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女神様はスピード狂  作者: 赤坂秀一
第二章 シーズン開幕
19/92

19 美郷の憂鬱

懇親会を途中退席した美郷の前に現れたのは……

 食事を済ませてパーティ会場を出ようとしたその時でした。


北島(きたじま)さん!」


 私の事を呼ぶ声が…… そう声を掛けて来たのは、KASHIMA Racing teamの小島和樹(こじまかずき)


「えっと、この人は……」


 早速杏香(きょうか)が反応しました。


「杏香、気にしないで!」


 私は彼を無視して杏香に言いました。だってこの人は苦手なんです。


「そんな、酷い態度を取らなくても……」


「ちょっと、気安く声を掛けないで!」


 私が一番恐れていた事です。


「もう、戻られるんですか?」


美郷(みさと)さん、この人は?」


 杏香も気を遣ってくれてるけど……


「いいから帰るわよ!」


「はあ…… 今回は予選で4位になりました。優勝したら一緒に食事してください。一度くらいなら良いでしょう。


「……」


 まったく、何を考えているのか……


「本当は、川嶋(かわしま)さんの後に僕が KAEDEに移籍して良かったんですけどね!」


 彼は笑顔でそう話すけど、そんな事出来る訳ないでしょう!


「小島君、あまり変な事言わないでね! 周りに誤解されても困るから……」


 そう言って私と杏香は、パーティ会場を出ました。


「美郷さん、あの人誰なんですか?」


「うん…… ちょっとね」


「何だか、顔が赤いですけど……」


 えっ、顔が赤い!


「美郷さん、お酒飲んだでしょう」


「…… えっ、ちょっとね……」


 彼は、私がレースクイーンをしていた時に新人ドライバーとしてSFでレースを始めた。それが、何故だか知らないけど、私の事を気に入ったみたいで偶に声を掛けて来る。でも、生意気な年下男なんだけどね……




 日曜日の早朝、決勝の朝です。でも私は、昨日の事が気になってます。別に小島君に特別な感情がある訳ではないけど……


 私は今、電話を掛けています。出てくれるかな……


『もしもし、今何時か解ってるんだろうな』


「多分、午後九時くらいだよね」


 私がそう言ったら、あいつは察してくれたみたい。


『ああ…… 何かあったのか?』


 随分とぶっきらぼうな言い方。


「うん、あいつがさ……」


『ハッ、はっきり言ってやれよ! 興味はないって』


「うん…… 話しかけないでとは言ったんだけどね」


『そうか、じゃあ俺が言ってやるよ』


「なんて言うの?」


『俺の女に手を出すな! ってな』


 えっ、なにそれ?


「私はいつからあなたの女になったの?」


『ふっ、相変わらずだな…… なあ、イギリスに来ないか?』


「だからその話は、きちんと説明したでしょう」


『チームのため、嬢ちゃんためというのは聞いた。でも、俺はいつまでも待ってるからな』


 待ってると言われてもね……


「うん……」


『あっそうそう、そのうち良い話があるかもだぜ!』


「何よ、良い話って!」


『まだ、はっきりしてないから、そのうち判るよ、じゃあな!』


 あいつはそう言うと電話を切ってしまった。はあ、イギリスか…… でも、行けないよ。だって杏香が、あの娘の走りはあなたに似てるの…… だから、期待してしまうのよ! 私の代わりにってね……


『コンコン』


「美郷さん、朝食行きませんか」


「はあ…… はい、すぐ行くから先に行ってて」


 あの娘は今日も元気そうね、レースでも良いタイムを出してくれるかな……


 朝、八時前くらいからサーキットではイベントが始まっているようです。レースの方は九時二十分からフリー走行がありますが、決勝は十五時からです。二輪の決勝レースがあるのでそれが終わった後、本日のメインレースという事で、SFの決勝レースがあります。


「美郷さん、そろそろフリー走行が始まりますのでパドックにお願いします」


「はい」


 私は返事をしながらパドックへ入りました。


「美郷さん、なにかあったの! いつもなら一番にパドックにいるはずなのに」


 GMがそう言うので、山口(やまぐち)君も私の方を見ています。


「い、いや、大丈夫、問題ないよ!」


「それじゃ、奥で休んでて良いよ。まだ、フリー走行だから」


「はい……」


 GMがそう言ってくれたのでお言葉に甘える事にしましたけど…… あの二人、なにかコソコソ言ってる?


「美郷さんどうかしたんですかね?」


「ああ、多分あの日なんじゃないかな」


「ああ、女の子の日ですか! あれって結構大変らしいですよ、お腹が痛くなるし、身体が怠くてどうしようもないそうですよ」


 GMと山口君はヒソヒソと話しているみたいだけど聞こえてますよ、まったく失礼しちゃうわ!


 本多(ほんだ)君と杏香はすでにコースに出ています。ウォーミングアップが終われば、次々にスピードを上げていくのかな。あの二人のコンディションだけはチェックしておかないと……


小林(こばやし)さんタイムはどんな感じ!」


「まだ、ゆっくり走っているから計測していません」


 うん、そうか…… 私はそのまま椅子に座ります。


「美郷さん、辛い時は言ってくださいね、良い薬を持っていますから」


 はあ、小林さんまで…… GM達の勘違いがここまで広がっている。みんな、意外と聞き耳を立てているんだな。

決勝前だと言うのに憂鬱です。でも、二人のコンディションだけは確認しておかないと……

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