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帰ってきた出来損ない1話

 都内某所の廃ビルにて、一人の青年と一人の小太りの男がある一点を眺めながら寛いでいた。

 しばらくして、青年は虚空に向かって質問する。


「フレイ、もう終わったか?」


 その質問に、何もない所から声がする。


<うん。これで終わり・・・それっ!>


ゴォーーー!!


 炎の赤色が見え、音は聞こえるのだが、常人には聞こえないその声を聴く青年。

 今二人の目の前で、火の精霊が地縛霊を浄化したところだ。

 そして、訳が分からないまま青年の様子で事が終わったと判断したのか、小太りの男が青年に声を掛ける。

「終わったのかね?森羅君。」


 そして、小太りの男の声に煩わしさを隠そうともせず、森羅と呼ばれた青年は低い声で忠告する。


「・・・おっさん。よくこのビルを買ったな。かなり安くて不思議に思わなかったか?」


「?安くて何が悪い。このビルは役に立たんが、土地は最近ここの地価が跳ねあがっとるのに、ココだけ安いんだ。ビルのお蔭で安いんなら、ビル付きで買って壊してしまえば、後は地価が周りに合わせて上がるのを待つだけで一儲けできる、これほど美味しい物件を買わずに何を買うのだ?」


 小太りの男は青年の言葉に不思議そうに答えて、さも当然と言った感じで買った理由を話す。


「あのなー、おっさん。俺が調べた事前情報では、このビルにはかなりの数の地縛霊が棲みついてて、解体作業も出来ないって話だったぞ?」


 青年のこの言葉にも


「それがどうした?そう言った異常に対しての解決策の為の君ら術者だろう。その為に、高額で売れた場合の約1割の依頼料を出すんだからな。金は出すんだから文句を言われる筋合いはないぞ?」


「まーな。で、売却額は幾らだっけ?」


「ああ、専門家の話ではあと一月はここらの地価は一定してるから、ここなら遊園地も近いし、最低一億は出す客もいる筈だって話だ。」


「おお!なら、1千万か。結構な報酬だな。」


小太りの男の返事に、青年も笑顔を向ける。


「ああ、もし予想以上になりそうなら連絡してやろうか?それとも報酬の振り込みで確認するか?」


「そーだな、振り込みで頼む。まさか術者相手に詐欺紛いのことをするとは思わんから、そこは信用するさ。」

青年の言葉に苦笑いをして、小太りの男が一言。


「当たり前だろう。君ら術者は俺ら一般人と違い、何処に目鼻が有るか見当もつかん。幾ら個人相手でも喧嘩を売るような真似はせんよ。」


「それが懸命だな。ま、もう終わりだから金さえ入れば俺にはどうでも良いが。・・・お?そろそろ別の依頼の時間だから、これで失礼。口座はこの前のと同じ口座でよろしく。今後ともご贔屓に。」


「ああ、また何かあればお願いするよ。」


そういって、二人はそれぞれの用事に散っていった。




   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

プルルー・・・ プルルー・・ 


正樹まさき-? スマホ鳴ってるよー?>


 先ほどの火の精霊であるフレイが、青年のズボンからの音を聞き、着信を主である青年に告げる。


「・・・? お、確かに。・・・知らん番号だな。 エレク、何処からか解るか?」


<---直ぐ近くだな。この辺りは確か、正樹の生まれた場所の近くじゃないか?そこから察するに元家族が、何処かから正樹が戻ったのを聞いて、連絡をして来たってとこか?・・・取りあえず出たらどうだ。さっきから電波が入ってきて少々鬱陶しい。>


 そう言ったのは、電子の精霊ことエレク。


「電波の精霊が何を言ってんだか。まー言ってても始まらんし、出るか。ほい、こちら森羅。合言葉をどうぞ。」

 その正樹の問いかけに、問いかけで返す電話口の相手。・・・その相手は。


{どんな合言葉があるの? 正樹。それに出るのが遅すぎ、仕事中かと思ったでしょ。 暇ならさっさとでなさい! 危うく切っちゃうとこだったでしょうが。}

「・・・誰だ? 日本での俺の知り合いはもういない筈だが。名前はなんだ。」

{・・・可憐よ。2つ年下で、今高3。たった5年で幼馴染の婚約者を忘れないでよ。}


 遥か昔に縁を切られた筈の元・婚約者、霧水可憐だった。

 しかし、今可憐は婚約者と言った。

 どうなっているのか?

 気には成った物の過去を引き摺る正樹は冷たい対応をする。


「中学に入るかどうかってガキだった奴がもう高3か、道理で俺が成人するわけだ。で、何か用か?」


{・・・おばさんの事、連絡行ってる?一応、日本術師連合JMA(japan magikc alliance)に連絡して、世界の術師連合WMA(world magikc alliance)を通じて正樹が海外で活躍してるって聞いたから、生きてるのならって協会に連絡頼んだんだけど。}


「さー、知らんぞ? 第一、俺自体が滅多に術師連合に顔を出さんからな、やり取りなんぞメールか電話位だ。今時スマホなんて言う携帯電話以上に便利な物が出来たせいで、色々と俺専用の依頼もアプリ別にして置けば管理も楽だし、連合に行く必要が無いからな。 ホントに良い世の中に成ったもんだ。お蔭で精霊も増えすぎてるがな。」


 それから正樹は着信をそのままにスマホを弄って連合のページに合わせ、内容を見るが・・・。


「・・・? 協会からも連合からも、あの女の事に関する連絡は来てないぞ? 自慢じゃ無いが、世界的なネットワークを精霊を通じて構築させている以上、連合のページも協会のページもメインバンクは俺のスマホとオランダの家に置いてあるSMM(精霊によるメインマシン)に保存される筈だからな。 変な食い違いが起きてるんじゃないのか?」


 可憐にそう言いながら、頭の中ではエレクに確認させる正樹。


(どうだ? エレク。 俺の予想ではオランダの協会が気を利かせてあの女の依頼を例の呪いの依頼に混ぜ込んでいると思うが?)

<恐らくそれで合ってると思う。 可憐の伝達を頼んだ打詳しい時期が分からんから何とも言えんが、呪いの依頼自体が急を要するのと正樹への指名依頼だという事を考えれば、それしかないだろう。>


 二人で話し合っていると、電話先の可憐が「仕方ないか」と言いながら


{それじゃ、改めて伝えるわ。 内容は十森美鈴に掛けられた呪いに対する対応。 おじさんの意見は「知ったことか! 研究の邪魔だ!」の一点張り。それで私がお父さんに相談したら、生きてはいるはずだから海外にいる正樹と、息子の一樹と娘の美雪の判断に任すだって。・・・ま、あの人(十森の父親)は昔からそうだったから当然だけど。 私の父さんの水の精霊術による診断だと、呪術による呪殺らしいよ。・・・偏見がある人だったし、傘下の術師の家の人たちも恨まれてるだろうから、特定は難しいらしいけど。}


 可憐からそう聞かされるが、ハッキリ言ってもう自分には関係ないと思っている正樹は


「・・・それを俺に話してどうしろと?俺にはもう家族はこの国には居ないぞ?過去の亡霊がどうなろうが、関係ないな。依頼と言うなら報酬次第で受けるがな。」


 正樹のその冷酷な発言を聞いた可憐は、訝しむ口調で


{・・・それ、本気でいってんの? それとも家を出た時に全て捨てちゃった?}

「捨てたのは事実だが、家は出たんじゃなく、旅という名の勘当を言い渡されたんだ。 あの、世間体を気にした血統による術形態にしか興味のない親にな。 だから、俺の方から心配して駆け付けるなんてことはまずないと言っておいてくれ。」


 話はもう終わりだと言う様にそう断じた正樹は、ふと気になったことを聞くことにした。


「因みに、この番号は誰に聞いた? 一応プライベートと仕事を分けてるが、この番号は仕事用だぞ? さっき言った暗号も、仕事の内容によって分けているんだ。 俺の自作アプリに登録して、種類別に枠を作って、依頼の来た日時なんかも入るようにしてるから、かなりの便利さだ。」


 正樹の質問に可憐と名乗った相手は、想像以上のハイテクを使っている事に{へー、何か知んないけど凄いんだねー}と驚きつつも{・・実は・・・}と言葉を濁した後


{イギリスの西洋術師協会のタニア・クラインって知ってるわよね?}


 イキナリの知り合いの名前に正樹も驚きながら


「・・・ああ、前に向こうで依頼を受けてた時に、知り合った奴だな。 色々と道具を使いやすい様にしてやったら、知らん内に懐かれてたからな。 覚えてるぞ。・・・そういえば、アイツも確か今年17の高2だったな。まともに向こうの高校に通っているのなら。」


{一応は通ってるわよ? 私達の通ってる隣町の聖霊・魔術師混合養成高校に私の親友としてね? 確か、タニアと正樹がイギリスで知り合ったのって一昨年の年初めでしょ? 入学式で私が一樹君と美雪ちゃんを色んな所に案内してるときにイキナリ一樹君に後ろから抱きついて「マサキー!久しぶりー!」って言ってきたんだから、ビックリしたわよ。確かに、一樹君と正樹は似てるから、初めて見た人には分からないと思うんだけどね。}


「まーな。・・で、そのタニアがどうした?俺も、そろそろ次の仕事があるから、早く移動したいんだが?」


 正樹がそういうや、可憐は{あ、待ってよ}と言って


{じゃー、住んでるとこ教えなさい。連絡も頻繁に取りたいからプライベートの番号も一緒に。今日の晩か、明日にでも三人で遊びに行くから。}


 可憐の要求に、正樹はタイムラグ無しに


「両方却下」

 と答えた。

 だが、それでは引き下がれないのが十森家と色々と縁があり、義理もある霧水家の長女。

 家が近くというだけでなく、術師としての形態が似通っている両家は親交も度々重ねているのだ。過去に正樹が術を使えないと知られるまで可憐と婚約者同士だったと言うほどに。その為、すかさず理由を聞く可憐。

{どうして?捨てられたから、もう顔も見たくないの?}

「いんや。それなら依頼も受ける訳ないだろ?さっきも言ったが、報酬次第では依頼も受けるつもりだ。・・・ただし。」

{ただし?}

「あの家とはもう縁を切ったからな。慣れ合うのは嫌なだけだ。」

{じゃー、私とは会える?十森家とは関係ない所で会うのならいいでしょ?}

「それもプライベートでは止めとくわ。何処であの女が見張りを付けてるか分からんからな。呪いとかを掛けられてるんだったら、尚のこと怪しいじゃねーか。携帯の電波は精霊が妨害してくれてるから安心だが、公衆電話は電波が多すぎて精霊も特定は難しいらしいからな。」


 正樹の言い回しが理解できたのか、可憐の言葉が少しだけ明るくなり

{なら、勘当されるのを止められなかった事で私の事が嫌いになったと言う訳ではないのね?}


「勘当されたのはあの女が変な思想の持ち主だったからだろう。親父の方は好きにしろて言ってたんだから。それを「術の使えない出来損ないに、十森の人間の資格は有りません。息子だから今まで育てましたが、神霊術の覚醒の年齢が過ぎた以上、このまま家に置く必要もありません。選別に1000万出します。それでどこか遠くに行きなさい。もし、明日見かけたら不法侵入として訴えます。・・・消えなさい!」だからな。・・・まさか住民票の俺の欄を抹消されてるとは思わなかったが。だから、お前の事を嫌いになったって訳じゃーないから、それは言っとくわ。」


{じゃー、依頼を出すわ。 正樹って精霊の声を聴ける上に姿も見えるんだから、当然精霊の加護を物に付与エンチャント出来るよね? それって水の精霊級のSAにもできる?}

「媒介はあるか? って言うよりお前らの学校にその手の専門家は居ないのか? 生徒は兎も角、教師なら声の聞こえる位の術師も、SA製作師も、付与師も居るだろう。 少なくとも今まで見てきた海外の高校の教師はそこそこいいのが居たぞ? 歳は取っている奴ばかりだが。」


{アクアマリンの宝石を填め込んだ指輪を使ってる。 それが中々居ないのよ。 まだ私やタニアちゃんの方が下手な先生より優秀なくらい。 隣町の筈なのに、十森のおばさんの影響で魔力重視の教育方針だから。 その所為で製作や付与の知識のある教師の雇用が殆どないわ? 因みに私のSAは学校で一番の製作師の先生の作だから、正樹の腕がどれほどの物か見せて貰うわよ?}


(色々言いたいことは有るが、最後のは挑発か?)

<そうじゃないの? タニアちゃんから聞いてはいても、実力は自分で見ないと納得できないんでしょ>

(まー、可憐は俺の海外での活躍をタニアから聞くだけだから、仕方ないのか)

<そういうことだね>


 色々とシルキと話をしていたら、可憐が返事を聞いてきた。


{急に黙って如何したの? まさか出来ないとか?}


「いや、ちょっとな。 そんでアクアマリンの宝石なら大丈夫だ。それだけの依頼なら格安で受けてやる。まー、その手の依頼は何時も格安でやってるんだがな。序になにか必要な物があれば用意しとけ、その性能に応じた加護を付けてやる。」


{ならさ、ならさ。一樹君と美雪ちゃんも呼んでいい? 二人もそろそろ質のいいSAが必要な術者に成ってるからさ。}

「十森の系列にいい付与師は居ないのか? 海外では十森の話は全然耳に入らんから分からんが。」

{十森家はあの母が牛耳ってるからね。 その近辺の学校も同じ考えの人は多いんだよ。 幸い私や一樹君達は、ワザと遠い高校に行ってそんな偏見から抜け出したけどね。 今じゃー三人とも普段の精霊の声が微かにだけど聞こえて、私は王級の一歩手前、二人も上位精霊術の使い手だよ}

「へー、思い切った判断をしたもんだな。 あの女はなんて言ったんだ?」

{二人の選んだ道なら反対はしませんだって。}

「俺の時とはえらい違いだな。 まーいいか。 場所は?」

{・・・千葉の支社はどう? あそこなら相応の部屋を用意してくれる筈だし。 警察の退魔特別管理室って部署の知り合いに紹介したい人もいるし。}

「・・・分かった。 時間は今日の夜にでも支社に確認しとけ。 俺は今からこっちで受けた依頼をこなしてから支社に時間を伝えに行く。」

{分かった。 じゃー、後で確認しに行くわ。 それじゃね?}


プー・・プー・・プー…


<可憐ちゃんも相変わらずだねー。 眷属の言ってたそのまんまだよ。 それに流石は霧水の訓練だね。 微かに声が聞こえてる時点で王級一歩手前なら才能も有るだろうし、もしかしたらサラちゃんと互角位の術者に遠からず成長するんじゃないの? でもこの分じゃ、一樹君達は十森の考え方の関係上可憐ちゃんよりは苦戦しそうだね。 上手い具合にレベルの高い指導者が居たらいいけど。>


(なんだ? まるで分からない感じに言うな。 お前ら精霊なら眷属の見た映像をそのまま共有できるだろ。 何故しないんだ?)


<無理言わないでよ。 あの家は君の母である女に掛けられた呪いが原因で瘴気が発生して、その所為で一種の瘴気の結界に成っててね、慣れた精霊位しか入れないんだよ。 しかも呪力に由って眷属との連絡も通信のみに成ってるしね。 情報を映像で視る為には直接乗り込む位しかないんだよ。 それに、全ての眷属の視覚共有なんて、幾ら精霊の各属性の上位者でも無理があるんだよ?>


 シルキの説明に正樹は何とも言えない微妙な表情かおになる。


(それ位のヤバさなら、近々依頼が来るかも知れないか? しかし、精霊も万能じゃないって事か、改めて何事も上手く行くって事は無いって事がわかるな。)


 気になった正樹がシルキに尋ねると・・・。


<可能性は大だね。さっき、可憐ちゃんが言ってた「退魔特別管理室の知り合い」って人が優秀な人ならそろそろ行動に出てもおかしくないと思うよ?>


(なら、下調べもせんといかんしさっさと今回の割り込み依頼を終わらせに行くか。 サラの方もそろそろ現場に着くころだし。)


<・・・うん。 今から向かえば、丁度向こうの依頼人が説明してくれる時に着くはずだよ。>


(・・・じゃー、行くか。)


 そう言って、次の依頼に赴く正樹だった。

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