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42 死を呼ぶ鈴 「後宮の名探偵・太后様の暇つぶし」

 翌朝、紫霄宮の一室にて——。


 太后・蘭明蕙は、扇を優雅にあおぎながら、集まった関係者を見渡していた。

 侍女の柳青荷、御薬房の方慧仙、そして影衛司の宦官たちが居並ぶ中、目の前には震える数名の女官と妃たち。


「さて、そろそろ“答え合わせ”をしましょうか」


 太后が言うと、青荷がすかさず紙と筆を構える。


「え、えっと……つまり、この事件のポイントは?」


「三つあるわ」


 太后は指を一本立てた。


「第一に、鈴に仕込まれていた吸入毒の性質」


 彼女は手元の鈴を軽く振る。


 チリン、チリリン……


 その音に、女官たちが一斉に身をすくめた。


「この鈴は、振るたびに微細な毒粉を空気中に撒き散らす仕組みだった。

 つまり、鈴を振った人間が最も毒を吸い込みやすい」


 青荷が思い出したように声を上げる。


「そういえば、最初に倒れた女官も、自分でこの鈴を拾って振っていました!」


「ええ。そして——」


 太后は、指をもう一本立てた。


「第二に、鈴を持っていた人物の動き」


 彼女の視線が、部屋の片隅に立つ貴妃・凌月珊りょう げつさんに向けられる。


「凌貴妃、あなたは事件の前日、ある女官にこの鈴を渡していたわね?」


「……!」


 凌月珊の表情が一瞬凍りつく。


「そ、それが何か?」


「その女官は、その直後に毒で命を落としたわ。

 犯人でなければ、知らずに自分も被害に遭う可能性があるはずよね?

 なのに、平然と渡せたということは、毒の存在とその扱い方を知っていた証拠よ」


 凌月珊は唇を噛み締めたが、すぐに冷笑を浮かべる。


「ふふ……太后様ともあろうお方が、随分と短絡的な推理ですこと。

 もし私が犯人なら、自分で毒の鈴を振るはずがないでしょう?」


「ええ、その通りね」


 太后はあっさりと頷く。


「だから——あなたは鈴を振っていない」


「……?」


「青荷、御薬房で何を言われたか覚えている?」


 青荷は、しばし考え——ハッとした。


「そうか! 方慧仙さんが言ってました! この毒は、“振るとすぐに舞い上がる”けど、“効果が出るまで少し時間がかかる”って!」


「そう」


 太后は微笑み、扇を閉じる。


「凌貴妃、あなたは鈴を直接振るのではなく、誰かに拾わせたのよね?

 そうすれば、毒の影響が出る頃にはあなたはその場を離れている。

 自分が吸い込むリスクを避けつつ、他人だけを確実に毒殺できるわけ」


「……っ!」


 凌月珊の表情が、ついに険しくなる。


 青荷が思わず身を引く中、太后は最後の指を立てた。


「そして、第三のポイント。

 鈴の本来の持ち主は誰だったのか?」


 その瞬間、女官たちの間から一人の少女が小さな声を上げた。


「……私……のものでした」


 顔色の悪い女官——蘭香院の侍女・梅香ばいこう


「この鈴は……もともと、私のものでした。

 でも……二日前に、凌貴妃様が“かわいい鈴ね”と褒めて、しばらく貸してほしいと……」


「貸した結果、その鈴は毒殺の道具に変えられていた」


 太后は、すっと目を細める。


「つまり、事件が起こる前からこの鈴を持っていたのは、凌貴妃……あなたしかいないのよ」


「…………」


 部屋の空気が、凍りつく。


 しばしの沈黙の後——


「フフ……フフフ……」


 凌月珊は、急に笑い出した。


「さすが太后様……。御見それいたしました」


 それは、諦めの笑いだった。


 やがて、扉の外で控えていた影衛司の宦官たちが、彼女の両腕を固める。


「この私を排除したいのなら、お好きにどうぞ。でも——」


 彼女は太后を見つめ、不敵な笑みを浮かべる。


「後宮の秩序を乱しているのは、一体誰なのか……よくお考えになって」


 そう言い残し、彼女は連行されていった。


 やがて、静けさが戻る。


 青荷は大きく息を吐いた。


「終わりましたね……」


 しかし——


「いいえ」


 太后は、茶を啜りながら微笑む。


「終わったのは“ひとつの事件”よ。後宮で暇を持て余している限り、新しい事件はすぐに起こるわ」


 青荷は、ガクッと膝をつく。


「ま、また事件ですかぁぁぁぁ!?」


 太后は、くすくすと笑いながら扇をた。


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