125 注目のルーキー
公式TestP&R、初日のセッションです。真冬のテストだから寒いし、タイヤコンディションも良くないです。
今、私達は公式TestP&Rを受けに鈴鹿サーキット場に来ています。
只今セッション1真っ只中ですが、今年は注目の新人外国人が三人ほどいるようです。三人とも三日目のルーキーテストに参加するようですけど……
「山口君、新人外国人って知ってる?」
私はそう訊きましたけど……
「知ってるけど、まだ、見てないからな…… どんな奴かは知らないですよ」
それって、知ってるんじゃなくて知らないんじゃないの……
まあこの業界は、新人だからって他のチームに挨拶に来る訳ないしね……
「美郷さん、名前だけなら判りますよ」
そう言うのは、鈴木オーナーです。
「知ってるんですか?」
「はい、名前だけですけど」
こう言うのを知ってるって言うんだよ山口君、そういう事で教えてもらいました。
ひとりはTeam aoiのジャスティン ライブリーというイタリア系アメリカ人です。Team aoiって二人とも外国人なんですね。
「あとの二人は?」
私はそう訊きましたけど……
「ジョージ マクレーとライアン ヨハンソンだ! ジャスティンはライツからのステップアップであとの二人はF3からのステップアップと訊いてるけど」
「まあ、新人ならルーキーテストでどんな走りをするか見ておく必要があるかな……」
「まあそうですね、今年のルーキーテストは14人くらいいるみたいだよ」
と言うのは岩崎チーフです。
「うん、そのうちの5人は女性らしい」
「女性がそんなにいるんですか?」
私がそう訊くと……
「うん、ほら、女性だけのフォーミュラのえっと、なんだっけ?」
山口チーフも話に入って来ました。
「KYOJOじゃなかったかな……」
「あっ、それそれ」
オーナーもそう言ってます。モータースポーツにも女性の進出が目立って来たようです。
「まあ、そうは言ってもルーキーテストで何人通過出来るかなんだけどね」
まあそうですね、去年の杏香の場合、タイムもそこそこ速かったし、うちのチームに正式に所属が決まってましたから良かったんですけど……
そんな話をしてる間に、セッション1が終わりました。
「美郷さん、小山内さん凄いですよ!」
そう言って来たのはタイムキーパーの岡田菜穂子さんです。
「どうしたの?」
もう杏香の凄いは去年からずっと訊いてるので、ちょっとの事では驚かないわよ!
「小山内さんのベストが1分36秒985でトップです」
「えっ……」
私は絶句しました。そのタイムは、ほぼ予選のタイムアタック並みのタイムです。あの娘は何を考えているのか……
その時、杏香と結菜が戻って来ました。マシーンから降りるなり……
「杏香、凄すぎ!」
結菜がそう言ってます。
「そんな事ないよ」
杏香も澄まして言ってるけど……
「杏香、何故こんな走りをしたの!?」
私がそう訊いた時、杏香が珍しく頭を下げるような仕草を……
「だ、だってみんなゆっくり走って眠くなりそうだったから……」
いや、言い訳するんかい!
「もう、フリー走行なんだから……」
「フリーって事は自由でしょう! それに後半はみんなアタックして来るから」
はあ…… 杏香は自由すぎる…… 私は何も言えなくなりました。
そんな時、ピットビューイングが始まりファンの人たちがピットの方へ集まって来ました。
杏香も結菜もファンの人達と一緒に写真を撮ったりしています。
この光景は、去年まではなかったかな…… 本多君がそんな感じじゃなかったもんね。
そんな時、うちのパドックにひとりの男性が来ました。
「あれ、中森さん?」
私がそう言うと……
「小山内さんに…… ちょっと良いですか?」
そういう事で、パドックの外で何やら話してますけど……
「フリー走行っていうのはあんなにスピードを出すもんじゃないよ」
はっ、態々忠告に来たのか……
「どうしてですか?」
「フリー走行というのは設定したマシーンの調子や問題が無いかを確認する場だ! 君みたいに予選でもやってるように走ったら解らないだろう」
全くもって、ごもっともですが……
「でも、不具合や問題はレース本番中に発生するものですよ。それに後半はアタックするでしょう」
はあ、杏香も大先輩相手に負けてないな……
「そうか、まあ良いけど、他の連中に迷惑を掛けないようにしてくれよ。ただでさえルーキーが参加するとレッドフラッグが耐えないからな」
そう言って彼は戻って行きました。
「まったく、何しに来たんだか……」
そう愚痴りながら、杏香は私達の方へ戻って来ました。
「杏香、まだレース本番じゃ無いんだから…… あまり危険な事はやめてね」
「別に危ない事をやってるつもりは無いけど……」
私はそう言ってピットビルの方へ行きました。後は彼女がどう思うかだけどね……
ピットビルの方へ行くと、中森と松島が何か話をしています。たぶん杏香の事なのかな……
「すみません、杏香が危ない事をして」
私がそう言ったら彼らはびっくりしたようでした。
「あっ、いえ…… 気にしないでください」
そう言って彼らは行ってしまいました。
これって、ひょっとしたら心理戦も少しはあったのかな……
セッション1で杏香がとんでもない事を…… タイムが温まった5周目くらいから速度を上げて、予選のアタック並みのタイムを出していたみたいで、中森が杏香に忠告に来ていました。




