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33 消えた密書と毒殺 『後宮の名探偵・太后様の暇つぶし』

 


 @ 毒殺のトリック


 紫霄宮:柳青荷の大発見(?)


「太后様、大変です!」


 柳青荷が血相を変えて駆け込んできた。


「ふむ。どう大変なの?」


 蘭明蕙らん めいけいは優雅に椅子にもたれながら、お茶を啜っている。


「程香梅の部屋を調べたら、これが……!」


 柳青荷は小さな包みを取り出し、テーブルの上に勢いよく置いた。


「ほう……?」


 蘭明蕙が扇子で軽くつつくと、包みがパラリと開き、中から赤黒い蝋の破片が現れた。


「密書の封蝋の……欠片?」


「そうです!」


 柳青荷は得意げに胸を張る。


「これはつまり、彼女が密書を盗み、開封した証拠ではないかと!」


「……ふむ。」


 蘭明蕙は扇子でトントンと顎をつつきながら考える。


「で、青荷?」


「はい!」


「あなた、その封蝋の破片をどうやって見つけたの?」


「程香梅の部屋を調べていたら、机の下に落ちていたので拾いました!」


「……素手で?」


「もちろんです!」


「……。」


 蘭明蕙は柳青荷の手をじっと見つめた。


 柳青荷もそれに気づき、ゆっくりと自分の手のひらを見る。


「……え?」


「それ、毒が仕込まれている可能性は考えなかったのかしら?」


「えええええええええ!?」


 柳青荷はすっ飛ぶ勢いで手を振り回し、テーブルクロスでゴシゴシと擦り、さらに袖で拭き、しまいには近くにあった水差しに手を突っ込んだ。


「うわぁぁぁ! どうしよう! 私、死ぬんですか!? 太后様!?」


「落ち着きなさい。そんな簡単に死ぬ毒なら、程香梅ももっと早く倒れていたはずよ。」


「そ、それもそうですね……。」


 ホッと息をついた柳青荷だったが、まだ手をプルプルさせている。


「まあ、念のため、御薬房に行って確認しておきましょう。」


「は、はいぃ……。」




 御薬房:毒の専門家・方慧仙の推理


 御薬房は後宮の薬や毒を管理する場所で、薬草の香りが漂う静かな空間だった。


「やあ、太后様。何かご用で?」


 奥から姿を現したのは御薬房の長・方慧仙ほう けいせん


 彼女は落ち着いた雰囲気の女性で、淡々とした口調で話すが、時折意地悪そうに微笑む。


「慧仙、この封蝋の欠片を調べてほしいの。」


 蘭明蕙が扇子の先で封蝋を示すと、方慧仙は細い指でつまみ上げた。


「ふむ……どこかで見たことのある色ね。」


「毒、入ってますかね……?」


 柳青荷が不安げに身を乗り出すと、方慧仙はチラリと彼女の手を見て、ニヤリと笑った。


「あなた、素手で触った?」


「ひいぃぃっ!」


 柳青荷が飛び上がるように後ずさる。


「冗談よ。」


「やめてください!!」


 蘭明蕙がクスクス笑いながら、方慧仙の手元を覗き込んだ。


「で、本当に毒はあるの?」


「ええ、これは遅効性の粉末毒ね。」


「遅効性?」


「そう。すぐに効くわけじゃなく、吸い込んで数時間後に発症するタイプ。程香梅の症状——口元の血や苦しんだ跡を考えると、おそらくこれは**『散魂香さんこんこう』**ね。」


「散魂香……。」


 柳青荷が眉をひそめる。


「聞いたことがありません。」


「まあ、宮中で使われることは滅多にない毒だからね。通常は煙に混ぜて吸わせるものだけど、この場合は封蝋に練り込まれていた可能性が高いわ。」


「封蝋を開封した時に粉が舞い上がり、吸い込んでしまった、ということかしら?」


「ええ。その後、数時間のうちに毒が回り、呼吸困難や内出血を引き起こして死に至る。」


「なるほど……。」


 蘭明蕙は考え込んだ。


「つまり、程香梅は密書を開けた瞬間に“死の宣告”を受けていたということね。」


「ひぃぃ……。」


 柳青荷は肩を抱えてガタガタ震える。


「大丈夫よ、青荷。あなたの手はまだ大丈夫みたいだし。」


「そ、そうですかね……?」


 不安げに手を眺める柳青荷に、方慧仙がまたクスクスと笑った。


「まあ、念のため後で解毒茶でも飲んでおくといいわ。」


「お願いしますぅぅ……。」


 柳青荷が今にも泣きそうな顔で方慧仙にすがる。




 紫霄宮:太后の結論


 紫霄宮に戻った蘭明蕙は、椅子に腰掛けながら扇を開いた。


「ふむ……これは思ったより面白くなりそうね。」


「面白いって、太后様……。」


 柳青荷がため息をつく。


「毒を仕込んだ人物がいるということは、これは計画的な殺人ですよ?」


「そうね。でも、誰がやったのかしら?」


 蘭明蕙は微笑む。


「程香梅が盗んだ密書。その密書に仕込まれた毒。つまり……。」


「密書を開けることを予測していた人物がいる、ということですね……。」


「ええ。」


 蘭明蕙はゆっくりと立ち上がり、外の庭を見やった。


「さあ、次は犯人探しね。」


 こうして、太后の「暇つぶし」はますます深まっていくのだった。


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