勇者、帰還
リーナは母国、「エスドラ王国」の首都、「王都エスカ」へと帰還すると、街の人々からは歓迎どころか、敵意に満ちた視線が向けられてきた。
(私、魔王を倒してきたというのになぜこんな視線を向けられてるの……?)
周囲からの視線に戸惑っていると、そんな私の疑問を晴らすかのように年端も行かない一人の幼い少女がやって来た。
「ねえ、お姉ちゃん勇者だよね……?わたしのママはどこなの……?」
「ママって……?」
「ママの名前はミーア……。お姉ちゃんの仲間だったんでしょっ!?ねえ!わたしのママはどこなのっ!?なんで一緒じゃないの……っ!?」
少女は今にも泣き出しそうな顔で私の服を掴み、悲痛な叫びを上げていた。
ホークアイのミーアにこんな小さな娘がいたなんて……。
「ミーアは亡くなってしまったの……。ごめんなさい……。でも、ミーアのお陰で魔王を倒せたの。あなたのママは立派だったよ……。」
「ママが死んだ……?そんな……ママ……ママーーっ!!」
ミーアの死を告げるとその少女はその場に崩れ落ち泣き叫んでいた。
「あの子確か父親も死んだんだよな……。」
「あんなに小さいのに両親がいないなんて……。」
「確かあの子の父親も勇者のメンバーだったよな?確か名前はラッツだったか……。」
ラッツ……確か私の初期の仲間だった。敵の不意をついた攻撃に私を庇って死んだ……。あの子の父親でミーアの旦那さんだったんだ……。
「ち……!勇者の仲間にされた奴はみんな死んじまう……。」
「俺も新友が勇者の仲間として連れて行かれて死んじまった……。」
「私は恋人が……うぅぅ……っ!」
「僕は姉ちゃんが連れて行かれて……なんで姉ちゃんが死なないといけないんだよっ!!」
「優秀な奴から勇者の仲間にされて、そして死ぬんだ!あの勇者のせいでなっ!!」
「死神なんだよあの勇者は……っ!」
「そうだ!あいつがみんなを死なせたんだっ!!」
「あいつが死ねば良かったのよ……!」
そこら中から私へとトゲのある言葉が次々に投げかけられてくる……。
「返してっ!私のパパとママを返してっ!!」
泣き崩れている少女が私の服を掴み悲痛な叫びを上げている……。
あの敵意に満ちた視線の正体はこれだったんだ……。
「……っ!」
「きゃっ!?」
居た堪れなくなった私は少女を振り払うと目をきつく閉じ、両手で耳を塞ぎその場を逃げるように走り出した。
「あんな小さい子を振り払うなんて……!なんて奴だっ!!」
「この子に謝れっ!この人殺しっ!!」
その間にも周囲から私への罵詈雑言が浴びせされるが、私は王様のいる城へと逃げるように走り抜けていった……。
なんとか城にたどり着くも、城の兵士からも敵意が籠もった視線が私に向けられ、そしてなにやらヒソヒソと明らかに私へと向けられた悪意のある言葉を囁いていた……。
まるで針のむしろにでもなったかのような感じで、私は王様のいる王の間へと向かっていったのだった……。
「勇者リーナよ、よくぞ魔王を討ち滅ぼしてきたっ!そなたなら見事やり遂げてくれると信じておったっ!」
「ありがとうございます、王様。」
私は王様の前に跪くと、王様から労いの言葉を戴いていたが、その間にも周りの兵士からは刺々しい視線が投げかけられていた。
(ほんと身を隠せるものなら隠したい気分だ……。穴があったら今すぐにでも入りたい……。)
「ところでリーナよ。もし、そなたさえ良ければこの王都で暮らさぬか?魔王を倒した勇者として讃えようではないか!勿論住むところなら用意させよう。」
王様から思いも寄らない提案を持ちかけられるが、その言葉に周りの兵士達の顔色が変わったことに私は気が付いた。勿論悪い意味で、だ……。
つまりはこの王都にお前の居場所はない。今すぐにでも出ていけ……と言っているのだ。
王様の気持ちはありがたいけど、タダでさえ王都の人からは敵意を向けられているのに、こんなところで暮暮らせるはずがない……。
「いえ、お心遣い大変ありがたいのですが、故郷で両親が私の帰りを待っておりますので……。」
「そうか……ならば仕方あるまい。では、リーナよ。此度の働き、誠に大儀であったっ!」
「はっ!」
私は跪いたまま王様に頭を下げると王の間を後にし、文字通り逃げるように王都を後にするのだった……。