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23 書庫に眠る毒の巻物「後宮の名探偵・太后様の暇つぶし」

 


「さて、問題です」


 蘭明蕙らん めいけいは 扇で卓をとんとんと叩きながら、目を細めた。


「書庫に出入りしていた宦官は誰だったでしょう?」


 柳青荷りゅう せいかは 困惑した顔で 口を開く。


「……え?  それは今から調べるんじゃ……」


「いいえ、もう分かったわ」


 太后は 自信たっぷりに微笑み、横で控える宦官・蘭珀然らん はくらんをちらりと見た。


「でしょ?」


「は?」


 突然話を振られた珀然は、 持っていた巻物を落としかけた。


「……い、いや、私に聞かれましても」


「だって、宦官のことは宦官に聞くのが一番でしょ?」


 明蕙は 涼しい顔でお茶をすする。


(またこのパターンか……!)


 青荷と珀然は 同時に頭を抱えた。


「ええと……調べたところ、書庫に出入りしていたのは 王慎おう しん という宦官でした」


「王慎?」


 青荷が 首をかしげる。


「聞いたことがない名前ですね……」


「それもそのはず」


 珀然は ため息混じりに巻物を広げ た。


「王慎は 皇后派の宦官長・曹懐仁そう かいじんの配下 にいた宦官ですが……」


「事件の後、行方不明になりました」


「え?」


 青荷が 目を瞬かせる。


「それってつまり……逃げたってことですか?」


「逃げたか、あるいは——」


 珀然が 淡々と続けようとすると、太后が ゆるりと扇を振った。


「いいえ、きっと 口封じね」


「またですか!?」


 青荷は 思わず叫んだ。


「後宮、口封じ多すぎません!?」


「だって、口を封じないと 秘密がばれるもの」


 太后は ひどく楽しそうに 言った。


「もう、いっそのこと 『口封じの後宮』って改名した方がいいのでは……?」


 青荷は 真剣に考え込み、珀然は 「この主従、冗談で言ってるのか本気なのか分からん……」 と額を押さえた。


「じゃあ、次の問題」


 太后は ゆったりと扇を畳み、再び卓をとんとんと叩いた。


「王慎を探しなさい」


「えええっ!?  行方不明なのに!?」


 青荷は 目を見開いた。


「行方不明ってことは どこかにはいる ってことよ」


「そ、それは……まあ、そうですけど!」


「ほら、さっさと探しましょう。どうせ暇なんだから」


「私は暇じゃないです!!!」


 青荷の抗議の声が、紫霄宮の静寂を破った。



 ***



霜華楼そうかろう」 ——そこは問題を起こした女官や、皇帝の寵愛を失った側室が ひっそりと幽閉される場所 だった。


 そして、その霜華楼を 事実上支配しているのは 皇后派の貴妃・唐玉盈とう ぎょくえい


「……で、その霜華楼に 王慎が隠れている んですね?」


 柳青荷りゅう せいかは どこか不安そうに 言った。


「そうよ」


 蘭明蕙らん めいけいは 微笑みながら扇を軽く振る。


「でも、霜華楼って……いわゆる 『行ったら最後、二度と出られない』 って噂の場所じゃないですか?」


 青荷は おそるおそる確認する。


「ええ、そうね」


「そんなところに 私を行かせるんですか!?」


 青荷の 目が飛び出しそうになる。


「だって、あなたなら大丈夫でしょう?」


「いやいやいやいや!  どうしてそう思ったんですか!」


「だって 前にも刺客に囲まれながら、茶菓子を食べ続けてたじゃない?」


「それは!  たまたま!  です!!」


 青荷は 必死に抗議したが、太后はまるで聞いていない。


「決まりね」


「決まらないでください!!」


 ——そこへ、影衛司の密偵・陳星河ちん せいがが現れた。


「報告します。霜華楼には、最近 不審な宦官が出入りしている との情報が入りました」


「間違いなく 王慎ね」


 明蕙は ゆったりと頷く。


「で、どうやって私を霜華楼に潜入させるつもりなんですか……?」


 青荷は 半ば諦めたようにため息をついた。


 太后は にっこりと微笑んで答える。


「簡単よ。あなたを 問題を起こした宮女として送り込むの」


「……は???」


「ちょうど 『太后の侍女が不敬な発言をして罰を受けた』 という噂を流しておいたわ」


「勝手に流さないでください!!!!」


 青荷の叫び声が、再び紫霄宮に響き渡った。



 ***


 霜華楼の中庭。


 夜の帳が降りる中、柳青荷りゅう せいかは 柱の影からそっと様子を窺っていた。


「……まさか、本当にここに送り込まれるなんて……」


 思わず ため息をつく。


 霜華楼の住人たちは 暗い顔をした女官や側室たち ばかり。そんな彼女たちの視線は どこか諦めを帯びている。


(こんなところに長くいたら、気が滅入っちゃうわ……)


 ——しかし、今は王慎おう しんを探すのが先決。


「さて……どこにいるのかしら」


 幸い、霜華楼の雑用を任される立場になったおかげで、 青荷は比較的 自由に動ける。


 すると、ひそひそと話す 二人の宮女の声が聞こえた。


「……新しく来た宦官、王慎っていうの……どこか様子がおかしいわよね」


「ええ、 いつもびくびくしているし、唐貴妃の命令にもはっきり答えないし……」


 王慎発見!


 青荷は 心の中でガッツポーズをしながら、二人の宮女の会話をもとに 彼の居場所を特定した。


 霜華楼の物置小屋


 青荷は 手早く鍵をこじ開けると、そっと中に忍び込んだ。


「ひっ……!?」


 中には、小柄な宦官が 震えながら隅に座っている。


「王慎ね?」


 青荷は ニッコリと微笑んだ。


「ち、違います! 私はただの物置小屋の番人で——」


「……あら、あなたの腕にあるその 『書庫専属宦官』の印、とっても素敵ね?」


 青荷は にっこりしながら、彼の腕に刻まれた印を ぐいっと引っ張った。


「ぎゃあああ!!!」


 王慎は パニックに陥る。


「さて……毒の巻物のこと、聞かせてもらえるかしら?」


「お、俺は何も……!」


「そう?」


 青荷は 懐から短剣を取り出し、王慎の鼻先で軽く回した。


「ええ、何も知らないならいいの。でも 私、今すっごくストレスが溜まっているのよね……間違えて手元が滑ったらどうしよう?」


「ひ、ひいいい!!!」


 王慎は 涙目になりながら、必死に首を振った。


「は、話します!  話しますから!!  どうか、それだけは……!!」


 青荷は 満足げに微笑む。


「よろしい♪  それで、毒の巻物は誰の指示?」


「た、唐貴妃です……!」


「やっぱりね」


 その瞬間——


「——ぐふっ!?」


 王慎の口から 黒い血が噴き出した。


「えっ」


 青荷は 思わず後ずさる。


 王慎は バタリと倒れた。


「ちょ、ちょっと!?」


(え!?  今私、何もしてないわよ!?!?)


 ——そのとき、物置小屋の天井に違和感を感じた。


「……誰かいる?」


 青荷が見上げた瞬間、 小さな影がスッと消えた。


「……ふぅん」


 青荷は 短剣を構えながら、口元に笑みを浮かべた。


「どうやら、ここからが本番みたいね?」


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