116 ファーストドライバー
ファーストドライバーを決める為、二台のマシーンがコースへ出て行きました。これから十周のスプリントレースが始まります。
杏香と結菜のマシーンがコースへ出て行きました。彼女達はマシーンを蛇行させながらタイヤをあたためて走っています。
季節は十二月の冬だから、タイヤはきちんとあたためておかないと簡単にスリップするからね!
「小林さん、タイムお願い」
私がそう言うと……
「あっ、姫のタイムは私が計測するから」
「姫?」
菜穂子さんはタイムキーパーとして参戦です。
「姫って、結菜の事?」
うんうんと私は頷きます。
「タイムキーパーが二人いると便利ですね」
小林さんは笑顔で喜んでいるようです。
「ええ、そうね」
まあ、メカニックだって岩崎さんを入れて四人増えたからね。
そんな中、杏香と結菜がスターティンググリッドに着きました。今、翔吾さんがチェッカーフラッグを持って準備をしています。
その後、チェッカーフラッグを高々と掲げたと同時に杏香も結菜もエンジン音を高々と上げてます。
そして、チェッカーフラッグを振り下ろしたと同時に、二台のマシーンはスタートしました。
杏香が先頭で第1コーナーを回って行きます。結菜もそれに続いています。
その後、コカコーラコーナーから100Rと周りますが、結菜も杏香のテールにピッタリついています。
また、結菜は速くなってる…… しかも、マシーンのコントロールも良くなってる。杏香もウカウカしてると結菜にやられるかも知れない……
しかし、杏香は結菜の事を気にもしてないようで、アドバンコーナーを回ってダンロップコーナーへ突き進みます。結菜は少し杏香に離されたかな……
その後も杏香は13コーナー、プリウスコーナーを回って、最終コーナーのパナソニックコーナーを通過、メインストレートに戻って来ました。
杏香が今、トップで通過して行きました。
「タイムは?」
「1分23秒168です」
続いて結菜も通過しました。
「1分23秒326」
さほど差はないようです。
「結菜も頑張ってはいるけど」
「まだ、一周目です。これからですよ」
菜穂子さんはそう言うけど、杏香のことだからこのままのタイム差を保ちながら終わるんじゃないかな……
そんな事を思っている時でした。
「あっ、姫が並んだ!」
えっ! アドバンコーナーを通過した後、結菜が杏香に並びました。このままダンロップコーナーへ飛び込むようです。
「やった! 姫が追い越した」
ダンロップコーナーを先に通過したのは結菜です。その後杏香は結菜のテールにピッタリ張り付いています。
そのまま13コーナー、プリウスコーナーからパナソニックコーナーを回って、メインストレートを二台横並びで通過して行きました。
「今、小山内さんは笑ってなかった?」
小林さんがそんな事を言いますけど、メインストレートを通過する一瞬で、しかもヘルメット越しでそんなのが見えたの?
「笑っていたかどうかは解らないけど、杏香は楽しくて仕方がないのかもね」
その後、杏香は第1コーナーで結菜を抜き返しました。彼女もなんのかんの言いながらも負けたくないんだろうと思います。
この後も抜きつ抜かれつを繰り返し九周目まで来ました。杏香はトップを走る結菜をコカコーラコーナーで交わして、結菜との差をグングン開いてダンロップコーナーを通過した時は5秒以上の差が開いていました。
「はあ、これで決まりだね」
思わず私はそう口にした時、杏香は翔吾さんからチェッカーを受けました。
「うーん、やっぱり小山内さんは凄いな……」
そう言いながら岩崎さんがパドックに来ました。翔吾さんも駆け足でこっちへ戻って来ました。
「はあ、やっぱり駄目だったか……」
翔吾さんは、あわよくば結菜をファーストドライバーにしようと思っていたんだろうと思います。ただその為には口実が必要なので、こういうスプリントレースをしたんだろうと思います。
「オーナー、小山内さんがファーストですよね」
菜穂子さんがそう言います。
「ああ、そうだね」
「うーん、もう少しだったんだけどな……」
菜穂子さんはそう言って残念そうですけど……
「いや、小山内さんと結菜の差はかなりなもんですね」
岩崎さんはそう言ってます。
「いや、ちょっとの差だったでしょう」
「いや、小山内さんはかなり手を抜いていたよ! 終始笑顔で走っていたからね」
えっ、やっぱりそうなんだ…… 私には表情は解らなかったけど、走っている彼女は楽しそうに見えました。
杏香と結菜がピットに戻って来ました。
「もう、杏香! 真面目に走ってよ」
戻って来るなり結菜は、杏香にクレームをつけています。
「えっ、ちゃんと走っていたけど」
杏香もしらばっくれるね……
「菜穂子さん、LAPタイムは?」
「えっ、えっと姫は1分23秒324がベストかな」
「杏香は?」
「えっと……」
「小山内さんのベストは1分23秒168よ」
平然と小林さんが言いました。
「やっぱり、杏香だったら22秒台で走れるはずだもん」
結菜は、頬を膨らませてそう言っています。
「いや、寒いからタイヤだって心配だし……」
「結菜、もう少し頑張って小山内さんとの差を無くさないとな」
「うん……」
鈴木オーナーからそう言われた結菜は、ただ頷くだけでした。
やっぱり杏香は、結菜に合わせて走っていたようです。まあ、笑顔で楽しそうに走っていたらそう思われるよね……
このスプリントレースは、杏香の圧勝でした。これでteamSHOWGOのファーストドライバーが決定しました。




