【掌編】「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
「アリー、僕はお前との婚約を破棄し、愛するミラと結婚する!」
「承知いたしました。カイ様」
学園の進級パーティーでの婚約破棄。
でも大丈夫。
カイ様は私の元に戻ってくる。
だってヴィレ侯爵家は我が家に多額の借金があるから。
翌日、借金の取り立てを始めたらカイ様が当家に乗り込んできた。
「アリー僕が悪かった!
ミラと別れる!
もう一度僕と婚約してくれ!」
「カイ様、一度破棄された婚約はそう簡単には結べません」
「そこをなんとか頼む!
このままでは僕は廃嫡されて鉱山に送られてしまう!」
「どうしてもと言うなら私と契約してください。私の言うことを何でも聞くと」
「わかった!」
「口約束では信用できません。
このおふだを体に貼ってから契約書にサインしてください」
カイ様は契約書の内容を確認せずサインをした。
「カイ・ヴィレ様。
今からあなたは私のものです。
心も体も……」
☆
二年後。
「アリー、愛してるよ」
「私もよ、カイ」
「カイ様とアリー様よ。美男美女でお似合いだわ」
「二人とも眉目秀麗、成績優秀、文武両道、完璧よね」
「カイ様は二年前まで学年最下位の成績で浮気者だったのに、今は学年主席でアリー様一筋! 彼に何があったのかしら?」
「本当、まるで別人みたい」
周囲が私達のことを噂している。
「俺はアリーのことしか見えないよ」
「ありがとう」
カイが別人みたい?
そうね、彼の中身は別物よ。
私はカイの見た目が好きだった。
カイは見た目二百点、中身マイナス百点の男だった。
中身がマイナスでも外見が高得点だからプラスになる。
だが浮気を繰り返す彼を見て私は考えた。
中身もプラスにできないかと。
それから私は悪魔の研究を始めた。
そして中身二百点の悪魔を見つけた。
でもカイの体を乗っ取るには彼の許可がいる。
そんな時彼から婚約破棄された。
とても良いタイミングだった。
婚約破棄の翌日、侯爵家に借金の取り立てをするとカイは私に泣きついてきた。
私は彼を許すふりをして契約書にサインさせた。
体を悪魔に明け渡す契約書に。
☆
さらに十年後。
「母様、屋根裏で古いぬいぐるみ見つけたよ」
息子がおふだの貼られた古いぬいぐるみを持ってきた。
「兄様ズルい! 私も欲しい!」
息子と娘がぬいぐるみの取り合いをしているうちにぬいぐるみは壊れてしまった。
「ごめんなさい。母様」
「いいのよ。
取るに足らない下らない物が入っていただけだから」
私は壊れたぬいぐるみを夫とともに暖炉の火にくべた。
―終―