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ショートショート9月〜4回目

鉛筆

作者: たかさば
掲載日:2023/09/17

ここに一本の鉛筆がある。


……これで、何をしようか。


紙がないので、文字を書くことができない。

当然、絵を描くこともできない。


……いや、できないことはない。

つるつるとしてはいるが、テーブルにあとを残すことはできる。

この身体に、言葉を刻み込むことはできる。


いやしかし…それは文字を書くことには、絵を描く事には、ならない気がする。


いわゆる筆記用具としてではない要素が大きすぎる。

鉛筆はテーブルを汚すためのものではなく、筆記するための道具なのだ。

鉛筆は肉体を傷つけるためのものではなく、筆記するための道具なのだ。

鉛筆が鉛筆たる所以を、己の都合だけで無視するわけには…いかない。


この鉛筆で…何ができるだろうか。


やや先の丸まった、鉛筆。

なんの変哲もない、HBの、緑色のボディの鉛筆。


鉛筆以外にあるものは…テーブル、いす、自分。


頑張れば、鉛筆を折ることができそうだ。

頑張れば、鉛筆を破壊することができそうだ。


……意味もなく、鉛筆を鉛筆という物体からただのゴミに変えてしまうのは、いかがなものか。


いつか鉛筆があればと思った時に、役に立つのかもしれない。

いつか鉛筆が欲しいと思った時に、後悔するようなことはしたくない。


私は……、何をするべきだろうか。


鉛筆を見ながら、絵を描く自分を想像してみる。

ゆかいな絵、精巧な絵、繊細な線、豪快な線…。

想像した端から、創造した場面がどんどん消えていく。


鉛筆を見ながら、物語を書く自分を想像してみる。

楽しい物語、丁寧な物語、心の震える言葉、力強い言葉…。

想像した端から、創造した場面がどんどん消えていく。


鉛筆を見ながら、何かを描いていた頃の自分を思い出してみる。

鉛筆を見ながら、何かを書いていた頃の自分を思い出してみる。


あふれ出す、過去の場面。

あふれた端から、過去の画面がどんどん希薄になっていく。


……鉛筆を見ているだけで、こんなにも。

……鉛筆を手にするだけで、こんなにも。


……そうだ、鉛筆を食べてしまえば、あるいは。


鉛筆を体内に取り入れたら、記憶が薄れることなく。

鉛筆を体内に取り込めば、創造が消えることなく。


……この体の一部となるのであれば、それもまた。


「あ、こんな所にあった。あ、ダメダメ、それは食べものじゃないよ!」


……誰かがやって来て、鉛筆を持って行ってしまった。


なにもなくなった、テーブル。

何もなくなってしまった、テーブル。


……このテーブルに、鉛筆があったことを思い出せば、私は、きっと。

鉛筆を見て、いろんなことを思い出せることに、また…気がつける、はず。


……このテーブルを、見ていれば、きっと。


色んな事が思い出せるって、気が付くはず。


……このテーブルを、見ていると、なぜか。


じっと、見続けないといけないって、思う。


……この、テーブルが、気になる。


テーブル……。


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