9 いざ、オートポリス
小山内さんのご両親に会ってビックリしました。母親からは、私が彼女を唆しているように言われました。父親は話が解るようで、なんとか契約することが出来ましたけど……
十一月下旬、私と小山内さんは、ニューマシーンのテストのため大分県のオートポリスへ向かいます。まず、熊本までは飛行機で行きます。大分県とは言っても日田市の南部にあるので大分空港や福岡空港よりも熊本空港の方が近いのです。なので、熊本空港からレンタカーを借りてオートポリスへ向かいました。
「美郷さん、他の人達は?」
「みんな、オートポリスに向かってると思うけど……」
「マシーンとかは?」
「あっ、それはマシーンを運んでくれる業者があるから」
「どうやって運ぶんですか?」
「それは、専用のトラックがあってね! そう言えばチーフメカニックの山口君はマシーンと一緒だと思うけど」
「えっ、どうしてですか?」
「それはね、チーフメカニックだから、運搬に関しても責任があるのよ」
まあ、普通テストは近場でするんだけど…… 特別な何かがあるんでしょうね! でも運搬費だけでも結構掛かってると思うけど……
私達が山間の狭い道路に差し掛かった時、前方に大型トラックがゆっくり走っています。
「もう、こんな狭い道に大型トラックなんて!」
彼女はそう言うけど……
「たぶん、あれ、フォーミュラカーを乗せたトラックだよ!」
「えっ、あれですか?」
そういう事で、トラックの背後をゆっくり追走すると、オートポリスの方へ進んで行きました。
そして、私達はオートポリスに到着しました。
「あれ、美郷さん?」
パドックの中から山口君が出て来ました。
「あれ、マシーンと一緒じゃなかったの?」
「あっ、今は同行出来ないんですよ! トラックの後ろから車でついて行くのは良いんだけど」
なるほど…… 色々と事情があるのね。
「それより美郷さんも、みんなで一緒にバスで来ると思ったのに」
「えっ、そんなの聞いてないよ!」
みんなは空港からバスで来る事になってたのかな……
「あっ、それじゃ深田さんが言わなかったのかな…… ほら、反省会の時さっさと帰ったでしょう。あの後大変だったらしいですよ」
「えーっ、だってあれは……」
あれは、小山内さんにお酒を飲ませた人がいて、彼女が大変な事になっていたから……
「まあ、一台くらい乗用車があった方が便利だけどね、山の中だし」
でも、何はともあれGMにやられましたね……
その後私達は、コース側のロッジに行きました。ここには小規模だけどそういう所がありますので、今回はここを使います。
本当は、マシーンを下ろす手伝いをと思ったのですが、問題ないという事でした。
「あれ美郷さん、もう来てたんですか?」
深田さん達スタッフが到着です。
「深田さん、空港からバスなんて聞いてないですよ!」
「あれ、そうだっけ…… ごめんごめん」
そう言って部屋へさっさと行ってしまいました。
やっぱり、反省会の事、根に持ってるかな……
その後私は、もう一度パドックへ来ました。
「美郷さん、どうしたんですか?」
「うん、ニューマシーンを見たくてね」
「あっ、でも、今からエンジンを乗せないと駄目だから」
「えっ、エンジンは乗ってないの?」
「はい、イタリアから船で八代港に運んでもらったので、エンジンはここでと思って」
「明日のテスト間に合うの?」
「あっ、大丈夫です。夜までには終わります。小山内さんのは明日コクピットの調整をしないといけないけど」
「ねえ、どうしてテストをオートポリスでするの? 来週は鈴鹿でP&Rもあるのに運搬費が凄いんじゃないの?」
私がそう言うと……
「P&Rにはニューカーは出さないから! 二月の合同テストには出さないといけないけどね」
「えっ、前の奴って何処にあるの?」
彼は含み笑いをしながら……
「名古屋のガレージにありますよ」
「ニューマシーンはどうするの?」
「勿論、運びますよ! このテストが終わった後に」
山口君は最初からニューマシーンをP&Rには出すつもりは無かったようです。まあ、マシーンはダラーラ製のSF23、タイヤはヨコハマタイヤ、エンジンこそトヨタとホンダの二社ありますけど、他のチームとはほとんど差はありません。でも、今回からデザインを一掃したので、二月までは秘密にしたいと言う事でした。
「でも、ワインレッドとは思い切ったわね!」
「いや、オーナーの意向です。スポンサーでもある訳だから」
まあ、チームオーナーである前に、うちのメインスポンサーだもんね! チームをKAEDEカラーにしようという事だろうけど。
「あっ、美郷さんがいた!」
小山内さんもパドックに来ました。やっぱりニューマシーンが気になるのかな。
「あっ小山内さん、丁度良かった身長を教えて欲しいんだけど……」
何食わぬ顔で山口君は言うけど……
「えっ、レディにそんな事聞く?」
いやいや、必要な事だから、それに体重を訊いてるんじゃないから……
「いや、コックピットを調整しないといけないんだよ」
山口君も大変だね……
「153センチですけど……」
「153センチか……」
彼はそう言いながらコックピットのシートの上にクッションを敷きました。
「いや、そんなに高くしなくても良いんじゃ……」
「これで乗ってみて!」
山口君はステアリングを外し彼女にそう言います。彼女の意見はスルーのようです。
でも、彼女も言われるままに乗り込みますけど……
「アクセルレバーに足が届かないよ!」
ちょっと、言い方が可愛いな……
「そりゃ、そうだよ。まずは高さをね、前は見える?」
「うーん、クッションをもう一枚」
「あれ、クッションいらないんじゃなかった?」
「……」
さっきのは聞こえてたのか……
それにしても、高さもかなり足らないようね……
「今は見える?」
「うん」
山口君はそう言ってコックピットの中を見て、メジャーを彼女に渡してブレーキペダルまでの距離を測ってもらっているようです。
「降りてOKだよ!」
「あれ、クラッチペダルが無いんだけど」
「あっ、クラッチはステアリングの裏側にあるから」
「えっ、どういう事?」
山口君はちょっと面倒そうです。
「ちょっと特殊だから明日説明するよ」
「はあ…… 明日ですか……」
「うん、シートのセッティングしとくから明日微調整しょう。それとクラッチの説明もね!」
そう言って山口君はエンジンの取り付けに取り掛かりました。
小山内さん、初のテスト走行です。明日からマシーンに乗りますけどクラッチがありません。チーフメカニックの山口さんに特別と聞きましたけど、オートマチック車では無いですよね! クラッチはステアリングの裏にあるみたいですけど……




