6 新しいドライバー
最終戦真っ只中、音信不通の彼女がパドックに来ました。彼女はF4でチャンピオンになれなかった事で、F3に行けずF4に戻る事も出来無くなっていました…… なので、うちのチームに来てもらう事にしました。
私達はレース終了後、マシン撤去等を終わらせ、予約していた居酒屋さんに行きました。ここで、一年間を飲みながら振り返ります。
「あれ北島さん、隣の可愛い女の子は新しいスタッフさん?」
えっ、あっ、この娘は……
「まあ、そんなとこ……」
まあ、うちのチームのファンであるマスターには追々話しましょう。
「マスター、生ビールを十杯!」
「あっ、私は烏龍茶ね!」
私はオーダーを訂正しました。
「えっ、美郷さんも一緒に飲みましょうよ」
もう、うちのスタッフは五月蝿いな…… 大体私が飲んだら、誰が面倒見るのよ!
「ねえ、私を酔わせてどうするつもりなの!」
私は五月蝿いスタッフの一人に私の色気を出して耳元で囁いたら……
「えっ、ちょっと…… 別に何もしませんよ!」
そう言うと、彼は顔を顰めながら私から離れて行きました。やばい女だと思われたかしら、まだ、素面だもんね……
その時、オーナーが来ました。
「オーナー、小山内さん正式に契約しますので」
私がそう言うと……
「深田君と北島さん、その事でちょっと良いかな」
オーナーに店の隅に呼ばれました。
「こんな所で何でしょう?」
「君達が誰と契約しようと色々言うつもりはない。しかし、彼女は表彰台を狙えるのか!」
いや、いきなり言われてしまいました。でも、あなたが見つけて来たドライバーじゃん……
「私も北島君もそのつもりで対応します」
深田さんはそう言いました。それがどういう事かは、よく解りますよ。要はお金が動く訳ですからね! でも、そんな事、今訊きます……?
その後、オーナーはみんなのところへ行きました。
「みんな、お疲れ様! 今シーズンで川嶋君がうちのチームからいなくなるけど、代わりに彼女が来てくれた」
オーナーはそう言って小山内さんを呼びます。彼女もオーナーの横に行きました。
「彼女が新しいドライバーだ! みんなよろしく。君からも一言」
オーナーは彼女にそう言います。
「あっ、えっと…… F4からステップアップして来ました小山内杏香です。よろしくお願いします」
彼女がそう挨拶すると、うちの男子スタッフには受けが良いようです。
私は彼女の横に座りました。
「ねえ、タイヤバリアに突っ込んだんでしょう! 怪我はなかったの?」
私がそう訊いた時、彼女は……
「突っ込んだというより、スリップしてタイヤバリアに当たって止まったという感じです」
「トップのマシンがスリップして、巻き込まれたって聞いたけど」
「はい、左コーナーでインをブロックされたからアウトからと思ったんですけど、その時相手のマシンがスリップして……」
という事は、相手のマシンがオーバースピードだったという事か……
「ツイてなかったね!」
「まったくです。ドライバーズランキング1位と2位がリタイアだから、3位の人が喜んだと思います」
「えっ、スリップしたのは兼子君なの?」
「えっ、何故知ってるんですか?」
「うん…… ちょっとね」
はあ、まさか兼子君が相手だったとは…… でも、3位だった人にしてみれば本当棚ぼただよね……
「でも、来シーズンもレース出来るようになったから良かったです! 全日本だけど……」
そこは、ちょっと引っ掛かるんだけど……
「あのね、全日本でもスーパーライセンスは取れるからね!」
「えっ、でも、F2じゃなきゃ無理かなって言ってたじゃない!」
「あっ、それは無理じゃなくて知名度を上げるためにってこと!」
「スーパーフォーミュラでチャンピオンになればスーパーライセンスが取得出来るんですか?」
うーん、彼女は何か勘違いをしてるようだけど……
「あのね、スーパーライセンスというのは……」
「スーパーライセンスポイントを40ポイント取得しないと駄目なんだ!」
あーあっ、川嶋君に先に言われてしまったわ。
「えっ、ポイントですか?」
「そう、F4のチャンピオンになれば12ポイント、SFのチャンピオンだと25ポイント取得出来るの」
「えっ、じゃあ、じゃあ、SFで二年連続チャンピオンになれば50ポイントだからF1に行けるってこと!」
彼女のその言葉に川嶋君までが……
「美郷、そうなのか!」
まったく、何言っているのかこの人は……
「ライセンスが取得出来るだけよ! F1に行けるわけじゃ無いわよ」
「でも、ライセンスは……」
私は彼女を制止して……
「全日本だけじゃ知名度が低いでしょう! それにF2でチャンピオンになれば、世界で認められるだけじゃなくポイントも40ポイント貰えるの! とにかくF1のチームだって限られているんだから、そんなに簡単にはいかないわよ」
私がそう言うと……
「なんだ、それなら最初からF2に行けば良かったのか!」
彼女はそう言うけど、そんな簡単なもんじゃ無いでしょうF2に行くのってだって技術も知識もいるんじゃないの? 大体、F3に行くのだって、トラブってつまずいたくせに……
まあ、これを言ったら怒るかな…… いや、落ち込むかな……
F4最終戦で色々あって、結局来シーズンはうちでスーパーフォーミュラのパイロットです。でも、F1へ行くための新たな目標も出来たみたいなので良いのかな! 彼女もチームもwin-winな訳だから。




