朝の目覚めは愛しき姫の笑顔から
ふと甘い香りがして、彼は目を覚ます。
そこには彼が眠っていたベットに横たわって、頬杖を突きながら、彼の頭を愛おしそうに撫でていた少女の姿があった。
「おはようございます。朝ですよ」
「あぁ、おはよう。優奈」
彼の名前は柿谷良介。青蘭高校に通っている高校生。
眠たげな彼に挨拶をしたのは天野優奈。良介と同じ青蘭高校に通っていて、良介の恋人でもある。
「どうしたの?こんな朝早くから」
「良くんの顔が早く見たくって。いつもなら起きてる時間だったのに今日はいなかったので自室に来てみれば……ふふっ。とても可愛い寝顔でしたよ」
優奈は寝癖ができている良介の頭を優しく撫でると、良介は僅かに頬を染めて布団の中にもぐってしまった。
今となっては二人はこんな仲睦まじい様子だが、出会った当初は最悪だった。だがいろんな出来事を通してお互いを知っていき、一度はその関係が終わりを迎えようとしたが、それを乗り越えて文化祭の夜に良介が告白をして、二人は無事に付き合うことになった。
「だめですよ良くん。お布団から出てください。今日も学校あるんですよ」
優奈は既に身支度を整えているようだった。
「いやだー。外寒いもん」
「朝ごはんが覚めちゃいますよ」
「……朝ごはん何?」
「ご飯とわかめの豆腐の味噌汁と卵焼きです」
「……あと五分だけ」
「だめです」
優奈に布団を剥ぎ取られて、良介は身震いした。そのあと目を擦ってゆっくり起き上がる。優奈がカーテンを開くと、太陽の光が差し込んでいた。
「いい天気ですね」
「そうだな」
「ほら。早くご飯を食べましょう」
「んー……」
☆ ★ ☆
「ご馳走様でした。あー美味かった……」
「お粗末さまです」
「食器は俺が洗っておくよ」
「いいですよ。良くんは顔洗って着替えてきてください」
「じゃあ……お言葉に甘えて」
良介が洗面所で歯磨きや顔を洗っている中、優奈は食器を片付けていく。この朝のやりとりがまるで新婚のようだな、と優奈は小さく笑った。
「あー身体痛い……」
大きな欠伸をした良介は制服に着替えてネクタイを結んでいた。良介は最近バイトを始めていて、慣れない環境と緊張感のせいもあってか筋肉痛に襲われているようだった。
「良くん。ネクタイが曲がっていますよ」
優奈は結ばれていたネクタイを解いて、結び直す。良介が苦しくならない程度にキュッと締めて、うん、と頷く。
「あー。なんかごめん。今日の俺なんかだめだわ」
「いつもがしっかりしすぎなんですよ。たまにはこんな日もあっていいじゃないですか。それに、だめな日の良くんの世話を焼くのもわたしは楽しいですよ」
「ん。ありがと」
良介の顔にも笑顔が溢れた。
戸締まりを確認して、二人は外を出る。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
二人は今日も仲良く手を繋いで、学校へと向かった。