35 セナとプロスト?
杏香のタイムを聞いて、血相を変えて飛び出した本多君、でも杏香はタイムアタックをいかに有利にするかを考えている…… この辺の違いかな……
血相を変えて出て行った本多君が2セット目1回目のアタックで意地の1分26秒426を出しました。やれば出来るじゃない!
まあ、7周目となると32km走った訳だから燃料タンクも少しは軽くなったのかな……
しかし、杏香の存在は恐ろしいです。本多君より良いタイムを出し続けているし、車輌重量や燃費の事も考えてマシーンに乗っている。ファーストドライバーの風格さえさあるように見えるのは私だけでしょうか?
ただ、好きで乗ってるだけじゃないんだね……
その後、本多君も二回目のアタックを終えました。
「本多さん、一回目が1分26秒426。二回目が1分26秒094。三回目が1分25秒981です」
うん、やっと25秒台が出たね。
そう思って一安心した時でした。
「小山内さん、1分25秒846です」
それを聞いた本多君は、また顔を顰めていますけど…… 何だか様子が変です。
「はあ……」
本多君はパドックの天井を見上げてボーッとしています。
「本多君、どうしたの? 大丈夫?」
私はちょっと心配になりましたけど……
「美郷さん、俺なんかよりあいつの方がファーストドライバーの素質がありますよ……」
ちょっと、敗北宣言みたいな事言わないでよ! 一週間後に本番があるって言うのに……
「ちょっと本多君、こっちに来て!」
私は本多君の手を握ってパドックの裏に連れて行きました。
「なっ、なんですか!?」
彼はちょっと驚いたように顔を赤くして言いました。
「あのね本多君、杏香の方がちょっと速いくらいで何言ってるのよ!」
「そ、それは、事実だろう……」
「でも、あなたは決勝レースの組み立てが上手いの! だから開幕戦は優勝したでしょう」
私はそう言ったけど彼は顔を顰めて……
「それは、あいつが他のマシーンと接触して自滅したから……」
「それはそうだけど、他にも敵は沢山いるのよ! 例えば、中森とか谷山とか……」
「それは…… そうだけど……」
「いくらタイムが速くても、優勝出来るとは言えないわ!」
「そうとは限らないだろう、早い奴が前を行くんだよ!」
「アイルトンセナを知ってる!」
「はあ?」
彼はちょっと困惑してるかな……?
「えっ、いきなりなんですか?」
「知ってるの?」
「知ってますよ! 音速の貴公子ですよね」
「そう、彼はマクラーレンにいた時、チームメイトのアランプロストより速かったの」
「だから、ワールドチャンピオンになりましたよね!」
「ええ、でもプロストは、優勝出来なかった時でも必ず、2位か3位に着けていた」
「それがなにか?」
「セナは優勝出来なかった時はリタイアが多かったの! だからポイントは常にプロストが上だったし、ワールドチャンピオンだってセナより先になっているの!」
「えっ、それって……」
「あなたはプロストのようにレースを見極める事が出来る。だから、あなたは決勝レースで実力を出しなさい」
「そ、それって、俺にプロストになれってこと!」
はあ…… そういう事じゃないんだけどね、でも……
「ハハ、何言ってるの? なれる訳ないでしょう!」
私はちょっと、笑ってしまった。
「なんだよ! それ」
でも、ちゃんと通じたかな…… 予選で実力を出せる人もいれば、決勝で実力を出せる人もいるんだから、まああいつは予選でも決勝でも良い走りをしてたけどね!
私がパドックへ戻った時、杏香は2セット目を終えていました。
「美郷さん、1分25秒628ですよ!」
杏香は自身満々に小さい胸を張って言いますけど……
「えっ、何が……」
私がそう言った事で、杏香の目が点になってるような……
「もう、今日一のタイムなのに…… 絶対喜んでくれると思ったのに!」
杏香は頬を膨らませて怒っていますけど、なんだか可愛い…… 私は、笑ってしまった。
「ちょっと、何が可笑しいんですか!」
また、頬を膨らませています。
「ハハ、ごめん! でも、杏香が頬を膨らませて怒っている姿が可愛くて!」
私がそう言ったら杏香は、急に恥ずかしそうにタオルで顔を隠しました。はあ、若いって良いな、どんな仕草でも可愛く見えるから……
「あ、あの…… 3セットマッチでしたよね!」
本多君はもう1セットやるつもりだけど……
「もう、2セット落としてるでしょう! 本多君の負けよ」
私がそう言ったら、彼はちょっと項垂れてしまいました。もう、なんでそういう態度を取るかな……
「それよりも、今度は決勝レースを模擬的にやって勝負してみたら?」
私がそう言った時、本多君はハッとしたようでした。
そうだよ本多君、決勝レースはそういう事だよ! あなたがあなたらしくレースを出来るでしょう。
「私は構いませんよ! マシーンに乗れるのなら大歓迎です」
杏香はやっぱり、レースが好きだね! でも、なんだか上から目線のように見えたのは私だけでしょうか……
タイムアタック勝負では、杏香が勝ちました。でも、今度は実践的な決勝レースを模擬的にやります。そう、これは本多君が有利にるはずなんだけど……




