため、部屋から離れることが多いのだ。僕はもう余命も過ぎ、検査や治療をしても意味はないので、検査も治療もない。しかし、理沙は病室を出ている。つまりは生き続けるための治療ないしは検査を行っているのだ。まあこうなったのは最近のことで、以前の彼女は頑なに治療を拒んでいた。一度なぜか聞いたことがあるが、彼女曰く。

「人の人生は産まれた時から決まってるの。それを意図的に伸ばしたり、私はする気はないわ」

だそうだ。それを聞いた時の僕の反応はこうだ。

「踠いて生きながらえることも人生だと思う。これは神様が与えてくれた選択なんだよ。君は治療さえすれば、まだ治る可能性がある。生きるか死ぬか。君に託されたんだ」

本当に過去の僕は何を言っているのだろうか。大して意味のあることなんて言えてない。恥ずかしい限りだ。人生を語るにはまだまだ早い僕があんな説教くさいこと口にするなんて、思ってもみなかった。まあ、過去の話は過去の話だ。それほど昔ではないけど。そんなことを考えていると看護師達に連れられ、理沙が帰ってきた。

「理沙さん。今日も少しだけ、治療に参加してくださいましたよ」

看護師の一人が僕の耳元で囁く。なぜ僕に言う。僕は何もしていない。それでも、僕にとってもそれは嬉しいことであったのは間違いない。やっと、治療する気になったのか。看護師達が退室したのを確認し、理沙に話しかける。

「どうして急に治療する気になったんだ?」

「あなたの死に顔を拝むため…かな」

理沙は笑顔を作った。知り合って初めの方は殆ど笑顔なんて見せてくれなかった理沙が、最近はよく笑顔を見せるようになった。

時間は夜の十時を過ぎていた。治療で体力を使ったのか、理沙は「おやすみ」と言い、ベッドに潜り込んだ。僕はまだ眠らない。最近は眠っても、疲れがとれない。終末期あるあるだろうか?そんな笑えない言葉が頭をよぎる。明日は親が見舞いに来る。それはまでは生きていないと。僕は病室の天井を眺めながら呟いた。

「あと、どれくらい生きれるかな?もっと、生きたいなぁ。まだ、僕には…」


次の日、昼過ぎに親が見舞いに来た。その間、理沙は治療で部屋を退出していたので、久しぶりに親子水入らず色んな会話ができた。病院食の不味さや夜の散歩に出れない愚痴を笑いながら饒舌に語った。そして、あっという間に時間は経過し親が帰り、入れ替わりに理沙が帰ってきた。

「今日は早いな」

「昨日は治療するまでにちょっとあったから」

治療に対する熱い気持ちでも語ったのだろうか?

「今日、家族の人来てたの?」

「うん」

「そう。仲いいの?」

「それなりに」

「ふーん」

その後の会話はなかった。理沙はなにかをノートに記入した後、布団へ潜り込んだ。僕は相変わらず窓の外を眺め、物思いにふけっていたが、考えることもなくなった僕は理沙が記入していたノートに目をやる。なに書いてたんだろ。好奇心が僕の背中を押す。息を飲み、理沙のノートに手をかける。

「何してるの?」

「え」

起きていたのか。この状態では言い訳の余地はない。

「ごめん。でも、そのノートすごく気になって」

「…ただの治療日記だよ」

「そうなんだ」

そうだよな。日々の細やかな変化を綴るだけのノート。外室する時は必ず持参していたのを僕も見ていたじゃないか。僕は何を変な妄想をしていたんだろう。

「早く寝なよ」

その理沙の言葉通り、今日は早めに就寝することにした。


毎朝6時に起床する。それが私の日課になっていた。治療は昼過ぎからだからこんなに早くに起きる必要はない。ただ日々の生活にリズムを作ることは治療の必須条件だ。だから、私は律儀に起床時間を守っている。そして、隣のベッドで眠る優也の寝息を聞いて安心する。これも生活のリズムの一つだ。今日も優也は一日を迎えられた。私は優也が起きる前に服を着替え、何度も読み返し、くたびれてしまったノートに今日の体調を簡単に書き込む。今日も体の調子はいい。治療の影響もない。私はノートを閉じ、裏に小さく書かれた名前をなぞる。

「このノートがすごく気になったからって…。気になるのも当たり前だよ」


僕が目覚めたのは八時を少し過ぎた頃だった。

「おはよ」

目覚めた僕に理沙は微笑みかける。

「おはよ。相変わらず早いね」

治療は昼からのはずなのに、僕より早起きして何をしているのだろう。

「お昼まで散歩。行かない?」

「体力もつのか?」

「それはお互い様」

理沙は意地悪い笑みを浮かべながら、僕の腕を引く。僕はそれに応じ、ベッドから立ち上がる。今日は晴天。絶好の散歩日和だった。それから僕たちは他愛のない会話をしながら、病院の周りを時々は立ち止まりながら、一周した。

「一周したし、もう帰ろうか」

「少し待って」

病院の出入り口に向かう僕の裾を理沙が引き止める。

「ありがとう」

「ん?」

「えーっと。とりあえずね。って、ちょっと!」

僕はその場に倒れこんだ。意識が遠のく。ついに来てしまった。間違いない。死だ。


倒れ込んだ優也に私はただ泣きつくことしかできなかった。伝えたいことがあったのに。間もなく優也は息を引き取った。私が散歩に連れて行かなければ、優也はもう少し生きていられたのではないだろうか。自責の念が私を責め立てる。今日は治療もする気にはなれなかった。看護師も無理に治療するように催促することはなかった。夕方六時。私はベッドに潜り込んだ。もう何も考えたくない。全てがどうでもいい。

「そんな風に考えるなよ」

声がした。聞き間違えるはずはない。彼の声だ。私はベッドからはね起きた。シーツも取り払われたベッドに彼はいた。

「優也?」

「うん。実はお礼が言いたくて」

「ちょっと待って!…その前に、私から謝らせて。今日は無理に散歩に連れていってごめんなさい。私が散歩に連れていきさえしなければ…」

「それは理沙のせいじゃないよ。第一僕の寿命はもうとっくに過ぎていたんだ。だから、むしろ今日で良かったとさえ思ってるくらいだよ。いろんな話もできたしね。だから、理沙は悪くない。まだ言いたいことある?」

「うん。後一つだけ」

「何?」

「勝手にノート使ってごめんなさい。実は私がいつも持ち歩いてるノート。あれは優也のなんだよ」

「え?でもあれは捨てたはずじゃ」

「看護師さんが拾って私に渡してくれたの。ためになるからって」

「そうだったんだ。あのノート変なことしか書いてなかっただろ?」

「そんなことない。私はあのノートを見て、治療しようと決心したの。あのノートがあったから…」

「ありごとう。まさか、こういう形でだれかの役に立てるなんてね。願い事。叶っちゃったよ」

「ううん。まだ、あのノートに書いてたことあったよ」

私はそっと優也の唇に自分の唇を重ねた。

「ごめんね。これで願いが叶ったかどうかわからないけど、私に出来ることなんて」

「いや、願いは叶ったよ。ありがとう。でも、実はこの願いはもう前から叶ってたんだ。理沙が同室で本当によかった」

涙が止めど無く流れ落ちていく。そんな私に今度は優也から唇を重ねた。私も優也と同室でよかった。

「そういえば、最後の願い事」

「うん。わかってる。私に任せて」

「ありがとう。あとは任せたよ」


優也が息を引き取って三年後。私は会社のデスクでいつかのノートを眺めていた。

「理沙。お昼食べに行こ。んん?何かなそのノートは?」

「何でもないよ。ほら、由美ってば、そんなにまじまじ見ないでよ。食堂行こ」

「うん。私もうお腹すきすぎてお腹と背中がくっつきそうだよ」

「はいはい。だから早く行こ」

私、願い事叶えられてるかな?

「うん。大丈夫だよ」

そんな返事が返ってきた気がした。


社内に吹き込んだ風がノートのページをめくり、以前そのノートの持ち主であった男の最後の願いが書かれたページを開く。

「理沙が幸せでいられますように」


この小説はサークル課題で書いた作品になります。最初はどうなるかと思ったのですが、なんとかなったのではないかと思います。まだまだ、表現が伝わりにくかったり、場面展開が下手だったりして、読みにくいところもあると思いますが、とりあえずは最後まで読んでくださってありがとうございます。

今回は視点を時折変えながら書いてみました。いかがでしたでしょうか?

楽しんでいただけたのならよかったです。

では、また次の作品でお会いしましょう。

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