42 結菜、復活の兆し
合同練習のフリー走行で、杏香に煽られた結菜は、何か吹っ切れたのか杏香のスピードに合わせて走れるようになりました。
フリー走行の後、私と杏香は結菜さんと鈴木さんに食事に誘われました。
「ねえ叔父さん、何故レーシングスーツを脱いだ方が良いの?」
はあ…… この娘も杏香と同じ思考なのかな……
「結菜は別に構わないんだけど、小山内さんは大変な事になるかも知れないからね」
「えっ、どう言う事?」
「小山内さんは結構人気があるドライバーだからね!」
鈴木さんがそう言うと……
「えっ、私だって少しは人気が…… あるもん……」
あーあっ、最後の方は尻窄みになっちゃったね…… でも、気を取り直して今度は杏香に訊いています。
「小山内さんは何故、フリーで私の後ろにぺったりくっついていたの?」
あっ、そうか! 彼女は知らないよね……
「えっ、それは……」
杏香はちょっと不安気に、私や鈴木さんの顔を見て……
「それは、もっと一緒に走りたいと思ったから……」
杏香にも、今のこの空気を読む事が出来たみたいね! えらい、えらい。
「あっ、そうなんだ…… でも、今日は凄く楽しく走れたよ! こんなのヨーロッパにいた時以来かも、最初は嫌だなと思っていたけど、なんだか悔しくなって、そしたら自然にスピードが出て、楽しくなって来たの」
やっぱり、彼女の気持ちが楽になって本来の走りが出来た感じかな……
「午後からも楽しく走ろうね!」
「うん、そうだね!」
結菜さんにそう言われ、杏香は普通に返事をしていたけど…… 結菜さんのこの言葉に私はホッとした反面、ちょっとした恐ろしさを感じます。彼女を目覚めさせたようで……
この後、一時半からのタイムアタックがあります。その前に各チーム毎のミーティングをしますけど、流石にミーティングには鈴木さんは参加してないですよね……
「それじゃミーティングを始めます。タイムアタックは前回の鈴鹿同様、本多君、杏香と交互にアタックします」
私が、いつものようにそう説明をした時でした。
「美郷さん、タイムをその都度無線で教えて欲しいんだけど」
本多君から、そう要望がありました。
「本多、タイムはボード表示で良いだろう!」
GMはそう言うけど……
「それじゃ、次のタイムアタックをする時にタイムをボードで確認する事になるから……」
「それで良いんじゃないのか?」
GMは、もっともらしい事を言いますがドライバーとしては、その都度タイムを知りたいのは心理的に解るかな。
「OK、私が無線で連絡します」
まあ、どうせ記録を付けて次の行動を考えるだけだしね。
「あっ、それなら私が連絡しますので、レシーバーを貸してください」
小林さんがやってくれるようです。まあ、タイムキーパーだからそうなんだけど…… 四台まとめてのLAPタイムはタイミングによってはどうなんだろう……
「小林さん、四台分のタイムだけど…… 大丈夫?」
私はちょっと心配です。
「あっ、大丈夫ですよ! 私のストップウォッチは十台分のLAPタイムが取れますから余裕です」
「あっ、じゃあお願いね! 私の予備のレシーバーを使ってもらって大丈夫だから」
通常はサーキットの方で全車輌のタイムがリアルタイムでモニターに出るんだけど、今日はうちの貸切だからね……
まあ、そんなところでミーティングも終わりました。
まあ合同練習なのである程度の相手の行動が判れば、勝敗はどうでも良いんだけど……
まあ、こんな事を言ったら本多君と杏香から怒られるかな……
その後もちょっとした確認をした後、ミーティングは終わりました。
そろそろ時間です。二人ともマシーンに乗って、いつでもスタート出来る体制です。
「OK、出て良いよ!」
私が合図を出すと、二台はゆっくりスタートして、ピットロードを通りコースへ出て行きました。
Team Aoiは、先頭にパンドラーが出て行き、続いて結菜さんがコースへ出て行きました。次の周回からアタック開始です。
「今のところ結菜さんはパンドラーに着いて行ってるかな」
私がそう言っている時、小林さんはレシーバーをいじくっています。
「美郷さん、普通にここを押して話せば良いですよね」
「小林さんヘッドホンをした方が良いよ! 向こうの声もハッキリ聞こえるし、レシーバーのボタンも押さなくて良いから」
私は小林さんに便利な使い方を教えました。
その時、パンドラーと、結菜さんのアタックが始まりました。
杏香と本多君は、今さよりんブリッジを潜ったところですけど、Team Aoiは二台一緒にアタックするみたいです。
『小林さんアタックを開始します』
「了解」
そういう事で本多君がアタックします。
第1コーナーを回ってEKチェーンコーナーに差し掛かった時、結菜さんに追いつきました。
本多君は第3、第4コーナーで交わそうと思っていたみたいだけど、結局30Rの第6コーナーで結菜さんを捉え追い越しました。結構なタイムロスです。
その時、パンドラーがメインストレートを通過して行きました。
「美郷さん、よそのチームのタイムも無線で言うんですか?」
小林がそう訊いたのですが……
『小林さんうちのチームだけで良いよ! 必要な時はこっちから訊くから』
本多君からそう無線が入りました。無線のスイッチが入っていたようです。
私は可笑しくって仕方ありませんけど、笑いを堪えました。
『小林さん、今からアタックします』
今度は杏香です。
「了解」
その時、本多君がメインストレートに戻って来ました。
「本多君、1分27秒876です」
まあ、一回目としてはそんなもんかな……
フリーで杏香に煽られた結菜は、ある程度スピードを出せるようになったようだったけど、タイムアタックでは今ひとつのようです。




