34 杏香の戦略
オートポリスでの練習走行、今からタイムアタック勝負をします。先行は本多君ですけど…… 私はオーナーが言っていたテストドライバーの件が気になります。
私達は、第3戦九州大会が行われるオートポリスサーキット場に来ています。ほぼ半年振りのオートポリスということもあって、大会一週間前に練習走行をするためサーキット場を貸切ました。オーナーは偶にこういう思い切った事をするんですよね……
その一日目、今からタイムアタック勝負をします。コースを五周回って、うち三回のタイムアタックを三セット、一番速かった人の勝ちです。今、本多君がタイムアタックに入りました。
第一コーナーを通過して、EKチェーンコーナーから50Rを右に左に回り、その後60Rからの急なAstemoコーナーこの辺は急なコーナーが続きます。その後は第7コーナーから第9コーナーまではなだらかなカーブを通過、そして第10コーナーは30Rの急カーブを回りコース西側をぐるりと回ったら、さよりんブリッジをくぐり最終コーナーへ。
「あっ、戻って来た」
そして、メインストレートを通過して、そのまま二回目のアタックにはいります。
「1分28秒756」
やっぱり、フリー走行やれば良かったのに…… いきなりだったからな……
「私の一周目とあまり変わらないよね」
杏香はそう言うけど……
「本人の前で言っちゃ駄目よ! フォローになってないからね」
私がそう言った後、杏香はハッとした顔で言いました。
「本多さん、何だか変わりましたよね」
「えっ、何が……?」
私はちょっと解らない振りをしましたけど……
「変わりましたよ! 前は、タイムが悪いからって機嫌が悪くなったりしなかったのに……」
まあそれは、セカンドドライバーだったから…… 今はファーストになったのに杏香に抜かれるから……
「杏香、その事にはあまり触れないように、いいわね!」
「はーい……」
杏香は、ちょっと気の無い返事をしましたけど、大丈夫かな……
「本多君二回目、1分27秒759」
少しは良くなったけど、杏香よりちょっと遅いかな……
結局、三回目も1分27秒452と少しずつ速くはなっているけど、杏香よりは良くなりませんでした。まあ、悪いタイムではないんだけどね……
「杏香、コースに出て良いわよ」
「はい」
私は、本多君が戻って来る前に杏香をコースに出しました。レース前に一悶着あっても困るから…… その後、杏香がコースを一周した時、本多君がピットへ戻って来ました。
「お疲れ様です」
「お疲れ! 調子はどうだった」
私がそう訊いたら本多君は苦笑しながら……
「まあまあですよ!」
そう返事が帰って来たけど、彼の本心では無いと思う。
「本多さん、一回目が1分28秒756。二回目が1分27秒759。三回目が1分27秒452です」
小林さんが、ちょっと心配そうに言いました。
「なんだ、そんなに悪くないじゃないか!」
まあ、確かにそうだけど…… 問題は、杏香のフリーより遅いという事なんだけどね……
「おっ、帰って来たな」
杏香が一回目のアタック、最終コーナーを回ってメインストレートに帰って来ました。続けて二回目のアタックです。
「1分27秒420です」
「俺よりちょっと速いか……」
意外とそこは認めるのね、ならそこまで深刻じゃなさそうね。でも、杏香もちょっとセーブしてくれないかな……
「うちの娘はどんな感じかな」
源さんがそう言いながらパドックへ来ました。
「源さん良いのか? パドックでサボっていて」
本多君がそう訊いているけど、ちょっと失礼じゃない?
「なあに、準備は出来てるから問題ないよ」
まあ、そんなに慌てる事はないかな、練習走行だしね。
「本多さん、給油はまだいいよね!」
山口君が様子を見に来たようです。
「ああ、俺はフリーやってないから、それより小山内は給油しといた方が良いんじゃないか?」
そうよね…… フリーを走った後のタイムアタックだから燃料はもう少ないはずよね。
「美郷さん、このアタックが終わってからで良いからって無線で連絡しといて!」
「OK」
あっ、ニ回目戻って来たわね! 杏香がメインストレートを通過して行きました。続けて三回目のアタックです。
「1分26秒863!」
「えっ……」
「ほーお、やるようになったな」
杏香が26秒台で、源さんはご満悦のようですけど…… 本多君の表情も少し変わったみたい。
「ふーん、やるな……」
「杏香、三回目のアタックが終わったら給油ね!」
『あっ、はい……』
そう、返事はあったけど……
「小山内さんはタイヤも交換した方が良いかな……」
山口君はそう言いながらパドックで杏香の走りを見ています。
「このアタックが終わったら給油とタイヤ交換で良いんじゃない?」
「うん、そうなんだけどね……」
山口君はそう言ってピットへ戻って行ったその時、三回目のアタックが終わりました。
「1分26秒438です」
「なんだと!」
「本多君、落ち着いて!」
私はそう言ったけど、彼は顔色を変えてピットを出て行きました。もう、困ったものね……
その後、アタックを終えた杏香がコースを一周してピットへ戻って来ました。
「杏香、あまり挑発しないでよ!」
「えっ、何の事ですか?」
「うん…… 本多君が血相変えてコースに出て行ったから」
「そんな事言ったて、勝負なんですから」
まあ、そうなんですけどね……
「小山内さん、タイヤ交換と給油するけど」
「あっ、給油は20リットルお願いします」
「えっ、20リットル?」
「はい、まだ少しは入ってますから」
「でもこの後、フリーも走るんだよね!」
山口君はちょっと心配そうです。
「はい、その時はフリーの前に給油します。アタックの時は少しでもマシーンを軽くした方が良いでしょう!」
「まあそうだけど、あと10周あるけど、大丈夫?」
山口君の心配は解るけど……
「はい、1周が4674メートルの10周で46.74kmで燃費がリッター2.4だから問題ありません!
なるほど、杏香は色々と考えながら試しているんだね。こりゃ本多君も少しは考えないと駄目だね……
杏香の一回目のアタックが終わりました。杏香のタイムを聞いて血相を変えて本多君はコースへ出て行きましたけど……




