表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/72

63 偽りの白粉  「後宮の名探偵・太后様の暇つぶし」

 @美しき復讐の結末


 ——ぱたり。


 韓蓮香は床に膝をつくと、ぽろぽろと涙をこぼしながら訴えた。


「私が……私が妃様を殺したのです……!」


 翡翠苑の一室。柳青荷と蘭珀然がじっと彼女を見つめる中、太后は優雅に茶をすすりながら、微笑んでいた。


「まあ、思ったよりあっさり認めたわね?」


「えっ?」


 涙ながらに自白する韓蓮香だったが、太后の言葉に思わず顔を上げる。まさかの反応に、柳青荷も苦笑しながら口を挟んだ。


「太后様、普通はもう少し深刻な雰囲気になりません?」


「だって、どうせ犯人はこの人でしょう?」


 太后は扇を軽く振り、蘭珀然が「ご明察です」とでも言いたげに頷く。


「でもまあ、一応話は聞いておきましょうか。動機は?」


 韓蓮香はぐっと唇を噛み、震える声で続ける。


「……妃様は美しい方でした。でも、私はあの方に裏切られたのです」


「へえ、どんな風に?」


 太后の気楽な口調に、柳青荷は思わず肘で小突きたくなる。——この場面、もうちょっと緊張感持ちません!?


 韓蓮香は恨みを滲ませながら語った。


「かつて私は、妃様の信頼を得ていました。でも、ほんの些細な失敗で……妃様は私を簡単に切り捨てたのです」


「どれくらい些細なこと?」


「髪飾りを逆に挿したとか、茶の温度が少しぬるかったとか……」


「まあ、それは許されざる大罪ね!」


 太后が「冗談よ」と肩をすくめると、柳青荷は「茶を吹きそうになりました」とばかりに咳き込んだ。


 韓蓮香は悔しさに震えながら、涙を拭った。


「だから、私は妃様が誇る“美しさ”を、その白さで蝕んでやろうと……!」


「ほう、それで鉛入りの白粉?」


「はい……妃様が疑わないように、少しずつ毒を仕込みました」


「毒を仕込むのって、案外手間よね?」


「……はい。かなり地道な作業でした」


 太后の妙に感心したような口調に、柳青荷はそっと額を押さえる。——どうしてこんなに軽妙な会話になってるの……?


 韓蓮香は震えながら続ける。


「でも、まさか……こんな形で死なれるなんて……!」


 後悔と罪悪感に打ちひしがれる彼女を見て、太后はしばし沈黙し、やがて静かに目を閉じた。


 ——この女官は、妃を殺した罪人でありながら、哀れな被害者でもある。


 ふと、太后がそっと目を開ける。


「さて、韓蓮香。貴女をどうするかしらね?」


 にこやかに微笑みながら告げられた言葉に、韓蓮香は息を飲んだ。


 蘭珀然が小さく溜め息をつく。


 ——さて、次はどんな“処置”が下るのやら。




 @ 美しさは毒にもなる?


 紫霄宮の一室。事件の余韻を残しながらも、太后は優雅に椅子に腰掛け、手元の茶をゆっくりとすする。


「嫉妬と復讐……それも後宮では珍しくないわね」


 さらりと放たれた言葉に、柳青荷は思わず目を瞬かせる。


「太后様、もう少しこう……重みのある言い方をしません?」


「ええ? だって事実でしょう?」


「まあ、そうなんですけど……」


 後宮では、嫉妬も復讐も日常茶飯事。——太后にとっては、これもいつもの“暇つぶし”の一環なのかもしれない。


 韓蓮香は正式に処罰され、翡翠苑の妃たちは顔を見合わせて震え上がった。


「美しさは刃になりうる……後宮ではそれが命取りになることもあるのね」


 李映月がため息交じりに呟く。


「刃ねえ。確かに、磨けば鋭くなるし、油断すれば折れるものね」


 太后は微笑みながら茶をすすった。


「でも、誰もが美しさに憧れる……それは、止められないものよ」


「……なんだか哲学的ですね」


 柳青荷が苦笑すると、蘭珀然が淡々と肩をすくめる。


「それにしても、太后様は本当に美しいですね」


「まあ、そんなに褒めても何も出ないわよ?」


 そう言いつつも、太后は扇を優雅に広げ、ちらりと鏡を覗く。


 ——“美しさ”とは、罪深いもの。けれど、それを楽しむのもまた一興。


 そんなことを思いながら、太后は今日も優雅に微笑むのだった。




 @ 太后の退屈しのぎ


 事件が解決し、紫霄宮に戻った太后は、愛猫の玉雪を膝に乗せて撫でながら、ふんわりとため息をついた。


「事件が解決したのはいいけれど……やっぱり暇ね」


 “後宮で起こる不可解な事件を解き明かす”という知的な遊びを堪能した後のこの静寂——どうやら太后にとっては、退屈という名の新たな難題が立ちはだかっているらしい。


 柳青荷が、思わず肩をすくめながら微笑む。


「またですか? じゃあ次は、太后様の美しさを保つ秘訣でも調べます?」


「ふふ、それも面白そうね」


 太后は優雅に微笑みながら、手鏡をちらりと覗き込む。


 蘭珀然は、そんなやりとりを静かに聞きながら、淡々と言った。


「ですが、太后様が誰よりも美しいのは、知略があるからでしょう」


「まあ、そんなに褒めても何も出ないわよ?」


 そう言いつつも、太后の唇は微かに上がっている。


 ——満更でもないらしい。


 柳青荷がくすくす笑い、蘭珀然は無言のまま静かにお茶を淹れる。


 平和な紫霄宮。だが、太后の退屈しのぎが始まる時、また新たな騒動が巻き起こるのは時間の問題である。


 太后は茶を一口すすり、ふっと微笑んだ。


 ——さて、次の“遊び相手”は誰かしら?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ