帰ってきた出来損ない4話
少し時間は進み、正樹と明日協会で会う事にした話を生徒会室で霧水可憐が十森美雪に話しているところ。
「・・・って事なんだけど、早速今日の夜、時間の確認に行こうと思うから・・・どうする?」
「行くに決まってるでしょ! 勿論一樹も呼ぶわよ。 今日は式神に風の精霊を宿らせる実験をやるって言ってたから、第二実験棟に居る筈よ。 先生に呼んで貰えばすぐだと思う。」
可憐の質問に、「何当たり前のこと言ってんの?」とでも言う様な口調で美雪が答える。
「でもいいの? 正樹が都合よく居るとは限らないよ? 何か序の依頼を終わらせるって言ってたし。 場合に由ればかなり待つことになるよ?」
「そん時は協会の人に頼んで家に連絡して貰えばいいわよ。 向こうも、私たちが正にぃに会うのが久しぶりだって事は分かってるだろうし、なにより依頼の序なんだから。 しかも、私ら位の実力者が精霊の加護を付与されたSAを持つことになるとなれば、協会の戦力強化にも繋がるはずなんだから、嫌とは言わない筈でしょ。・・・そういや、理香さんには連絡したの?」
美雪のこの質問に可憐は苦笑しながら。
「いや、 如何にも警察の方も呪いの類には経験も知識もないようで、朝からてんてこ舞いらしいわ。 正樹に連絡取った後、直ぐに掛けてみたけど、携帯も繋がんないし、管理室にも居ないみたい。」
との返答に、美雪の方も苦笑しながら。
「・・・まー、あの部署は部屋は有って無いような物だけどね。 通されたこと一度もないわよ。」
そう返した。
そこまで話をすると、取りあえずと、スカートのポケットに入れてあるスマホを取りだし、実験棟にいる教師に連絡を取る。
プルル・・・プルル・・プルガチャ。
{はいこちら尾上。 ただ今生徒の実験の視察中、用件は手短に。}
「その実験をしていると思われる十森一樹の妹、十森美雪です。 少し兄に代わって貰えませんか? 出来るのなら生徒会室に来るように言って貰いたいんですが。」
美雪の依頼が意外だった様で、疑問に思いながら
{君らなら精霊を介して情報のやり取り位出来るのではないのか?}
と質問すると。 美雪は電話越しで苦笑しながら
「まだそこまで出来ませんよ。 私たちの兄であった正樹なら出来るでしょうが。 あの人は私たちが物心付くころには既に精霊たちとお喋りしてましたからね。」
{・・・それ程の者が何故術が使えなかったのか、我々教師陣も不思議でならんよ。 言って置くが、この学校の付与を専門に学んで、教育している先生方ですら精霊と会話をするのは難しいのだからね。 だから、幾ら君らの兄とはいえそんなことが本当に出来ていたのか、疑う者もいるのだよ。}
その疑わしさ全開の疑問に対して、美雪の方は
「まー、信じない人は信じなくていいですよ。 けど私たちは少しだけでも声が聞こえるようになった時点で確信しましたよ。 本当の事だったのだとね。」
美雪のその回答は予想外な様で、更に疑わしい声に成って
{ほー? それはどうしてだい? 僕の知り合いの最高レベルの付与師でもその兄の話をしたら僕らの様に疑わしげにしていたよ?}
そう言って理事長の話も出してきた。
しかし、それでも尚、兄と精霊を信用している美雪は。
「それなら、私はその付与師の方が疑わしいですね。 精霊の話を断片で繋ぎあわせていくと、もうあちこちで正樹兄さんの自慢をしてるのが分かるんですよ。 それはもう楽しげで、聞いてる此方が誇らしいくらいのべた褒めっぷりですよ。 いまだに断片的なので、詳しく聞けないのが残念なくらいです。」
そんな感じで電話越しにも分かるくらいに残念そうに言って来た。
その話を聞いた尾上という教師は、流石に実力の分かっている生徒がここまで言っているのに興味を持ったのか、少し接触を図ろうと言う意味の言葉を掛けてきた。
{へー、知り合いの話とは随分違いますね。 あちらの言い分は「術の行使もままならん様な術者が、それを飛び越して会話を出来る等有り得ん。 どうせハッタリじゃろう。」と言ってましたからね。 どちらが正しいのか、今度会ってみたいものです。}
その返答は中々に嬉しい答えの様で
「今丁度帰っているらしいので、機会があれば先生の事もそれとなく紹介しときますよ。」
弾んだ声でそう言った後。
「霧水さんの話では、精霊の加護を付与する事も出来るらしく、「付与師」の様な仕事も請け負って居るらしいですから。 それが本当なら、教師としても臨時で雇って欲しいですからね。 皆の実力の底上げが出来るかも知れませんよ?」
美雪の可憐に対しての呼び方に苦笑した尾上は。
{君と霧水さんの関係は良く知ってますから、いつも通りで良いですよ? いつも丁寧な話し方では疲れるでしょう? 私が担当している一樹君も同じような感じでしたから、恐らく君も似た感じで家の関係上、優等生を演じなければならないんでしょうがね。」
そこで尾上は一旦話をとめ、電話越しにも分かるくらいの優しい声音で。
{普段の一樹君を知ってる私としては、君にも普段通りの姿勢を要求したいところですね。 勿論、徐々にでいいですが? どうでしょうか?}
この会話を美雪のスマホの回線を通じて聞いていたエレクは、スマホのアプリを利用して。
「<美雪。 この教師が信用に足る人なら、これも何かの縁だ。友好関係を結んでおくといい。 後々の為になるかもしれん。>」
(え? なにこれ!? イキナリ何かの会話文が入ってきた?)
この美雪の反応にエレクは苦笑しながら
「<申し遅れた。 俺は最近・・・というかここ数年で恐ろしく発達した電話回線の影響で生まれた電子の精霊エレク。 具体的には正樹に命を作って貰った新米の精霊だ。>」
イキナリ液晶に踊った文字に困惑しながらも
(・・・何か知らないけど、原因は正にぃにあるって事?)
そう結論付けた美雪に、エレクは
「<原因と言ういい方はおかしいと思うが、合ってることは合ってるな。 一応断っておくが、俺に話しかけれるのはこの液晶という画面の文字を通さなければ一般人には存在さえ認識されん。 唯一可能なのが、全ての精霊と会話が可能な君の兄、正樹のみだ。 だから、他の者には言わないことを薦める。>」
エレクにそう忠告され
(確かにねー。 気付きもされない精霊と話をしたなんて言っても、信じて貰い様がないわ。)
そんな考えに達した美雪に
「<そういう事だ。 それより、さっきから教師が電話越しで答えを待っておるぞ? 俺からの意見は伝えたから、後は君次第だ。 それでは。>」
そう文字を残して、エレクは電子の海に帰って行った。
その直後、電話の声が聞こえだして
{・・・君。・・・美雪君? 答えはどっちかね?}
先ほどのエレクの言葉を吟味した結果、美雪の出した結論は
「分かったわ、先生。 お言葉に甘えて、頼らせて貰うわ。」
{良い判断です。 さて、話は戻しますが。 君から聞いたお兄さんの話が本当なら、是非とも臨時講師をして貰いたいものですね? 私も少しは付与師の腕を持っていますが、人に教えられるほどの知識も経験もありませんから。 良ければ紹介して下さい。 勿論、依頼という形で結構です。}
「解かった。 機会があれば紹介しとく。 ・・・で最初に戻るけど、一樹はまだ?」
その話題をすっかり忘れていた尾上は苦笑しながらも実験の経過を見ると。
{丁度終わった所ですね、今呼びますよ。}
尾上はそう言って校内電話を置くと、電話越しに「おーい一樹君、美雪君がお呼びだよー?」と言う言葉が聞こえ、数秒後。
{お待たせ、美雪。 で? 話は何?}
「さっき可憐ちゃんからの報告で、正にぃが日本に帰ってきてることが分かったの。」
{・・! それホント? 嘘じゃない?}
見事なまでに予想通りの反応に、電話越しに微笑みながら。
「ほ・ん・と。・・・でね? 可憐ちゃんの交渉の結果、今日の夜にでも色々と話したいことを明日会って話す場所と時間の確認に行くから、私たちも行くなら一緒に行くけど、どうするか?って・・・」
「いってたよ。」という言葉を言い終わらない内に、一樹が反射的に
{行くに決まってるでしょ? 待っててね? 実験の後の片づけしてくるから・・・}
そういいながらも、先ほどの実験で散らかった材料が多すぎたので。
{今生徒会室でしょ? 片づけに30分は掛かるから、少しそこで待っててよ。 終わったら行くから。・・・先に行かないでよ?}
キッチリそういって釘をさす一樹に微笑みつつ
「りょーかい。」
そういって、電話を切る美雪だった。
美雪の態度で、話し合いが終わったと判断した可憐は
「どうだった? 行けるって?」
その質問に頷き、「けど・・」と前置きをして
「実験の片づけに30分位掛かるらしいよ。 終わるまでここで待っててくれってさ。・・・いいですか? 会長。」
美雪はそういって、可憐の向かいのテーブルに腰かけ、さっきからこちらをニコニコと見つめる生徒会長、日野神麗美に確認する。
すると、麗美はゆっくりと頷き。
「いいわよ~? 電話の声は聞こえなかったけど、美雪ちゃんの声は聞こえてたから、大体は分かったわ?」
そのままのニコニコ顔で、更に一言
「それに、私もこの学校の生徒会長として面白い内容があったから、是非ともそのお兄さんを間近で見たいと思ったし。」
その言葉が、先ほど尾上先生に言った正樹へのべた褒めの事だと分かった美雪は、途端に顔が赤くなった。
しかし、麗美は別の事が気になるようで
「でもいいの? お母さん、今呪いで臥せってるんでしょう? 二人して晩の遅くにまで帰らなかったら、お母さん心配するんじゃないの? 臥せってる人に心配かけたらだめよ?」
「琴音さんが居るから大丈夫でしょう。 第一、今家は母さんの派閥の風祭が台頭して、私ら兄妹も居辛くなってますから。 少しは息抜きしないとやってらんないです。」
そして、今日の朝に伝えられた依頼の件を思いだし。
「今日も昼に何処かの家に風祭の兄弟が依頼に行ってますが、正直馬鹿な二人が調子に乗って依頼人に迷惑を掛けてないか不安ですよ。」
「それで失敗して、何かを得るのもまた経験だよ? 私が貴方達2人が入学して早々にやった模擬魔術試験を視た後に言ったでしょ? 『失敗しても命取りにならないのは今の内だけなんだから、失敗を経験するために、何より今の壁を超えるために2人とも生徒会に入りなさい。 幸い、可憐さんが貴方達と知り合いの様だから、仕事に関しては失敗しながら教えて貰えばいいわ。 そして、戦闘に関しては今日から一日に一回は敗北を教えて上げる。』ってね? 美雪ちゃんがさっき言った風祭の人たちも、今頃失敗して、其れを今後の糧にすればいいのよ。」
美雪の愚痴ともいえる発言に、そう言って優しく諭す麗美。
この麗美は流石にと言うべきか、この魔術と聖霊術を合わせて学ぶ学校に於いて生徒会長をしているだけあって、かなりの使い手だ。
先ほど言ったように、当時入学した直後の模擬戦で美雪たち2人は、同じ新入生の中では群を抜いて強すぎた。
そして、それを見ていた麗美が『あまり調子に乗りすぎると後で酷い目に合うから、私が教育して上げる』といって、模擬戦を行い、2人が束になって掛かっても相手に成らなかったのだ。
その後、先ほどの理由で生徒会に入った2人は毎日のように精霊と会話をする訓練をしているのと同時進行で麗美に稽古を付けて貰っている。(十森での訓練はもう既に2人には物足りなくなっていて、可憐も十森ではなく、実家の霧水で鍛練をしているのだ。 辺りの瘴気が濃い為に、精霊が近づけないのは変わらないが)
そこまでして、漸く最近になって、上位精霊術を僅を使えるようになったのだ。
因みに麗美も家は火の系統の魔術師の家系であり、その中でも100年に一人の鬼才と言われるほどの魔術士らしい。
今は未だ4人との実力に差がありすぎる為、実力の全ては分からないが、近いうちに正樹と会えばそれも分かると思うと美雪は睨んでいる。
そんな話をしている内に、時間が過ぎたのか一樹が戻ってきた。
「お待たせー。」
美雪に挨拶をした後に麗美に気付いた一樹は
「あ、会長。 もしかして、美雪と可憐ちゃんに付き合って待ってたんですか?」
一樹がそういうと、麗美は手を横に振り
「いやいや、別にそう言う訳じゃないのよ。 こっちもお話をしてただけだから、気にしないで。」
そう言ってから、改めて3人に
「じゃー、一樹君も来たようだし、そろそろ行きなさい。 あまり遅くなっちゃだめよ? ただでさえ遠くの学校に来てるんだから、心配かけないようにね?」
「「「はーい」」」
そういって、協会に時間の確認に行く3人だった。
余談だが、この道中にタニアから正樹の実力の事を聞かされた可憐がそのまんまの内容を一樹たちに話した処
「やっぱりそうだったの!? でもなんで儀式の時は使えなかったの? そこは聞いた?」
「・・・あ、忘れてた。」
と、天然ぶりを発揮した可憐だった。