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35 消えた密書と毒殺 『後宮の名探偵・太后様の暇つぶし』

 


 @ 密書の行方と貴妃の赤い指


 紫霄宮:密書を探せ!


「密書は程香梅が持っていたはずよ。」


 蘭明蕙らん めいけいは、指先で扇を軽く揺らしながら言った。


「彼女が盗んだのだから、当然どこかに隠していたはずよね?」


「ですが、彼女の部屋は既に調査済みで、何も出てきませんでしたよ?」


 柳青荷りゅう せいかは首を傾げる。


「それが問題なのよ。どこに隠したのかしらね。」


「むむむ……。」


 柳青荷は腕を組んで唸るが、すぐに顔を上げた。


「太后様! もしや、口の中とか!?」


「……彼女がリスだったら可能性はあるでしょうけれど。」


 蘭明蕙は呆れ顔で扇を閉じる。


「もう少し現実的に考えなさい。」


「は、はい……。」


「密書は小さいものではないでしょうし、簡単に隠せる場所は限られているわ。」


 蘭明蕙はゆっくりと視線を巡らせる。


「髪飾り……?」


「え?」


 柳青荷がぽかんとする。


「彼女の遺体を見たとき、髪飾りだけは妙に整然としていたわ。」


「そ、そんな理由で!?」


「ええ、そして貴族の女性たちはよく装飾品に仕掛けを施すものよ。」


 蘭明蕙は侍女を呼び、程香梅の所持品を改めさせた。


 やがて、彼女の髪飾りが異常に分厚くなっていることが判明する。


 慎重に分解してみると——。


「太后様! ありました!」


 柳青荷が歓喜の声を上げた。


 髪飾りの中には、極限まで折り畳まれた密書が隠されていたのだ。


「なるほどね、なかなか器用なことをするじゃない。」


 蘭明蕙は満足げに微笑んだ。


蘭珀然らん はくらん、皇帝陛下に報告なさい。」


「御意。」


 蘭珀然は静かに頷くと、密書を持って去っていった。


 紫霄宮:貴妃の赤い指


「……それで、結局私を呼びつけた理由は何かしら?」


 文采薇ぶん さいびは、優雅に微笑みながら席に着いた。


 しかし、その笑顔の裏には確かな警戒心がある。


「貴妃様。」


 蘭明蕙はゆったりとした仕草でお茶を啜る。


「少し、お手元を見せてくださる?」


「え?」


 文采薇は一瞬動揺したが、すぐに取り繕い、手を差し出した。


 蘭明蕙は、ゆっくりと文采薇の手を眺める。


「……なるほどね。」


「何か?」


「貴妃様の手、わずかに赤いわね。」


「……!」


 文采薇の指が、かすかに震えた。


「封蝋の成分に、心当たりが?」


 蘭明蕙は、あくまで穏やかな微笑を浮かべている。


 文采薇はすぐに表情を取り繕い、涼しい顔で言った。


「それがどうかしました?」


「ええ、とても重要なことよ。」


 蘭明蕙は扇を軽く開きながら言う。


「密書の封蝋には、特殊な染料が混ぜられていたの。」


「……特殊な染料?」


「ええ。封を割った者の指に微かに色が残るのよ。」


 蘭明蕙は、ふわりと微笑む。


「貴妃様、密書の封を切ったのはあなたね?」


「……。」


 文采薇の表情が、わずかに歪む。


「まあ、証拠はそれだけでしょう?」


 彼女はすぐに平静を装い、余裕の笑みを浮かべる。


「私が密書を見たという証拠にはなりませんわ。」


「ええ、確かに。」


 蘭明蕙は軽く肩をすくめる。


「でもね、貴妃様。」


「?」


「あなたの立場を考えれば、それだけで十分でしょう?」


「……。」


 文采薇は何も言えなくなった。


 しかし、そこへ——。


「太后様、お待ちください。」


 すっと、間に入る人物がいた。


 皇后・沈玉蘭しん ぎょくらんである。


「この件は、もうお納めくださいませ。」


 沈玉蘭は、穏やかでありながら、絶対に引かない声音で言った。


「文采薇がこの件に関与している証拠は決定的ではありません。」


「まあ、そうね。」


 蘭明蕙は肩をすくめる。


「では、もう追及はなさらないということで?」


「もちろん。」


 沈玉蘭は微笑む。


「太后様のご慈悲に感謝いたしますわ。」


 文采薇も、すかさず頭を下げる。


「ふふ、よろしいわ。」


 蘭明蕙は席を立ち、庭の方へと向かった。


 そして、誰にも聞こえないように、ふと呟いた。


「……これでまた、暇になっちゃうわ。」


 後宮の名探偵・大后様の暇つぶしは、また次の事件を待つことになる。


 ——しかし、後宮に“完全なる平穏”など訪れるはずもなかった。


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