聖女召喚ースイーツ食べ放題の途中でしたがー
高カロリーなものって美味しいよね
「やった、召喚成功しました!」
何か眩暈を感じてクラクラしたと思ったら、変な場所にいた。
ついさっきまで、スイーツ食べ放題してたのに。
「聖女様、この国をお救い下さい!」
やたらとキラキラしい男が手を掴む。
「え、聖女様?
私、聖女様なの?!」
瞳を輝かせて頬を染める女。
そう、その娘は高校生の制服を着て、私の隣に立っていた。
うーむ、これは巻き込まれ召喚だろうなぁ。
お前、誰?って顔で見られてる気がする。
私、帰って良いかなあ。
スイーツ食べ放題、まだ途中なんだけども。
三千円も払ったんだから、元取るだけ食べたいんだけども。
「あの、あなたは聖女様のお付きの方でしょうか?」
「違います。
私は巻き込まれただけだと思いますので、帰って良いでしょうか」
「必要なのは聖女様だけだ」
キラキラ男がのたまう。
あー、どうやら王子様らしい。
「申し訳ありません、召喚は一方通行なのですじゃ。
送還の方法は伝わっていないのじゃよ」
頭髪の淋しいお爺さまが、汗をダラダラかきながら謝ってくる。
うー、スイーツ食べ放題、、、。
勝手に召喚するなんて、拉致だわ。
「ハルカ嬢、是非私と来て下さい」
「はい、喜んで!」
女子高生は王子様と連れ立って行ってしまった。
まあ、本人がそれで良いならば口を出すことも無いか。
さて、私はどうしようかな。
この世界に美味しいものがあるならばいても良いけど、飯マズ世界だと嫌だなぁ。
とりあえず、美味しいもの探しでもしてみましょうか。
「元いた場所に帰してくれないなら、美味しいものが食べたいです。
何とかして下さい。」
「ほう、肝の座ったお嬢さんじゃ。
着いておいでなされ」
こうして私はお爺さまの世話になる事になった。
フォークで崩してしまうのが惜しい位の美しいスイーツが目の前にある。
この世界も悪くないかもと思いつつ口に入れる。
「、、、、、、。」
「お口に合いましたか?」
気立ての良いメイドさんが尋ねてくる。
うーん、甘い。
スイーツなんだから甘いのは当たり前だけど、とんでもなく甘いのだ。
元の世界でもとても甘いものを食べる国があったと思うけど、私の住んでた日本は上品な、くどく無い甘さのスイーツが主流だった。
こんな、砂糖と蜂蜜とをこれでもかとまぶしたような菓子食べた事無いもんなぁ。
「お水下さい」
ああ、帰りたい。
他の料理も口に合わなかったしなぁ。
もう、帰っちゃおうかなぁ。
そういえば、ここに来てひと月位経つけど、あの聖女ちゃんどうしたかな。
この世界に馴染めて楽しくやれてるんなら良いのだけれど。
「ねえ、私と一緒に来た聖女様って元気にしてる?
会って話す事は可能かしら」
「ああ、聖女ハルカ様ですね。
そうですなぁ、少々お疲れの様でして。
ご面会を申し込んでおきますかな」
「うー、胃が痛い」
聖女ちゃんは椅子に座って胃を押さえていた。
「あら、どうしたの?」
「お城の料理怖い!
毎回毎回こってりしてて、味が濃くってもう食べたく無い。
胃もたれして何も食べたく無いの!」
「あっさりしたものとかは無いの?」
「ありません。
王様の食べる高級な料理なんだろうけど、一回食べれば充分よね。
お母さんのご飯が恋しいわ!
もう、お茶漬けだけでも文句言わない!」
「この世界、お米は見かけないものねえ。」
「スイーツ食べました?
あの、甘すぎてクドイやつ!
いっそ、苦味を感じるレベルだったわ。
ここの人たちって味覚が壊れているんじゃないかしら。」
「日本人は特別繊細な味覚を持っているらしいし。
ねえ、帰りたい?」
「帰りたいに決まっているじゃないですか!
私、将来の夢はパティシエなんですよ。
製菓専門学校に行って美味しいスイーツを作るはずだったんです。
その勉強のためにスイーツ食べ放題に行ってたのに。
お年玉貯金くずした三千円、どうしてくれるのよ!」
あらあら、随分と荒ぶっているわね。
「王子様はもう良いの?」
「ああ、あのナルシスト王子様。
この国をお救い下さいって言ってたけど、王族の方達の痛風や糖尿病を治して欲しいだけなんですよ。
まずは食生活を見直しなさいっての!!」
「じゃ、帰っちゃう?」
「帰りたいけど、送還の方法は無いって、、、」
彼女の目から涙が伝い落ちる。
「帰れるわよ。
時間はスイーツ食べ放題に戻しても大丈夫よね。
三千円元取りましょう」
「え?一体どうやって?」
瞬きした程の間で転移した。
そこはもう、スイーツ食べ放題の店の中。
彼女と私はバームクーヘンを焼いてるパフォーマンスに見とれていた。
「焼きたてバームクーヘン下さい!」
彼女は何も無かったかの様にスイーツに夢中になる。
時間を戻したから、聖女召喚と言う名の拉致は無かった事になった。
彼女の将来に幸あれ。
私も幸せな時間を過ごそう。
「バームクーヘン焼きたて下さいな」
「聖女ハルカ嬢?
おい衛兵、聖女様はどこ行った?
部屋から出て無い?
立ったまま寝てたのか!
聖女様を探し出せ!!」
どんなに探しても、もう二人は見つからなかった。
《お爺さまへ
突然ですが家に帰る事にしました。
この国の方は贅沢なものを食べ過ぎてるようです。
聖女様に頼るのではなく、食生活にお気を付けください》
「一体どうやって帰ったのじゃろうか?」
疑問は残るが、質素な食生活を推奨していこうと決めたのだった。
こっちの都合も考えずに召喚、拉致。
絶対ゆるしません!
送還の方法は無いって言うから、自力で帰っちゃうもんね。
だって実は私、魔力たっぷりの神さまなんですもん!
あちこちの世界を渡り歩いて美味しいもの漫遊してるの。
聖女、女子高生ハルカ
私、冴えない見た目のおばさん
実は美味しいものが大好きな神