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60 千里眼の猫 「後宮の名探偵・大后様の暇つぶし」

@第二の事件



 翌朝、紫霄宮の庭はいつになく騒がしかった。宦官の一人が突然倒れ、口から泡を吹いて絶命したのだ。


「ぎゃああ! だ、誰かーーっ!!」


 叫び声とともに、宮女や宦官たちが右往左往しながら大騒ぎしている。その中心で、動かぬ宦官のそばにひょいっとしゃがみ込んだのは蘭珀然だった。


「ほう、また毒か」


 彼は死体を観察しながら呟くと、懐から小さな銀の針を取り出し、死者の口元にかざしてみる。そして、微かに香る食べ物の匂いに気づいた。


「……これは鰹の煮付けの匂いだな」


「え? そんなので死んじゃうんですか?」


 青荷が驚いて尋ねると、蘭珀然は肩をすくめながら答えた。


「いや、普通は死なん。だが、この鰹の煮付けには特殊な毒が仕込まれていたらしい。時間差で発症するやつだ」



 一方、蘭明蕙は優雅に玉雪を膝に抱きながら、興味深げに事の成り行きを見守っていた。


「ねぇ、青荷?」


「はい、太后様?」


「昨日、玉雪が密書を見つけたでしょう?」


「ええ、そうでしたね」


「その時、密書には微かに魚の匂いがついていたと聞いたわ」


「はい、方慧仙様がそう仰っていました」


 青荷はこくりと頷く。太后は扇をひらひらと仰ぎながら、にこりと微笑んだ。


「そして今朝、その密書について知っていた宦官が鰹の煮付けで毒殺……。偶然かしら?」


「えっ? つまり……?」


「ふふ、分からない?」


 太后はお茶を一口飲み、ゆっくりと扇を閉じた。


「猫が密書を見つけたのは魚の匂いがついていたから。そして、宦官は魚料理で毒殺。まるで、密書と毒が一本の糸で繋がっているみたいじゃない?」


「そ、それってつまり……」


 青荷が目を丸くしていると、玉雪が「にゃあ」と小さく鳴いた。


「……ほら、うちの猫も『当然でしょう?』って顔をしているわ」


 太后はくすくすと笑いながら、さらに扇で優雅に風を送る。


「さて、そろそろ本気でこの事件を解き明かさないとね」


 玉雪は得意げに尻尾をゆらしながら、まるで事件解決を待ちわびているかのように、太后の膝の上で丸くなったのだった。



 @筆跡鑑定、開始


「ふむ、面白い」


 蘭珀然は紫霄宮の書斎で、筆を片手に密書と睨めっこしていた。机の上にはさまざまな筆跡の記録が広げられており、その真ん中に密書が鎮座している。


 太后・蘭明蕙は猫の玉雪を膝に乗せ、優雅にお茶を啜りながらその様子を眺めていた。


「珀然、どう? そろそろ分かった?」


「そう急かさないでください、太后様。筆跡鑑定には繊細な目が必要なのです」


 蘭珀然は細い筆を手に取り、空中でくるくると回しながら言った。


「ほう……繊細な目ねぇ」


 太后がくすくす笑うと、青荷が呆れ顔で小声で囁いた。


「でも、蘭さん、さっきまで『猫の毛が目に入った』って言ってましたよね……」


「聞こえてるぞ、柳青荷」


「ひっ、ごめんなさい!」


 そんなやりとりの中、蘭珀然が突然ピタリと手を止めた。


「……これだ」


 彼は筆を机に置き、密書の筆跡と並べた一枚の書を指差した。


「この筆跡、貴妃・李映月のものと酷似しています」



 その情報をもとに青荷がさらに調査を進めると、驚くべき事実が浮かび上がった。


「太后様、大変です! 李映月様、影衛司と密かに接触していた形跡がありました!」


「まあ、それはまた……随分と大胆なことをするのね」


 太后は興味深げに扇をぱたぱたと仰ぐ。


「つまり、この密書は彼女が書いたものであり、それを皇帝に届けようとしたものの、何者かによって盗まれた……そういうこと?」


「はい、ですが——」


 青荷が首を傾げる。


「なぜそれが紫霄宮の庭にあったのでしょう?」


 ***黒幕の正体


「そこよねぇ」


 太后は扇を閉じ、意味ありげに微笑んだ。


「密書が見つかった直後、皇后は“探していた”と言ったでしょう?」


「確かに……まるで密書の紛失を事前に知っていたような口ぶりでした」


 蘭珀然が腕を組む。


「さらに、毒殺された宦官は皇后派だった。そして、その密書が見つかったのは私の宮殿」


 太后は玉雪の頭を撫でながら、優雅に結論を告げた。


「これは偶然ではなく、仕組まれたものよ」


「……つまり?」


「密書を盗んだ者が、わざと紫霄宮に隠したのよ。そして、それを発見させることで“太后様が関与している”と見せかけたかった……」


「じゃあ、犯人は——!」


 青荷がハッとする。


「皇后派の宦官長・蘇青荷ね」


 太后がニッコリと笑った瞬間、玉雪が「にゃあ」と鳴いた。


「ほら、うちの猫もそう言ってるわ」


 玉雪は誇らしげに尻尾を揺らし、まるで「やっぱり私が見つけた事件ね」と言わんばかりのドヤ顔をしていた。




 

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