プロローグ3(光陰矢の如し)
筏を組み終わり、昼食を摂った後。
シルキからの最後の忠告を聞くことになった。
<さて、これから出発するにあたって一つ注意がある。>
(なんだ?)
当然の事ながら正樹が質問する。
<それは沖に出たら最後、潮流の関係上筏では君の今の実力上海岸に戻るにはほぼ不可能。 僕の予想では、ネパールの海岸沖位に到達してやっとこさ潮流に逆らって海岸に辿り着けるようになる予定だ。>
そこでシルキは一旦区切り、正樹を見つめたままで再度確認した。
<したがって、この国に戻るのは世界を周った後だ。 その点を考慮に入れて聞くけど。 この国を離れる事になっても本当に良いんだね? 今なら例えホームレスしか道が無くてもこの国の性格上、死ぬことは比較的少ないよ? 母親に貰った選別があれば、3~4年は贅沢をしなければ生きて行く事は出来る。 それから18歳になってからバイトをすればその日暮らしは出来るだろう。 今から向かう場所は行きも地獄、暮らすのも地獄の場所だ。 生きていれば後に運が良ければ怠惰な毎日が迎えられるし、他の術者に出来ない事を出来て優越感に浸るのも無理じゃなくなるけど、それまでの苦労からすればお勧めはあまりできない。 それでも行くかい?>
シルキの脅しの様な説明に、正樹は苦笑しながら
(今更だな。 もうこの国に未練もないし、俺の力がどの位なのか知りたくもなってるんだ。 迷いはないよ。)
口に出さないことでその意志を明確に伝えた正樹に、シルキも頷き。
<分かった。 その意志は確かに受け取った。 では、今から出発しようか。 先ずは筏を海に浮かべてくれ。>
指示のまま正樹は筏を海に浮かべる。
<よし、そのまま筏に足を掛けながら、神気を通して筏全体を強化しつつ、筏を縛ってある紐を強化した状態で筏に乗ってくれ。>
(乗ったぞ?)
<じゃー、これからやることはまだ君には無理だから僕がやるけど、何をやるかをキッチリ見といてくれ。 これからやることがこれから習う事になる技術の応用だから。・・・行くよ?>
そう言ってシルキが海面に手を添えると、海面が急に波打ちだしてあっという間に巨大な波になった。
その光景を呆然と見ながら正樹は・・・。
(スゲーな。 こんな事が簡単に出来るようになるのか?)
と半信半疑の質問になった。・・・そして、その問いにシルキが応える。
<勿論、ここまで成るのには最低でも半年は掛かるよ。 予定では最初の一年で全ての基礎を叩き込み、運よく精霊帝に認められ、資格者<コマンダー>の素養を見出されれば、その後精霊帝と共に全ての奥義を伝授できる。 運悪く認められない場合は、僕ら精霊のみで出来る限りの事を更に1年で叩き込む心算だから。>
その説明中も波は迫り、筏ごと正樹たちを遥沖合へと押し流した。
<さー、いよいよ遥かなるヒマラヤ山脈のチョモランマへ旅路の始まりだ!>
こうして長い長い波乱万丈の航海の旅を迎えた。
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一週間後の海上にて
「おおー! 今日は凄いのが架かったな、筏の上では捌けないのが残念だ。」
そんなことを言う正樹に対し、シルキは有る方法を提示する。
<それなら、今筏だけに張り巡らせている神気を少し広げるイメージをしてみて? 海面だろうが何だろうが、森羅万象に差別は無いよ。 意識を向ければ応えてくれるのが精霊の有効性だ。>
改めて言われると納得した正樹は、早速とばかりに神気を筏全体から海面へと広げる。・・・すると。
「・・・マジで海面が筏の延長線上みたいに成りやがった。」
<まあね。 神気って言うのは物凄い万能性があるからね。 ただし、この前言ったみたいに使える人間は先ず居ないって事だけだね。>
「ふーん。 まあいいか。 今はこの飯を捌いて三日分くらいの食料にするだけだ。」
等等、海の上でも訓練が常時行われていたのであった。
それから、年月は矢のごとく過ぎて行き、諸国を周って各国に知り合いも出来た頃。
依頼に依って日本に帰国する数日前に、ある国のある家での旅立ちの日を迎えた。