49 揺れる紅い紐「後宮の名探偵・太后様の暇つぶし」
容疑者たち:動機の探求
「さて……誰が、どんな理由でこの細工を施したのかしら?」
太后・蘭明蕙が扇を開き、優雅に顔を仰ぎながら呟く。その様子は、まるで茶会の話題を選ぶかのように軽やかだ。
一方、柳青荷と蘭珀然は、小声でヒソヒソと囁き合う。
「(母上、本当に楽しそうですね……)」
「(ええ、退屈しのぎを見つけた時の顔ですね……)」
そんな二人の心の声などお構いなしに、太后は容疑者リストを確認する。
1. 曹懐仁 - 宦官長
「まぁ、第一の容疑者は彼ね」
名前を挙げた途端、柳青荷は「ですよね……」という顔をする。
後宮の秩序を守るためなら手段を選ばない宦官長、曹懐仁。皇后派の中でも特に影響力が強く、何かと「問題の解決」を得意とする男だ。
「……つまり、“掃除屋” ですね?」
柳青荷が恐る恐る言うと、太后は微笑んだ。
「ええ。でも今回は、お掃除の仕方がちょっと雑ね」
「……なんか、すごく嫌な皮肉の言い方ですね……」
2. 文采薇 - 貴妃
「次は、この方」
名前を聞いた途端、蘭珀然が「あぁ……」と、何とも言えない表情をする。
「貴妃様、李瑶蓮と仲が悪かったですよね……というか、後宮ってみんな仲が悪い気がしますけど」
「仲良しこよしなら、面白くないじゃない?」
「(いや、後宮の争いを娯楽として楽しむのはどうかと……)」
3. 春蘭 - 侍女
「そして最後は、侍女の春蘭」
この名前が挙がった途端、柳青荷は考え込む。
「でも彼女、最近ずっと怯えていたみたいですよ?」
「つまり、何か知っていたのね」
太后はまたもや楽しそうに微笑み、ポンと手を叩く。
「さて、この中に真犯人はいるのかしら?」
その問いかけに、柳青荷と蘭珀然は思う。
(母上、もうすっかり名探偵気取りですね……)
それぞれの容疑者を思い浮かべながら、二人は同時にため息をついた。
真相の暴露
紫霄宮の広間。豪華な緞帳の下、太后・蘭明蕙は優雅に茶を啜る。
その前では、宦官長・曹懐仁が冷や汗をかきながら直立不動。まるで処刑を待つ囚人のような顔だ。
「李瑶蓮は、曹懐仁に殺されたのよ」
太后の一言が、まるで銅鑼のように部屋に響き渡る。
「な……!」
驚愕する曹懐仁。その横で、柳青荷と蘭珀然は「あー、やっぱり」といった顔で静かに頷く。
「彼女は、皇后派の秘密を知りすぎたのね。だから、口封じのために殺された」
そう言いながら、太后は紅い紐をくるくると指で巻き取る。仕草はどこまでも優雅だが、やっていることはまるで犯罪トリックの実演解説。
「ただの絞殺では疑われる。だからこそ、この金具を使って首の位置を調整し、自殺に見せかけたのね」
「証拠は?」
柳青荷がすかさず問いかけると、畳の上を指さす。
「この部屋には、別の場所で殺された形跡があるわ。血の跡を拭った痕がね」
曹懐仁の顔がピクリと引きつる。
「……太后様、なんと恐ろしいお方だ」
その呟きに、太后は微笑む。
「ふふ、暇つぶしにはちょうどいいわ」
ゆったりと茶を飲み干しながら、太后はまるでお気に入りの小説を読み終えたかのような満足げな表情を浮かべた。
その一方で、柳青荷と蘭珀然は顔を見合わせ、小さく囁く。
「……母上、本当に退屈しのぎで事件解決してますよね?」
「うん、後宮の人たちはそろそろ震え上がるべきだと思う」
事件解決後
紫霄宮の庭園には、ふんわりとお茶の香りが漂っていた。
まるで何事もなかったかのように、太后・蘭明蕙はゆったりと茶を口にする。
「青荷、やっぱり紅い紐は美しいわね。」
「は……?」
柳青荷は、思わず手に持った菓子を取り落としそうになる。
確かに事件の鍵となった紅い紐は見事な染め具合だったが、それを事件直後にしみじみ語るのはどうなのか。
「それにしても、暇つぶしには少し刺激が足りなかったかしら」
「えええっ!?」
青荷が絶句している横で、蘭珀然はそっと額を押さえる。
「母上……どうかほどほどにお願いします」
「うふふ、どうかしらね」
太后は優雅に茶を啜る。その笑みはどこか楽しげで、まるで次の謎を心待ちにしているようだった。
後宮の誰もが震え上がるべきなのかもしれない……。
青荷と蘭珀然は小さくため息をつき、静かにお茶を飲み込んだ。