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34 消えた密書と毒殺 『後宮の名探偵・太后様の暇つぶし』

 


 @ 密書の真の狙い


 紫霄宮:太后の推理タイム


「なるほど、つまり……。」


 蘭明蕙らん めいけいは、優雅に扇を開きながら言った。


「密書を盗ませた黒幕がいるということね。」


「はい!」


 柳青荷りゅう せいかは力強く頷きながら、指を一本立てる。


「そして、密書を盗んだ程香梅は、何者かに口封じのために毒殺された!」


「ええ、そこまでは分かっているわ。」


「つまり……!」


 柳青荷はぐっと拳を握りしめる。


「犯人は密書を盗ませた人物であり、毒を仕込んだ人物でもあり……。」


「ふむふむ。」


「さらに、その密書を回収した人物でもある!」


「まあ、そうでしょうね。」


「……誰なんですか?」


「私が知るわけないでしょう。」


「えぇーー!!?」


 柳青荷は机に突っ伏した。


「じゃあ、考えましょうか。」


 蘭明蕙は悠然とお茶を啜る。


「皇后・沈玉蘭が怪しいとは思うけれど、彼女自身が手を下すとは考えにくいわね。」


「じゃあ、その側近とか……?」


「ええ、たとえば文采薇ぶん さいび。」


「ぶ、文采薇!?」


 柳青荷は驚いて飛び上がる。


「確かに、あの人は皇后派の有力な貴妃ですけど……程香梅と何の関係が?」


「それを探るのが楽しいのよ。」


 蘭明蕙は微笑んだ。


「ちょうど、彼女に話を聞く機会があるわ。」


「え、どうして?」


「昨日、皇帝が翠竹庭すいちくていで文采薇と逢瀬を楽しんだでしょう?」


「ええ……後宮中の女たちが嫉妬で荒れましたよね……。」


「その時、文采薇は、私に自慢しに来ると言っていたのよ。」


「え、えぇ……」


 柳青荷は苦笑いする。


「貴妃なのに、太后様に“自慢”しに来るんですか?」


「彼女はそういう女なのよ。」


 蘭明蕙は扇子をパチンと閉じる。


「だから、待っていれば向こうからやってくるわ。」


「……なるほど。」


 紫霄宮:文采薇の登場


 そして数時間後——。


「太后様、ご機嫌麗しゅうございますわ!」


 カラカラと鈴の音のような笑い声と共に、文采薇が現れた。


 彼女は華やかな紅色の衣を纏い、扇を優雅に揺らしながら、まるで劇の主役のように振る舞っている。


「ええ、ご機嫌よ。」


 蘭明蕙は軽く微笑む。


「何か楽しいことでもあったのかしら?」


「まあ! さすが太后様、お察しが早い!」


 文采薇は嬉しそうに近づくと、柳青荷の前に座り、キラキラした目で言った。


「昨日、陛下が私のために翠竹庭を貸し切ってくださったのです! まるで天上の仙境のような夜でしたわ!」


「それは素晴らしいことね。」


「ええ、それはもう!」


 文采薇は満足げに微笑む。


「太后様も、そろそろ私のことを正式に“寵姫”と認めてくださってもいいのでは?」


「そうねぇ……。」


 蘭明蕙はゆっくりとお茶を啜る。


「でも、私はただの暇な大后よ。後宮のことには口を出さない主義なの。」


「まぁ、そんなことを……!」


 文采薇はクスクス笑いながら、扇子を口元に当てる。


「ところで。」


 蘭明蕙はさりげなく話題を変えた。


「最近、程香梅という女官をご存じかしら?」


「程香梅……?」


 文采薇の笑顔が一瞬だけ凍りついた。


「ええ、翡翠苑の女官だったけれど、今朝亡くなったの。」


「まぁ、それはお気の毒に。」


 文采薇は眉をひそめるが、その目は微かに泳いでいる。


 蘭明蕙は見逃さない。


「彼女、あなたと親しくしていたそうね?」


「……まあ、少し話したことはありますわ。でも、それが何か?」


 文采薇は涼しい顔を装っているが、蘭明蕙は確信した。


「それなら、知らないはずはないわね。」


「え?」


「彼女が盗んだ密書のことよ。」


 バサリ、と扇を閉じる音が部屋に響く。


 文采薇の表情が一瞬にして硬くなる。


「密書……?」


「知らないとは言わせないわ。」


 蘭明蕙は微笑む。


「あなたが程香梅に密書を盗ませたのでしょう?」


「……。」


「そして、彼女が余計なことを話さないように、毒を仕込んだ。」


 文采薇の顔がこわばる。


「ふふ。」


 蘭明蕙は、ゆったりと立ち上がると、文采薇の方へ歩み寄る。


「でも、あなたにとって残念なことに……密書はまだ見つかっていないの。」


「……っ!」


 文采薇の喉が僅かに動いた。


「つまり、あなたが計画したとしても——。」


 蘭明蕙は文采薇の耳元にそっと囁く。


「密書は今、あなたの手にはないのね?」


 文采薇の体がピクリと震えた。


「……さて。」


 蘭明蕙は元の席に戻り、お茶を一口。


「じゃあ、密書はどこに行ったのかしらね?」


 文采薇は何も答えなかった。


 その沈黙が、何よりも雄弁に語っていた。


 密書はまだ後宮のどこかにある——。


 そして、それを持っている者が、次の標的になるかもしれない。


 蘭明蕙の暇つぶしは、さらに深まっていくのだった。


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