48 阿蘇の休日1
三日間の練習走行が終わりました。鈴鹿で止まってしまった原因は判らないままですけど、源さんには何か考えがありそうです。
三日間の練習走行も終わり、あとは一週間後の本番を迎えるだけですが、取り敢えず今日から木曜日までは休暇です。
まあ、こんなところで休暇と言われても……
「美郷さん、阿蘇山に行きませんか?」
杏香がそう言って私の部屋へ入って来ました。
「阿蘇山ね……」
「美郷さん、行った事ありますか?」
「まあね……」
行ったことはありますよ! 川嶋君と…… 山頂手前の草千里ヶ浜と呼ばれるところは、草原が広がり池のような水溜りもあります。確か、馬にも乗れたんじゃなかったかな!
でも、山頂は打って変わって岩がゴツゴツしていて硫黄の臭いがキツイんですよね……
ただ、山頂までは車で行けるから楽ではあるんだけど……
「美郷さん、行きましょうよ!」
「水上君と行けば良いじゃない!」
「あっ、耕太は駄目ですよ! マシーンの整備をしないといけないらしくて……」
「えっ、メカニックは休みじゃないの?」
「はい、お父さんが言うにはマシーンの電子制御ユニットの交換とか電圧の調整をするとかで、美郷さん判ります?」
いや、少しは判るけど……
「そう、源さんが……」
「はい」
という事は、勿論山口君も一緒だろうから…… そうなると青木君も水上君も休み難いよね……
「仕方ない、付き合ってやるか!」
「やった!」
こうしている時は、普通の女の子なんだけどね……
サーキットで走っている杏香と普段着の杏香は別人じゃないかと思うときがあります。
「はあ、それじゃレンタカーの手配をしないとね」
「あっ、私も運転しますよ」
「えっ、杏香は運転免許を持ってるの?」
「はい、F4に乗ってる時に取りました」
ふーうん、レースが先な訳ね、嘸かし最短で免許も取得出来たんじゃないかしら…… 私はそう思いながら彼女を見てます。
「なんですか?」
「えっ、なにが……」
「いえ、何か言いたそうな感じだったから」
「そうかな……」
そういう事で、私と杏香は阿蘇山へドライブです。
白水館の駐車場には私がレンタルした赤いコンバーチブルの車が止まっています。
「杏香、カッコいいでしょう!」
「えーっ、普通ので良くないですか? 雨が降るかもですよ」
「その時はルーフを付ければ良いでしょう。ボタンひとつなんだから」
杏香はいつもレーシングマシーンに乗ってるから解ってくれると思ったのに……
「美郷さんって意外とミーハーなんですね!」
ミーハー……
「杏香がジェネリックなだけよ」
「ジェネリックって?」
「一般的って事!」
「私って、一般的ですか?」
まあ、そう言われれば違うかも知れないかな…… 女の子なのにスーパーフォーミュラのレーサーだもんね。
「さあ、それじゃ行くわよ! 助手席に乗って」
「あっ、ずるい! 私が運転する」
「なに言ってるの、私が借りたんだから! それに阿蘇山までの道、判らないでしょ」
「えーっ、それでも運転したい!」
杏香は駄々っ子の様にそう言います。
「判ったから、帰りにね」
この三日間ずっと乗りっぱなしだったはずなのに、そんなに運転したいかな……
「美郷さん、スピード出し過ぎですよ」
「えっ、そんなにだしてないよ! 70kmくらいだけど」
「ここは、50km規制です」
「大体、どれくらいで走ってるかなんて助手席じゃ解らないでしょう!」
「感覚で解りますよ! レーサーをナメないでください」
「はい、そうでした……」
普通に可愛い私服の女の子だからレーサーという事を忘れるんだよね……
「美郷さん、お昼どうします?」
「そうね、草千里ヶ浜にレストランもあるけど……」
「草千里ヶ浜ってどんな所ですか?」
「えっ、そうね…… あたり一面草原が広がっていて、池が…… じゃない水溜りがあって、馬もいたと思うけど……」
「水溜り? ですか」
「うん、池みたいに大きいんだけど…… 窪地の一番低い所に雨水が溜まっているだけなんだよね」
「へぇー、そうなんですね……」
えっと…… 私の説明が下手だったかな……
「それじゃ、何処かでお弁当を買って草原にレジャーマットを敷いて食べるなんてどうですか?」
「あっ、良いわね、それ」
杏香にしてはいい提案ね!
そういう事で、阿蘇駅の側に道の駅があるみたいなので行ってみる事にしました。
「到着! それじゃルーフを付けて」
「えっ、そのままじゃ駄目なんですか?」
「誰もいないんだから、雨が降ったり、何か盗られたりしたら困るでしょう! 防犯よ」
「ふーん、そうか」
杏香の態度がなんとなく引っ掛かるな……
「あっ、くまモンだ! 美郷さん写真撮ってください」
杏香はもうすでに観光気分だね!
「美郷さん、お弁当ありますよ!」
「はい、はい」
私が杏香の側へ行くと、そこには普通の幕内弁当もありますけど、その隣に赤牛丼や赤牛めしなるものが……
「あっ、私これにしようかな」
彼女が手にしたのは、赤牛丼! ご飯の上に赤牛の肉をレアに焼いたものが乗っているだけなんだけど、専用のタレも付いて美味しそうです。
「杏香がそれにするなら、私は赤牛めしにしようかな」
赤牛めしはお肉がレアではなく良い具合に焼かれ、美味しそうなタレが掛けてあります。
「それと、これも!」
杏香が手を伸ばした先に、もう一人手を伸ばした人がいました。
「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそ……」
そこには木村結菜さんがいました。またこんな所で出会うなんて……
今日から木曜日までの三日間の休暇です。そういう事で杏香と二人、阿蘇山へドライブに行く事になりました。




