39 木村結菜
練習走行一日目が終わったその時、杏香の側に木村結菜がいました。あの二人仲が良かったのかな……
練習走行一日目も終わり、今から阿蘇白水館へ戻りますけど……
「あれ、杏香はまだ戻って来てないの?」
私がそう訊いた時……
「美郷さん、私はここに居ますよ!」
私の後方からそう言いながら杏香がパドックへ戻って来ました。まあ、ちゃんといるのなら良いんだけどね!
「杏香、レストランに木村さんが来てたよね」
「えっ、知ってたんだ……」
「だって、私が座っていた席に座っていたでしょう」
「うん……」
「ねえ、仲が良いの?」
私がそう訊いた時……
「彼女、今シーズンでシートを降りるかもって言ってた……」
えっ、それって今のチームを解雇されるって事?
「そうなの?」
「うん…… まだ判らないけど、全然勝ててないし、ポイントも取れてないからって」
まあ、昨シーズンからまったくだもんね……
「おい、バスが来たからホテルに帰るぞ!」
深田GMの号令で私達はバスで白水館に戻ります。車内はどことなく賑やかです。
「あっ、反省会を肥後家でやりますので、皆さんよろしく」
チーフメカニック兼宴会部長の山口君がそう言います。本当、好きだね……
私達は白水館に着いて、まずはミーティングつまり、今日の練習走行の本当の反省会をしました。
反省会と言っても別に問題は無かったかな……
まあそれにしても、うちの二人のドライバーは、なんのかんの言いながらも負けたく無いと言う事は今日の模擬決勝で解りました。
タイムアタックのような一周で結果を出す事に長けてる杏香、本多君みたいに決勝レースのような長丁場で結果を残す事が上手いタイプ。
でも、この二人はお互い負けたく無いという気持ちが強いみたいです。だから同じチームだけど良いライバル関係でいられるのかも知れません。
それにしても、オーナーが言っていたダムスでのテストドライバーの件、これはどう言う事なんだろう…… まさか、本多君や杏香を本当にF2に送り出すつもりなのかな…… まあ、それは無いか! そんな事をしたらteam KAEDEは解散になる訳だから……
ミーティングも終わり、宴会まではちょっと時間があるので、居酒屋肥後家の近くにあるケーキカフェ スリアンでブレイクです。
私と杏香がスリアンへ入ってテーブルについた時でした。
「あ、あの…… 北島美郷さんですよね……」
木村結菜さんがいました。今日は彼女とよく遭遇しますけど……
「どうかしたの?」
私がそう訊くと……
「はい、あの…… 自分勝手だと言うのは良く解っていますけど……」
「えっ、なに? どうしたの?」
彼女は俯き加減で下を見たままです。
「あの、私をteam KAEDEで使ってもらえませんか? テストドライバーでも雑用でも何でもやります」
彼女はいきなり、私にそう言って来ました。
「あの木村さん、そういうのは私じゃなくてオーナーを通してもらわないと……」
「あっ、はい…… そうですよね……」
彼女は、相当切羽詰まっているようね……
「もう、チームには残れないの?」
すると、彼女はいきなり泣き出し、涙ながらに話し始めました。
「こんなの初めてなんです…… 何故、勝てないのか? 何故、ヨーロッパで走っていた時のように出来ないのか……」
まあ、気持ちは解るけど、私に言われても…… それに勝てないドライバーにうちに来られても、ちょっとね……
「美郷さん、彼女がうちに来るのは無理なんだよね……」
杏香まで何を言い出すのか……
「まあ、そういうのは私ではどうにも出来ないわ! オーナーに言えば、考えてくれるかもだけど……」
「オーナーに言えば、なんとかなるかな……」
なに、杏香は彼女をチームに迎入れたいの……
「あなた、一度レースから離れてみた方が良いんじゃないかな」
「えっ、でも…… レースは辞めたくなくて」
「でも、あなたがレースで積極的になれないのは何か原因があるんじゃないの? ヨーロッパでは勝ててたんでしょう」
私がそう言った時でした……
「でも、私は…… レースがやりたいんです!」
彼女はそう言って、席を立ってカフェを出て行ってしまいました。
「あら、まあ……」
まあ、なんとかしてあげたい気持ちはありますけど…… ライバルチームな訳だからね。
「結菜さん、これからどうするのかな……」
「さあね……」
まあ、所属チームと話をして、駄目な場合は他のチームへ、なんだろうけどね……
その後私達は、居酒屋肥後家に来ました。
「あっ、美郷さん、小山内さん、こっちです」
山口君は私達に手を振っています。張り切っているな……
そして、反省会という名の宴会が始まりましたけど…… オーナーもGMもいないです。これって、宴会終了後の世話は誰がやるのよ……
その時、メールが来ました。『明日の練習走行は予定を変更する』との事ですけど、オーナーはなにをするつもりなのか? あの人は偶に意味不明なんだよね……
その後、宴会は始まりました。ここの店は居酒屋なんだけど、主に焼肉が主体なんですよね! 山口君と本多君の席では早速ホルモンが焼かれ、ビール片手に盛り上がっています。いきなり過ぎないかな……
私と杏香も、阿蘇の赤牛を美味しく堪能しました。牛タンにカルビ、そしてロースは絶品でした。しかし、その後は…… 酔っ払いどもの世話をしないと……
宴会も終わり、白水館へ帰りますけど……
「ほら、山口君、本多君、帰るわよ!」
「美郷さん、小林さんも駄目です」
はあ…… 今日は三人だけでよかった……
「杏香、タクシーを二台呼んで!」
「はい」
その後、一台のタクシーに酔っ払いどもを押し込んで、私と杏香はもう一台の方に乗って阿蘇白水館へ戻ります。
はあ…… 明日も練習走行があるというのに…… でも、変更の連絡はなんだったんだろう。何か不吉な予感が……
木村結菜さんは、Team Aoiから辞める事になったようです。この世界は勝てなければ仕方がないので…… それにしても明日の練習走行の予定変更ってなんだろう……




