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帰ってきた出来損ない3話

「え!? それじゃー正樹、日本に帰って来てるの!?」

「多分ね? 協会が昨日の晩にオランダの協会から連絡を受けて、それならと、此方での例の呪いの事件の調査依頼を出したらしいよ。」



 これは時系列的には正樹たちが日本に来る前日の話。

 全国にある聖霊術・魔術混合の教育施設である魔術高校。

 ここ千葉県のとある町にもその一つが設立されおり、隣町のある家の影響からか、聖霊術を扱う生徒が多く集まっていた。

 そのある術者育成用高校でのある訓練場での会話。

 今は2~3年の聖霊術師の実技訓練の最中。

 今は先ほど模擬戦をやり終えたので、小休止の状態だ。

 そして、周りには二人の会話に興味津々の男女が多数。


「ねー? その人誰? 可憐ちゃんがそこまで驚くなんて、よっぽどの事じゃないんじゃないの?」

「ああ、可憐ちゃんの元お隣さんで元婚約者だったあの有名人兄妹、一樹君と美雪さんのお兄さんよ。」


 それを聞いて「あ!思い出した」と言ったのがロングヘアーの元気っ娘、藤堂栞。


「確か、当時15歳にして既に精霊の姿が見えて対話も可能だったのに、何故か術が一切使えなくて、一か八かの儀式さえ失敗した挙句に母親に勘当を言い渡された異端児でしょ? その後の何週間も元気の無かった可憐や一樹君は今でもすっごい印象に残ってるわ。・・・元気の無いのが印象強すぎて、その原因を忘れてたけどね・・。」


 そんな風な会話で盛り上がる中、可憐が話の原点、銀髪の長髪で燃える様な赤い眼の女生徒タニア・クラインに質問する。


「なら協会に伝言を頼んだおばさんの件も伝わったのかな? 原因がおばさんとはいえ、生きているのなら家族全員が揃ってた方が良いんだろうし。 あ、タニアちゃんって正樹の連絡先の番号知ってる? 明日にでも連絡取りたいんだけど。」

「片方なら教えて上げられるけど、もう一方は下手に教えて私経由だとバレたら嫌われるから駄目だよ? それでも良いなら教えるけど。」

「それでいいからお願い。」

「分かった。・・・耳貸して?」


 そう促され、耳を近づける可憐。


「・・・・よ。・・分かった? 極力言うなって言われてるから。 もう言わないよ?」

「分かった。・・けど、凄い人間不信になったのかなー? 電話の番号位でそんなに慎重にならなくてもいいと思うけど・・・。」


 その可憐の疑問の問いには比較的軽く。


「何でも、海外を渡り歩いて依頼をこなしている内に、多くなり過ぎた依頼の電話に対処が大変になって協会の方に相談したら、色々と番号だけを使い分けたらいいって教えられたらしいよ。 普通は電波の関係上無理なんだけど、マサキ君なら精霊を使えば簡単なんだって。 やり方までは教えて貰えなかったけどね。」

「へー、姿が見えるだけでそこまで違いがあるんだー。 私も精霊の話し声なら聞こえてるんだけどなー・・、微かにだけど・・・。」


 と何処か虚空を見ながら話しかける可憐・・・。・・・・が。


<ち・・よ! そっ・・・ゃな・・く・ひ・り!>(違うよ!そっちじゃなくて、左!)

(・・・?左?)

<だ・ら、ぼ・・ら見・・ひ・・よ! そっ・・み・・! きち・・・れ・・こ・・しな・・に!>(だから、僕から見て左!そっちは右!きちんと聞こえれば、こんな苦労しないのに!)

(うーん、分かんない。ごめんね?)

<し・・ど・・・、・は・・・ね?>(仕方ないから我慢するけど、早く真面に聞こえるようになってね?)


 とタニアが見ている前でそんなやり取りをしていた。

 至近距離で、同じ精霊と会話が出来る者でも、相性の違いで相手の会話が理解できないことは多々あるのだ。

 可憐は霧水家と言う水の精霊の加護を主に受ける家系だが、隣に住んでいる十森家は自然界の4元素の全てを管理する大家の家系。

 その為風の精霊とも幼い時から親しい関係にあり、今では十森家の血筋の者と大差ないくらいの相性の良さがある。

 対して、タニアはイギリスの火の精霊の加護を受ける家系であり、近くに他の術者の家系も無く、彼女の家系のみがその近くの一帯の悪霊退治や妖魔退治を請け負っていたため、正樹がイギリスに立ち寄るまで相性などの関係性を理解できなかった。

 その為、声が聞こえるのもほぼ火の精霊のみなので、今の可憐の精霊との会話も彼女には聞こえていない。

 そのタニアが可憐を見ながら


「あーあ。 やっぱり常に精霊の声が聴ける風の精霊の加護は羨ましいなー。 マサキ君と火の精霊の話では、どんなに風の精霊の加護付の道具を使っていても、声を聴くのに一年会話をするのに2年は掛かるらしいし。・・・可憐ちゃんは精霊の加護付のこんな道具持ってたっけ?・・・私はマサキ君に依頼して付けて貰ったけど。」


 そういって、タニアは自分の指に填めてあるルビーの宝石を填め込んだ指輪を見ながら言った。


「え!? 正樹ってそんなことも出来るの? 日本じゃー少なすぎて真面な教育者も育成出来ないって話なのに。・・っていうかタニアちゃん! そんな事今まで一言も言ってなかったよ? なんでよ!」


 その剣幕に気付いた他の術者の生徒も同様な意見で。


「そうよタニアちゃん。 そんな貴重な人の知り合いが居るのになんで今まで黙ってたの?」


 そう言ったのは先ほどの元気娘、二年付与科、藤堂栞。


「私のSAもそろそろ精霊を宿らせるのが限界で、学校一の製作師の先生にも、そろそろワシでは限界だ、買い換えるか、いい付与師の知り合いを作れって言われたんだよ? 前にも私、刀がヤバそうっていったジャン! 忘れてたの?」

「ゴメンゴメン。 忘れてたってのもあるけどさ。 マサキ君が言うには加護が付くのも善し悪しで、出来れば自分の実力を最大限まで引き出せるようになってから、道具に頼る方が好ましいんだって。 その目安が精霊の拒否反応だから。 連絡序に依頼すればいいよ。 精霊が何も反応しない内はまだまだ術者の実力を上げた方が成長は早いらしいけどね。」

「なら、俺はどうすればいいんだ? 術はそこそこ使えるけど、まだ精霊の声すら聴いてないぞ?」


 女性陣の会話に割り込んできたのは、この学校の男子生徒の中でも術に関してはトップレベルの生徒。

 術者協会のプロからもその身体能力で注目されている豊水恭介。


「君の場合は精霊ともっと話し合おうとしないと駄目だよ。 精霊の話だと、戦闘意欲が強すぎて話が噛み合いそうにないから話が通じないって言ってるからね。・・・もっと肩の力を抜けってさ。」

「そんなー。」


 同じ精霊の加護を多く受ける可憐にそう言われ項垂れる恭介。

 それもそのはずで、精霊の声が聞こえないのに初級精霊術と同規模の心術を使える彼が精霊との会話を出来るようになれば、将来的に一流になれる可能性が高いと教師陣は期待しているのだ。

 もっとも、精霊に言わせれば「ただ単に術の制御が上手いだけだよ。」となるのだが・・・。


「そんなことより、正樹の事よ! タニアちゃんはどんな加護を付けて貰ってるの? 幾らで? キリキリ吐きなさい!」


 タニアの肩を掴みガクガクと前後に揺さぶる可憐。

 そんな可憐に耐え兼ね、渋々答える。


「私は国的に槍と銃だね。 幸い私は両利きだから、右の指にルビーの宝石を嵌めた指輪に対悪魔用に弾丸自体が浄化の炎の加護を持つ様に調整して貰った銃と左の指に言霊によって炎の聖槍が形成されるの指輪に悪霊の浄化の加護を付けて貰った。 なんと年間契約で10万」


 その格安の依頼料に傍で聞き耳を立てていた生徒の多くが驚いて


「安! なんだそれ! 普通なら専属の付与師に一回に付けて貰う額がその半額位掛かるぞ。 幾らなんでも安すぎだろ!」

「しかも二つ同時にってのも有りえないわよ? この学校の一番優秀な付与師の先生でも一日一つの物に一個で限界だって言って早い者勝ちになってるのに。」

「まー、マサキ君はある事情があって特別だからねー。 その事情は公表できないんだけどね?」


 そんな事を言って、知っている者だけの優越感に浸りながら「それに」と言って可憐をチラッと見ながら・・・。


「一去年調節して貰ったけど、もう凄い調子がいいよ。 先ず、自分と相性のいい精霊の加護を付けて貰えるから反発が無いし、メンテナンス自体が精霊が自分で管理してくれるから時期も考える必要が無い。 年間契約にして貰えば、少しの期間だけ協会に預ければ最長でも一週間位で精霊が元気になって帰ってくる。 その間の武器も予め予約しとけば前もって予備を用意しといてくれるしね。・・・けど。」

「けど?」


 突然の言いよどみに訝しむ可憐。

 なんだなんだと言葉を待つと。


「神霊級の武器に関しては少し異なるんだって。 何でも微調整が必要らしくて、直接体に触れて精霊と相談しながらでないと武器にも体にも悪影響が出るらしいよ。 今の所はオランダに一緒に住んでる婚約者の人しか調節したことが無いらしいけど、慣れてても一晩は掛かるらしいよ。」


 他の発言は殆ど吹き飛び、婚約者の一言に可憐は驚いた。


「な! 正樹に婚約者!? オランダ人の?! 初耳だよタニアちゃん!」


 そして可憐の驚きにタニアも「しまった!」と口を手で覆ったが、時すでに遅く。


「タニアちゃん? その話もう少し詳しく。」


 と詰め寄られ。


「それがね?可憐ちゃん。 私も数回しかあったこと無いから詳しく聞いてないんだよ。 どうせ明日か明後日にはマサキ君に連絡取る予定なんでしょ? その時に一樹君達を交えて話を聞けばいいじゃない。 向こうは話に由れば協会に婚前旅行の序に依頼を受けるって言ったらしいから、その婚約者も来てる筈だよ。」


 そう白状するタニア。


「分かった。 取りあえず連絡だけでも明日くらい取ってみる。 嫌われて無ければ依頼として頼めば受けてくれると思うし。」

「うーん。 その心配はないと思うよ? 可憐ちゃんも精霊に聞いてるかも知れないけど、マサキ君の恨みの矛先は母親のみの物で味方に成ってくれてた可憐ちゃん達に対しては比較的感謝してるくらいらしいよ。 ただ、母親が居る現状では家に帰るって言う選択肢は恐らく取らないから、呼ぶなら協会の専用の個室か霧水の屋敷の方だね。 私的には協会を勧めとくよ。 マサキ君が家の近くに行ったら、もしかしたら例の呪いが反応しそうで怖いからね。」 

「あー・・・。 確かに。 なら、連絡を取った後一樹君達の都合を聞いて協会に一緒に行けばいいか。 あ、理香さんにも都合を付けて貰わないと。 確か管理室の方でも今回の事件は色々調べてる筈だから、何か解るかも。 明日は忙しくなりそうだわー。」


 そう何処か楽しげに言っていた可憐にタニアが不意に


「あ、それとこれは言わないで置こうと思ったんだけど、どうせ会う様になるんなら話しとくわ。」


 そう告げた。イキナリの申告に何のことか疑問に思う可憐が「なになに?」と聞くと


「会っただけでは分かんないと思うけど、一緒に依頼をやり出したら嫌でも気付くから、その差に気を落とさないようにね?」

「その差って?」


 この可憐の質問に微笑みながら


「じ・つ・りょ・く・よ♪ もう凄いから。あの実力を見たら、美雪ちゃん達の母親の考えがどれだけ浅はかだったか、アンタらの意見や疑問の正しさが証明されるでしょうね。 実際に稽古を付けて貰うとかしたらその差を実感できるから。 楽しみにしてなさいな。」


 微笑ならそう言うタニア。

 それを聞きながら、大きくなった許嫁に会うのが楽しみになってきた可憐だった。

 

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