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女神様はスピード狂  作者: 赤坂秀一
第二章 シーズン開幕
29/132

29 あと少しだったのに……

予選2位と3位の好位置からスタートした杏香と本多君です。今日のレースはコースもドライなので良い結果が出せそうです。

 第2戦鈴鹿での決勝レースがスタートしました。オープニングLAPはPP(ポールポジション)からスタートしたロバートパンドラーが1分37秒286で2番手に杏香(きょうか)、3番手に本多(ほんだ)君と続いています。


 上場のスタートで順位もそんなに変わっていないようです。


 しかし、後方からはカーナンバー7番とカーナンバー5番が迫っています。


中森(なかもり)松島(まつしま)も良いとこつけてるな」


 そう言いながらGMとオーナーが、それともう一人オーナーやGMとあまり歳の変わらないくらいの男性がいます。スポンサーさんかな……


小山内(おさない)さん、1分35秒785です」


「うん、小山内さんは調子が出て来たようだね」


 GMがそう言いますけど、予選は見てないですよね……


「うん、予選の時より良い走りをしている」


 オーナーまでがそんな事を言ってます。


「オーナーもGMも予選はご覧になっていたんですか?」


 私はそんな事を訊きました。ちょっと失礼だったかな……


「まあ、僕のチームの事だからね、気にはなるよ」


 まあ、それはそうでしょうね……


「今回はワンツーが期待出来ますよ♪」


 小林さんは相変わらずワクワクしながら言っています。


「そうなるといいけどね……」


 スポンサーさんらしき人がそんな事を、縁起でもない……


 レースは12周目に入りました。


「そろそろタイヤ交換を考えた方が良いんじゃないか?」


 GMからそう言われたので、山口(やまぐち)君達がニュータイヤの準備をします。


 今、カーナンバー51番にボックスの指示がされたようです。


「杏香に次のLAPボックスの指示を出して!」


 私はまず、2位の杏香を優先する事にしました。その時、杏香がメインストレート前を丁度走り抜けて行きました。


美郷(みさと)さん、タイヤ交換ですけどもうちょっと待ってもらって良いですか?』


 えっ、待ってて?


「ちょっと杏香、他のチームもタイヤ交換をしてるのよ! 決勝では必ずタイヤ交換をするレギュレーションがあるでしょう」


 私は杏香にそう言いました。まったく、何を考えているのか……


『美郷さん、お願いです。交換はしますけど今じゃないんです』


 杏香は、また勝手な事を…… 私がそう思い無線に手を伸ばした時でした。


「私ももう少し待った方が良いと思う」


 スポンサーらしき男性がそう言いますけど…… いや、いくらスポンサーでも、ここは口出しして欲しくはないんですけど!


「どうしてそう思う?」


 オーナーが、その男性に訊いています。


「風が出て来ましたから」


 男性は、空に指を刺しながらそう言います。


「解った! 北島(きたじま)君、交換はもう少し待とう」


 えっ、オーナーからもそう言われてしまいました。


「しかし、オーナー……」


「責任は私が取る」


 うーん、オーナーがそこまで言うのなら……


「解りました。杏香、もう少し交換は待つから」


『はい、ありがとうございます』


 まったくどういう事なのか……


 他のチームがタイヤ交換をする中、うちのチームはタイヤ交換をせずにLAP数だけを重ねて行きます。3位との差は40秒ほどありますので、交換に入っても今ならトップで戻れるかも知れません。残りのLAPもあと11周ですけど……


「あの、あとどれくらい待てば良いんでしょうか?」


 私が痺れを切らしてそう言った時でした。


『美郷さん、スプーンカーブ付近で凄い雨です。路面が一気にウェットです』


 えっ、雨……


『すぐにウェットタイヤの準備をお願いします。俺は今、西側ストレートだから先に小山内を交換して下さい』


 本多君からそう無線が入った後、山口君は大急ぎでウェットタイヤを2セット準備しています。


「杏香、ウェットタイヤに交換するからボックス!」


『了解、次のLAPに戻ります』


 私が無線を入れた時、杏香はS字から逆バンクを通過したところです。彼女はこれを待っていたの?


「ねえ杏香、あなたは雨を予知していたの?」


『はい、多分降ると思ったので』


 どうしてこの娘に、こんな事が解るの?


 しかしこの雨のお陰で、他のチームは二回目のタイヤ交換をしなければいけません。でも、うちのチームは一回のタイヤ交換で済みます。


「小山内ピットイン!」


 まずは、杏香のマシーンから交換します。


「OK GO!」


 交換時間7秒程で、杏香はコースへ戻って行きました。


 その後、本多君も交換を済ませコースに戻りました。杏香がチームに来てから初のワンツー体制です。


 他のチームとは40秒以上の差がありますので、まずは間違いないでしょう。3位以下のチームは追って来てはいないようなので、現状維持なんだろうと思います。


 そして、ファイナルラップです。本多君も杏香も余裕を持ってゆっくり安全に走っているようですけど……


「これで決まりなんだろうけど、それにしてもゆっくり過ぎないか?」


 GMが心配そうにそう言いますけど……


『本多さん、先に行ってもらって良いですか? 私、スローダウンです』


 杏香のマシーンがスローダウン? 


『小山内、オーバーテイクは出来ないのか?』


『無理です……』


『そうか解った、俺のマシーンもパワーが出ないが、オーバーテイクは出来そうだから先に行くぞ!』


『はい』


 その後、本多君が杏香のマシーンを抜いてトップになり、西側ストレートから130Rへ走っています。


「杏香、戻って来れそう?」


 私は心配でそう訊きましたけど……


『美郷さん、頑張ってみるけど多分戻れそうにないよ』


 そんな杏香を後続が西側ストレートで捉えて抜き去って行きます。杏香は130Rまで戻って来ましたけど、シケインの手前で力尽きコースアウトして止まってしまいました。その時、カーナンバー52番が杏香を追い越して行きました。木村結菜(きむらゆいな)……


『抜かれるって、あまり気分の良いものじゃないですね……』


 それが杏香からの最後の無線連絡でした。


 その頃、本多君はメインストレートまではトップで戻って来ましたけど、後続のマシーン3台に抜かれ、4位でゴールしました。その後、マシーンをコースの左側に寄せて止まりました。本多君もギリギリだったようです。

予選が良かっただけに残念な結果になってしまいました。本多君が4位に入ったのは良かったけど…… 不安材料を残したレースになりました。

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