プロローグ2(出立準備)
(よし、この辺でいいだろう。 先ずは神気と精気と心気の違いから教えてくれ。)
海岸にたどり着いた正樹は、早速とばかりにシルキに説明を要求する。
<了解。 先ずは神気からだ。 神気とは簡単に言えば神様の気配だね。 断っておくけど、これを持つの人は限りなく少ない。 零と言っても過言ではない位だ。 これを鍛える事で、普通の人の何倍も力を出すことが出来る。>
(例えば?)
<ふむ、実際にやってみるのが早いね。 ちょっとあそこにある岩の方に向かってくれる?>
言われた正樹は指示通り、前方の岩に向かって歩く。
<今の状態で、心臓の右の方が少しだけ他とは違った温かみを宿してるのが分かる?>
シルキに言われて確認すると、なるほど確かに心臓の右の方が微かに暖かい。
なので心の中で頷いておく。
<その暖かくなっている所が僕ら精霊が神核と呼ぶ第一の心臓だ。 その神核から少しだけ足の方に暖かみを移してご覧? 意識するだけでいいから。>
シルキの言葉に従い、暖かみを意識して移動させると・・・。
(お・・おおーー! 急に足が光り出して速くなったぞ!!)
何故かは分からないが、意識を移すだけで足が光に包まれ、足の砂を踏みしめる力強さが増してしまった。・・・確かに、これは色々と応用が効く力の様だ。
<どうやら納得いったようだね? 今の力が有り体に言えば、君だけが持つ特別な力という事だ。 しかも、かなりの量が有るから、訓練を繰り返せば生身でも聖霊術者の神霊級の術にも対抗できる・・・っていうか、圧倒できるだろうね。 ま、要は訓練次第だから、次に行くよ。>
その説明を聞いて、俄然他の二つにも興味が出てきた正樹は少しワクワクしながら次の説明を待った。
<次は聖気だね。 これは君たち聖霊術者が精霊級の術や心級の術を使う時にも多少は使っている力の事だ。 しかし、多少はというだけで厳密には3割程度しか使えていない。・・・聞くが、正樹。君は聖霊術を使う際に何処から力を得ようとして、何処から外に出そうとしている?>
問われて改めて考える正樹だが、考えてみるとあまり気にしてなかったことに気付く。
<どうやら、気にすらして無かった様だね。 いや、責めているんじゃないんだ。 それだけの才能が有るって事だから、逆に喜ばしいんだよ。 説明すると、君らは聖霊術を使う際、この世界の森羅万象における様々な精霊に言霊を用いる事で語りかけ、その語りかけに応えてくれた精霊が世界の事象に干渉して現象を起こしてくれるんだ。 従って、先ほどの答えは、「精霊が」「術者の体内から体の一部を通して」が正解だ。 体内の力は謂わば体力や精神力、魔力だ。 君の場合はその全てだね。・・・君ってさ? 幼い時から気絶したこと無いだろ?>
そのシルキの質問に、記憶を辿り、頷く正樹。・・・すると、シルキがやっぱりと言う様に説明する。
<それは並外れた精神力が原因なんだ。 その所為で僅かな術の行使にすら力が溢れ出すほどにね? 体の一部って言うのは、他の術者を見たことあるなら分かるかもしれないけど、手や加護を与えられた道具が一般的だね。 偶におでこや目から出す変わり種も居るけど、意味は無いから。>
再び話を区切って正樹に
<・・・ここまでで質問は? 言っとくけど、これは君の場合は今は実践できないよ? 出来るようになれば、集中的に訓練できるほどには潜在的な聖気を宿しているけどね。>
そう説明と同時に尋ねるシルキ。
今は未だ実践できないと言ったシルキの説明に少しがっかりするも、仕方ないと諦めて次の説明を求める正樹。
<無いようだね? では、最後と言う訳でもないけど今教えられる物では最後に成る心気だ。 これは文字通り心臓からの気力、すなわち武闘家などの格闘の達人が良く使っている気功とかのことだね。 この力に関しては案外君の方が詳しいかもしれないけど、所謂内気功と外気功がある。 内気功は体の内側の活性化や治療を目的とした気という力の操作。 外気功は体の外、もしくは表面に作用する力の操作。・・この力も今のところは知識だけだね。 勘が良い方だと思うなら腹の下の辺りに意識を集中してみな? 違和感があるはずだよ?>
それを聞いて早速とばかりに集中する正樹。 すると・・・・。
(おー!! これか!)
確かに、集中すると何か温かい感じの力が漲る感じがする。
正樹の様子で、心気の存在に気付いたと感じたシルキは、嬉しそうに正樹を見ながら。
<どうやら分かったようだね? その力が僕ら精霊が心気と呼んでいる力だ。そして、鍛え方は簡単で、使用すればするほど伸びる。 だから、今後は常にその力を体中に張り巡らせていることを勧めるよ。やり方は神気と同じだ。 その感じられる力を移動してやるだけでいい。 そうして凝縮した所がその分、外気功なら強化されたり、内気功なら自然治癒力の向上に繋がる。>
そこまで言ったシルキは、実践してみな? とばかりに歩いてきた先にある岩に目を向けて
<試にその岩を心気で覆った拳で殴ってご覧?面白い結果になると思うよ?>
と目を細め、結果が楽しみで仕方ないと言う風な表情で正樹に提案した。
その提案に正樹も
(応! やってみる!!)
そう答え、ノリノリで指示された様に力の移動を割とスムーズにこなして、目の前の岩目掛けて拳を振り上げ・・・。
(オラー!)
渾身の力と心気を篭めて、拳を振り下ろした。 ・・・その一瞬後・・・。
ドォーーーーーン!!
物凄い破砕音と共に岩が砕け、拳にばかり集中していた正樹の心気に覆われていない、顔の部分に砕けた破片が飛んできて当然のごとく・・・。
ガンッ!!
「痛ぇー!!」
破片に中り、その場に痛みで蹲る結果になった・・・。
その光景を予想していたシルキや他の精霊は、口々に感想を述べる・・・・。
<あーはっはっは!! くっくっく!! だから・・言ったでしょ?・・・面白い結果に成るって。くく・・僕たちは・・どんな結果になるのか・・くぅ・・大体の見当は付くくらいには、人間を観察して来ているんだから・・・ふぅ・・・ちゃんと自分なりの予想は立てないとこれからの修行も、修業が終わってからも苦労するよ? 精霊はその寿命の無さ故に経験で理解してるけど、人間はその寿命の短さ故に考え、予想を立てる事に考える思考が発達してきた生き物なんだから。>
先ずシルキが何故分かったかを説明した後、フレイが・・・。
<・・・くくくっ!・・・そうそう・・・。・・・あー久々に笑ったー。 ありがと。 それに、人間の考えてから行動するまでの行動の速さは、精霊の判断の速さとは比べ物にならない位に早いのよ。 これも寿命の関係かもね? それ故に一瞬の判断の正確さも必要だってことを学んで貰わないといけないから、ワザと報せないで体に教え込まそうと見守ったってわけ。>
正確な判断力の必要性を語り、ディーネが・・・。
<・・・けど、痛い思いをした甲斐あって分かったでしょ? 如何に状況判断が大切かが。 今のでも、少し考えればアンタだってその位の岩くらいなら破壊させられるって分かったはずよ? その証拠に岩を砕いた後の達成感が思い浮かんで、手が痛くなるかも・・・なんて事を一切考えずに殴ったでしょ?>
状況判断の大切さを語った。 そして、 シドが・・・。
<あの場合も、手が痛くなるかも知れんのじゃから少しくらい手加減すれば今のような痛い思いはせんで済んだのじゃ。 砕いた後の事ばかりで頭が先行しているからこそ、今の痛みがある。 どうじゃ? 一つの事柄でも意識するのとしないのでは結果が大分違うじゃろ?>
最後に事象の結果を想像しろという忠告で教育が終わった。
<まー、これら神気、心気、聖気を僕ら精霊は「資格者の三大気力」と呼んで、備えている人間を滅多に見られない才能の持ち主として歓迎する事にしてるんだ。 ・・・まー、備えていなければこれから行くことになる修行場まで辿り着く事さえ困難なはずだから、寧ろ行く権利を得たって所かな?>
シルキのそんな脅しの様な発言に半ば慄きながら、早速後悔し始めた正樹だが・・・。
(まー、どうせ家には帰れないんだし、行く宛もないからな。これから生きて行くための鍛練と思えば良いか。・・・聞いただけで死にそうな感じがするけど・・・。)
正樹は普通にこれからの事を思って考え事をしていただけなのだが、思うだけで精霊に伝わるという事をすっかり忘れてしまっていたので・・・。
<死にそうな・・じゃなくて、甘い考えだとマジで死ぬよ? 今の君はまだ術の行使が出来ない状態なんだからね? 僕らに出来るのは君にできる事を示唆して上げるだけ。 術が使えるなら力を貸せるんだけど、今は無理だからね。 だから、自分を護って生きて行くには死ぬ気で鍛練しないと駄目だよ?>
考えが聞こえた精霊に釘を刺されてしまった。
そして、海を渡るための方法の伝授へと移行した。
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<それじゃー、先ずはそこの木をあっちに落ちている錆びついたナイフで切ってみようか? 分かってるとは思うけど、研ぎ石なんて便利な物は落ちて無いだろうから単純な神気の移動で切る所から教えるよ。 先ず取ってきて?>
シルキに言われるがまま、正樹は先ほどの心気にて足の力を強化させると、20メートル程の距離を一足飛びで縮め、錆びたナイフを拾って再度足の強化をして元の位置に戻ってきた。
パチパチパチ・・。
するとシルキが笑顔で拍手しながら・・。
<上出来、上出来♪ あそこで普通に走って取に行ってたら、ホントに気を使う鍛練をする心算があるのか疑ってた所だよ。 何も言わないでもちゃんとやれていたってことで第一段階は合格だね。 これからも色んな場面で試験的に試すから、気は抜かない様に如何に効率よく強くなれるかだけを考えてね?・・・じゃー、説明をします。 シド? お願い。>
その返事と共にシドが地中から現れ、正樹の前に立つ。
そして、これからやることの説明をし始めた。
<これからお主に物体に気を送る事によって発生する違いを教える。 先ずそのナイフを持っている手を神気で包んでみろ。>
正樹は言われるがまま手に意識を集中させて、神気を纏わせる。
十分に神気にて包み込んだ所で、シドから待ったの声が掛かる。
<先ずはその位の強度で良いじゃろう。 次に己の手からナイフへと神気を移動させるイメージをしろ。>
その言葉に従い実行する正樹。・・・・すると。
(おおー! 錆びついたナイフが輝きだしたぞ! ・・なんでだ?)
正樹の疑問に、シドが「当たり前じゃろ」といい、説明する。
<お主に流れている神気は、通常なら意識しなければお主自身には見えん物じゃからの。 勿論、普通の人間にも見えんぞ? しかし、神気を操っておる最中は集中しておるのでその神気が自身にも見えるようになる。 手の輝きにしろ、足の輝きにしろの? そして、その力を物体に移動させてやることで、物体にもお主の意志で神気を宿せるようになるのじゃ。 ただし、意識を傾けておらんと持続はせんから他人に神気を宿した物体を譲渡する事はできんがの?>
その説明で大体の事を察した正樹は考えが正しいのか問いただす。
(なるほど? 俺の神気を宿らせた物体なら、俺の意志のままの強度になったり切れ味になったりするのか。 そして、その力は光の強さに関係があると?)
正樹の考察が正しくて、つい嬉しくなったのか、シドが笑顔で頷きながら。
<その通りじゃ。 想像力があってよい事じゃ。 そこでじゃ、その意識のままに切れ味を想像し、そこの木に縦に切れ目を入れて診ろ。 先ほどの痛みを思い出して、やった後の状況を想像しながら少しばかり手を抜いてやってみるのじゃ。>
正樹はさっきの二の舞はゴメンだと、周囲の状況を見た。
辺りには色々とゴミが散らばっているが大して危険な物は無い。
これならさっきの様な事態にはなるまいと、一刀両断できる位の力でナイフを振るった。
ズバッ!!
そして、そのまま木は両側に倒れるのだが。・・・あまりに綺麗に切れすぎたため、倒れる勢いが殺されずに物凄い勢いで倒れ込み・・・結果。
ズドーーン!!
倒れた木は海岸の砂を巻き上げ、当然・・・。
「うわっ! ぺっぺっ! くそー、こういう事になる可能性もあるって事か。 色々と勉強になるよ。 学校じゃ、こんな行動の結果予測みたいな事は授業しないもんな。 事が起これば、その時に対処すればいいって考えの場合が多いし。 地震や、火災なんかの重大災害に対しての訓練はしても、こんな小さい災害の予防訓練なんてしないもんな。 今のも周りに人が居なかったから良い物の、ヘタすりゃ木に押し潰されて、赤ん坊や年寄りならあの世行きだし。」
その正樹の考察が嬉しいようで、頻りに「うむうむ」と頷く笑顔のシドが居た。
その二人? の様子を微笑ましそうに見ながら、シルキが正樹に続きを作るように促す。
<さー、簡単な講義も終わったことだし、そろそろ筏みたいな物でも作ってみようか? これだけの木材があれば十分でしょ。 材料は筏を組めるだけの量の丸い形に伐った木材と、木材同士を結び付ける木に神気を通して、強化した木で作ったひも。 編み方は木の精霊のモックンがその都度指摘してくれるから問題は無い筈だよ。 さあ、昼まであと2時間位だから、一隻の筏を作って海の幸を取って火で焼き魚にして食事をした後、大いなる海を渡った先ネパールへの旅路へ出発と行こうか。 ああ、最初の食事はサービスで海の幸の方から来てもらうから、存分に筏づくりをしてくれて構わないよ?>
こうして、やり方を教えて貰った正樹は比較的楽に筏一隻を作り上げることに成功し、昼食を摂ったのち、遂にネパールへの海を渡る旅がスタートする事になった。