12 紅葉の庭での謎の転落死④ 『後宮の名探偵・太后様の暇つぶし』
蘭明蕙と蘭珀然、そして柳青荷は慎重に楊淑妃の私室へ向かった。亡き妃の部屋は未だ封鎖されており、扉の前には侍女と禁軍の兵が見張りをしている。
「太后様、ここは……」禁軍の兵が少し戸惑いながらも、蘭明蕙の威厳ある姿にすぐに頭を下げた。
「この部屋の調査を命じるわ」蘭明蕙は柔らかく微笑むが、その目には鋭い光が宿っている。
兵が扉を開けると、そこにはまだ楊淑妃の香がわずかに残る静謐な空間が広がっていた。調度品は整然と並び、何事もなかったかのように静まり返っている。
「天青の箱……どこにあるのかしら?」柳青荷が小声で呟きながら部屋を見渡す。
「目立つところに置かれているとは思えないな」蘭珀然は棚や机の引き出しを探るが、それらしきものは見つからない。「……それにしても、妙に片付きすぎていないか?」
「確かに」蘭明蕙はゆっくりと部屋を歩きながら、ふと屏風の裏に目をやる。「ここは?」
屏風の裏には、小さな飾り棚があり、そこには精巧な細工が施された青磁の箱が置かれていた。
「見つけたわね」蘭明蕙が微笑みながら扇を広げた。「さて、この箱の中に何が入っているのかしら?」
蘭珀然が慎重に箱を手に取り、蓋を開ける。すると、中には一通の書簡と、小さな金の飾りが入っていた。
「これは……?」柳青荷が書簡を広げ、目を通すと、息を呑んだ。「太后様、これ……!」
蘭明蕙は書簡を受け取り、静かに目を走らせる。そして、微笑んだ。「なるほどね。これで決まりだわ」
「犯人が分かったのですね?」柳青荷が緊張した面持ちで尋ねる。
蘭明蕙はゆっくりと扇を閉じ、優雅に頷いた。「ええ。この証拠があれば、もう言い逃れはできないわ」
***
蘭明蕙はゆっくりと扇を閉じ、華貴妃を鋭く見据えた。
「……さて、華貴妃。この件について、まだあなたの言い分を聞いていないわね?」
華貴妃は余裕を装って微笑んだが、その目にはわずかに動揺の色が浮かんでいた。「まあ、太后様。私は何も存じ上げませんわ。楊淑妃とは不仲でしたが、だからといって彼女を害する理由などありません」
「そうかしら?」蘭明蕙はゆっくりと歩を進めながら言葉を続ける。「では、なぜ楊淑妃の侍女が、御薬房から毒草を受け取るのをあなたの侍女が手引きしていたのかしら?」
場が凍りついた。華貴妃の顔色がさっと変わる。
「それは……」
「調査の結果、毒草はあなたの侍女が密かに手に入れ、楊淑妃の侍女に渡したことが判明している。つまり、あなたは直接手を下さずとも、毒を仕込む手助けをしたことになるわね?」
「証拠があるの?」華貴妃はかすかに震える声で問い返した。
蘭明蕙は微笑を浮かべ、影衛司の密偵を手招きする。密偵は小さな紙片を蘭明蕙に差し出した。それは華貴妃の侍女が書いたメモで、「例の品、確かに渡しました」と記されていた。
「これは……!」
「何か弁明は?」
華貴妃はしばし沈黙した後、ため息をついた。「……すべて、楊淑妃が私の秘密を知ってしまったせいです。だから彼女を排除するしかなかった」
「その秘密とは?」
華貴妃は苦々しげに笑った。「私の出自です。実は、私は元は貴族の娘ではなく、商家の出身なのです。家柄を偽り、後宮に入ったことを楊淑妃に知られてしまったのです。彼女はそれを皇帝に告げようとしていた……それだけは防がねばなりませんでした」
蘭明蕙は静かに頷いた。「なるほど……しかし、それが人を殺める理由にはならないわ」
華貴妃は観念したように肩を落とした。
「華貴妃、あなたには然るべき裁きを受けてもらうことになるでしょう」
こうして、楊淑妃殺害の真相は暴かれた。華貴妃の陰謀が明るみに出たことで、後宮の均衡は再び揺らぐこととなる。しかし、それはまた別の物語であった——。