33 オファー?
折角、オートポリスを貸し切っての練習走行なのに、本多君はバスに酔ってグロッキーです。杏香は到着してすぐにマシーンに乗ってるのに……
第3戦オートポリスでの九州大会開催一週間前の三日間、テストを兼ねた練習走行をしています。
杏香は到着早々楽しそうに走っています。でも本多君はバスの最後尾に座っていた為、バスに酔ったみたいで、まだパドックでほろ酔い状態です。
「本多君、乗れる? 乗れないならエンジンを切るけど」
すると本多君は、私の方を向いてやる気を見せてはいるけど顔が青いです……
「うぷっ、もうちょっと待って! もう少ししたら楽になると思う」
今日の本多君は駄目かな……
「一旦エンジン切るからね」
私がそう言った時、杏香がメインストレートを通過して行きました。
「1分27秒259です」
杏香は凄いね! この分じゃ本当に本多君より速くなるかも……
「小林さん、今何周目?」
「今、16LAPです」
うん、最初はこんなものかな。
「杏香、ボックス」
私は無線で杏香に指示を出しました。
『えっ、まだ全然行けますよ!』
また、あの娘は勝手な事を……
「杏香、休憩してからタイムアタックして……」
『えっ、じゃあ了解! 戻ります』
もう、私が指示を出し終わる前に…… はあ…… まあ、いっか……
「本多君、休憩のあと行けそう?」
「ああ、もうかなり良くなった」
本多君って乗り物酔いするのね……
「本多さんってバスに酔ったりするんですね! レーサーだから酔うとかないと思ってました」
「……」
小林さん、そこはそっとしてあげて……
「お疲れ様でーす!」
杏香がそう言いながら本多君の背後に近づきます。
「お、おまえはいつも元気だな……」
本多君は羨ましそうにそう言ってます。
「ひょっとして具合でも悪いんですか?」
「ほっとけ! うっ、気持ち悪い……」
「辛いのなら休んでいた方が良いですよ」
杏香は優しいな、それなのに本多君は杏香にあたって…… 悪いのは本多君でしょう。はあ…… 彼はファーストドライバーになってから、性格が変わったな……
「おっ、みんな揃ってるな!」
そう言って、オーナーと深田GMがパドックに来ました。珍しいな、GMは別としてオーナーがパドックに来るなんて……
「あっ、公式テストの後、本多と小山内はイギリスへ行って来てほしい」
えっ、イギリス…… 本多君と杏香の二人でって、どういう事なんでしょう。
「北島君、二人の引率を頼む」
「えっ、引率? どういう事ですか?」
「ああ、実はダムスから二人にテストドラバーをやって欲しいと依頼があった」
ダムス? それって川嶋君が移籍したチームじゃ……
「北島君、川嶋がいるチームだ!」
オーナーは私にそう言います。
「はい…… それで何故ダムスから?」
全日本でレースをしてる二人に何故F2からオファーが来るのか?
「そこはよく判らない! しかし、海外のチームもスーパーフォーミュラの情報やドライバーのチェックはしているようだ」
ふーん、そうなんだ…… 私はまた、オーナーがF2に参戦するなんて言い出すんじゃないかと思ったけど…… 流石にそれはないか。
「イギリスか……」
本多君はあまり乗り気じゃなさそうだけど……
「本多さんは行きたくないんですか?」
杏香は早く行きたいようね。
「別に、俺はF2とかには興味ないから……」
「えっ、本多さんはF2には行きたくないんですか?」
杏香がそう言った時、本多君が……
「俺は…… 耐久レースをやりたい」
「えっ、耐久レース?」
「ああ、判りやすいとこではルマン24時間耐久レースだ」
そうか、本多君はフォーミュラよりもそっちなのか……
「じゃあ、どうしてスーパーフォーミュラに乗っているんですか?」
まあ、杏香の言う事は判らなくもないけど……
「モーターレースは色々ある。色々と経験する事で本当にやりたい事が見つかるのさ!」
そうか…… それじゃ、本多君はイギリスへは行かないのかな……
「ねえ、川嶋君と勝負をしなくて良いの? まだ、勝ててないよね!」
ちょっと強引すぎたかな……?
「判りました! 命令ならば行きますよ。富士のテストの後ですよね……」
話はそこで終わり、タイムアタックをします。本多君も元気になったみたいだしね!
「ルールは簡単、五周のうち三回のアタックをして、一番早かった人の勝ち! それを三セットやってね」
と、私の説明の後に動いたのは本多君です。
「じゃあ、俺からやるから」
大丈夫かな…… フリー走行してないよね。
私がそう心配しましたけど、本多君はタイムアタックのためコースへ出て行きました。
「大丈夫ですかね…… フリー走行してないですよね」
小林さんも、ちょっと心配していますけど……
「なんだ、本多の奴フリーをやっていないのか」
GMから訊かれました。そうか、休憩の時にオーナーと一緒に来たんだった。
本多君は、ゆっくりとウォーミングアップで走り、最終コーナー手前のさよりんブリッジからスピードを上げメインストレートへ戻って来ました。これからタイムアタックスタートです。
「うん、あの分じゃ問題なさそうだな」
GMも私もちょっと心配し過ぎたかな。
本多君は何事もなくスムーズに第一コーナーへ走って行きました。
なんとか本多君の体調も良くなってタイムアタック勝負です。しかし、オーナーが言っていたダムスでのテストドライバーの件はちょっと気になります……




