目覚めのひと飛び
「おとうさん、私、大きくなったら、おまわりさんになりたい!おまわりさんになってね、おかあさんを悪い人から守るの!」
レンガ作りの小さな家の中、黄土色の髪をした少女が目を輝かせながら話す。
「おお!それは頼もしいな、ソルシエよ!立派なお巡りさんになるんだぞ!」
「あら、頼もしいわね、ソルシエ。じゃあ、お母さんもあなたがおまわりさんになるまで頑張らなきゃね。」
その言葉を聞いて、少女は決意を固める。自分は立派な警察官になって母を守るのだと。
「うん、まっててね!」ーーーー
ーーージリリリリリリリ!!!!
「…ぅぬう…!」
狭い部屋の中で、けたたましく鈴の音が反響する。目を開くと、眼前にはくすんだ灰色の天井が見えた。
「…夢か…」
なんだか、すごく懐かしい夢を見た気がする。小さい頃の私と、父親が出てきていたと思う。そっか、わたし、警察官になりたかったんだっけ。
ベッドの中から手を伸ばし、いまだに音を鳴らしている目覚まし時計のボタンを押す。ぴたりと音がやみ、元の静寂が訪れた。外からは鳥がチュンチュンとさえずる声。朝の8時だ。
今日は休日。本当だったら、昼まで寝ていたいくらいなんだけど、大事な予定があるから、起きなきゃ。
ベットから体を起こし、顔を洗いに洗面台に行く。冷たい水で顔を洗って、タオルで顔を拭いて、黄土色のくせっ毛をくしでとかす。いつもこの順番。
なぜだかわからないけど、鏡で見る自分が、いつもよりちょっと老けて見えた。私は今年で26歳。まだ早いような気がするけど、もう肌の老化が始まってるのかもしれない。
朝食代わりのパンをかじりながら、私は目の前に右手をかざす。すると、空中に長方形の半透明な画面がふわりと現れた。 指で軽くスワイプして、今日の予定を確認する。予定の欄を見ると、「11時 母と面会」の文字。そう、これから入院してる母に会いに行くんだ。
支度を終えたあと、しばらくの間、ホログラムに映し出されるニュースを見る。
いろんなニュースの見出しがあるけど、ふうん、と他人事のよう流し見するのが私の日課だ。
「人気アイドルユウカ、ライブ観客動員数史上最多更新」
「正規雇用率はなだらかな上昇。-政府発表」
「シンドール社の代表取締役、IDカードの偽造で書類送検」
え、シンドール社って私の目覚まし時計作ってる会社だったよね。役員の人カード偽装してたんだ。まじか。…まあでも、私みたいな商品買ってる人間にはあんまり関係ないんだけど…。
そんなことを考えながら、私はしばらくグダグダしていた。
ふと画面右上の時計を見ると、10時を少し過ぎていた。まずい、もうこんな時間か。
「…そろそろ行かなきゃな……」
私は窓際にあるほうきを手に取り、家の外に出る。朝の陽ざしが、私を照り付ける。風邪も悪くない。…絶好の飛び日和、だね。
ほうきに股がり、軽く力を込めると、ほうきがふわっと浮遊し始める。…さあ、行こうか。
これから始まるのは、普通な私の、なんてことない日常。
今日も私は、ほうきで空を飛ぶ。




