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天才たちのためのテンプレ作戦  作者: うちよう
テンプレ作戦① 仲間を増やそう
6/20

06 意外な一面

 俺たちが現在いる場所は「カイデルラ大森林」——————総面積二千平方キロメートルに及ぶ巨大な森林地帯だ。

 その規模は文字通り壮大で、フラン曰く、空を覆い隠すほどの大樹が満遍なく広がっていることから身を隠すには打ってつけとのことらしい。

 確かに、この樹海の中で誰かを見つけるのは困難を極めるだろう。

 ともあれ、それではフランのコミュニケーションの練習にはならないので、とりあえずは彼女の身の安全を考慮していつでも逃げられるように「カイデルラ大森林」外付近までの進行を予定していた。


 だが、どうやら今日はここで打ち止めのようだ。

 気が付けば、西の空が橙色に染まっている。

 今日中に「カイデルラ大森林」を抜けたかったものの、これ以上森の中を彷徨い続けるのは流石に危険だろう。

 それに、野宿するとなればそれなりの準備が必要になる。

 個人的な意見としては、明るいうちに一夜を乗り越える準備を最低限整えておきたかった。


 「よし、今日はこの辺で休憩するか。確認だけど、近くに川とかってあるのか?」

 「……あるわ」


 何も考えていなさそうなボーッとした顔つきでフランは応える。 


 「えっと、俺がこんなこと言うのもおかしな話だけど、本当に大丈夫?」

 「大丈夫よ、私に任せて」


 今度のフランの表情は自信に満ち溢れている。

 だけど、俺の心の不安は拭いされそうになかった。


 「それじゃあ、案内してくれるか?」

 「分かったわ、きっとあっちの方よ」

 「え、きっとって……」


 俺の不安を孕んだ渾身のツッコミを無視して、フランはスタスタと茂みの中へと消えて行く。

 急いでフランの後を追いかけるのだが、先ほどの道とは違って誰かが通りかかった痕跡がまるでない。

 刻一刻と時間が経過するにつれて、影が森林を徐々に侵食していく。


 そして歩き続けること五分、俺たちは無事に川辺へと辿り着くことができた。

 鮮度の高い澄み切った川が、俺の不安を一気に拭い去っていく。

 道中、このまま人気のない森林の中で野宿する羽目になったらどうしようかと不安で一杯だったが本当に辿り着けてよかった。


 「それじゃあ、俺は焚き火の準備に取り掛かるから、フランはこの付近で食材集めでもしててくれ」

 「分かったわ、私に任せて」


 グッと親指を立てるフランの表情は、やはり自信に満ちている。

 陽も沈みかかっていることだし、二人で共同作業はかなり効率が悪い。

 だから俺は、フランに食材集めを任せて一人薪探しを始めた。


 野宿とか「勝ち組」の奴らがやる行事なので「負け組」の俺は実際にしたことないのだが、一度だけ興味本位で調べたことがある。

 確か、火起こしに向いている木が、スギ、松、ヒノキなどの針葉樹で、葉の形が針のように尖っているとのこと。

 多分、この異世界にスギとか松、ヒノキが存在しているとは考えられないので、代用となるそれらしい木を探してみることにした。


 「……お、これじゃね?」


 思いのほか、それらしい木をあっさりと見つけることができた。

 辺りにも枯れ木が沢山落ちていたので、なるべく多く枯れ木を回収してからフランの元へと戻る。

 辺りはもう、すっかり夜だ。

 完全に真っ暗というわけでもないが、数メートル先がすでに見えなくなっていた。


 「フランのやつ、一人で大丈夫だろうか……」


 そう思うと、帰りの足取りが自然と早くなる。

 そして、俺が無事川辺に戻ると、フランは浅い川の中で中腰になって構えていた。

 魚を捕まえようと躍起になっているのだろうか。

 その姿が、なんとも可愛らしく——————


 「……ん?」


 俺は、あることを不思議に思った。

 フランって、あんなにスタイル良かっただろうか?

 いや、最初からスタイルの良さには気が付いていたけど、「出てるところは出てて、引き締まるところは引き締まっている」と、目視だけでスタイルを事細かく確認することはできなかった。

 でも、今はなぜか目視で確認することができる。


 「……メイジ、帰ってたのね」


 フランの少し離れた位置から川辺を眺めていたせいか、今の今まで気が付かなかったようだ。

 そして、フランが一歩、また一歩とゆっくり近づいてきたタイミングで、俺の中にあった疑念はすっかり解けた。


 「……」


 俺は何も見なかったようにすぐさまフランに背中を向ける。

 それも仕方のないことだ、だって今のフランは全てが丸見えのスッポンポン状態だったのだから。


 「……あの、フランさん。一体何してるの?」

 「……? 魚を獲ってたんだけど?」

 「いや、それは見てたから分かる。俺が聞きたいのはそこじゃないんだ」


 見なくても分かってしまう、フランの口調から察するに今の彼女は不思議そうに首を傾げているはずだ。

 まるで、俺の反応がおかしいと言わんばかりに——————


 「どうしたの? それより見て、魚大量に獲れたよ?」

 「見れるわけないだろ……。それより服はどうしたんだよ」

 「……「霊装(アナザーモード)」のこと?」


 そうか、フランの着ていた服は「霊装(アナザーモード)」というのか。

 俺に「霊装(アナザーモード)」と口にさせたのは、フランと同じ類の服を作り出せるか試していたらしい。

 ようやくあの時のフランの奇行を知ることができてスッキリした。


 「……って、そうじゃなくてだな」


 自分の思考にツッコミを入れてから言葉を綴る。


 「だったら、なんで「霊装(アナザーモード)」を解いた? 着たままでも魚は獲れるだろ」

 「馬鹿ね、着たままだと服が濡れるわ」

 「そうだとしても、スッポンポンのまま魚を獲るのは流石にまずいでしょ」

 「まずくないわ、身体も洗えて一石二鳥。バランも浴びる?」

 「浴びません。 普通、異性の前で無防備に裸になったりしないから」

 「でも、私は裸になってるわ」

 「……分かった、もう分かったからとりあえず服を着てくれ」


 このままだと、俺の方がどうにかなってしまいそうだった。

 フランは別段恥ずかしがる様子もなく、「分かったわ」と淡泊に告げてくる。


 異世界人は、異性の前でも平気で裸になれる者ばかりなのだろうか。

 もし、そうだとしたら「負け組」の俺にはあまりにも刺激が強すぎる。


 「もう、大丈夫よ」

 「本当だろうな……」


 両手で顔を覆い隠してからゆっくりとフランの方へと振り返り、指の僅かな隙間からフランの様子を窺う。

 目の前には、純白のドレスを着た少女が一人。

 よかった、どうやら服をきちんと着てくれたようだ。


 「何してるの?」

 「いや、フランがちゃんと服着てるかを確かめてただけだ」


 顔を覆っていた両手を剥がし、フランの疑問に反論する。

 すると、フランは首を傾げながら不思議そうな視線を俺に浴びせてきた。


 「メイジって、本当に変わった生き物ね」

 「それは、まさに俺が思ってることだ!」


 腹から出した俺の渾身のツッコミは、光を落とす薄暗い森林に木霊していった。


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