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天才たちのためのテンプレ作戦  作者: うちよう
テンプレ作戦① 仲間を増やそう
13/20

13 依頼

 鍛冶屋の外で待機していたフランとメイと合流し、ジューンとジュライに連れて来られたのは街に影を落とす薄暗い路地裏だった。

 一体何の話を切り出されるのだろうか。

 二人の深刻そうな表情から察するにただ事ではないことは確かだ。


 「ジューン? ジュライ? どうしたの、そんな深刻そうな顔して」

 

 軽い口調でメイが首を傾げながら二人に尋ねる。 


 「メイ、メイジの装備を見て何も思わないのか?」

 「え? えっと……作れてよかったね?」

 「……はぁ」

 「ちょっと、そのため息は私に失礼じゃない?」


 額に手を当てながら深いため息を吐くジューンと不服そうにジトッと目を細めるメイ。

 ジューンが何を言いたいのか、俺には何となく分かった。


 恐らく彼は、俺の装備に使われている素材——————「テンペストホウオウ」についてメイに気が付いて欲しいのだ。

 テンペストホウオウは天災級モンスターと呼ばれる世界に数種しか確認されていない化け物。


 そんな化け物の素材を使った防具をどうして俺が装備しているのか。

 だけど、そんな装備の見た目だけでどのモンスターの素材を使ってるのか分かるものなのだろうか?

 素材の状態を見せるならともかく、防具にしたせいでかなり加工されている。

 そんな見ただけで分かるような代物ではない気がするけど……。

 

 「もっと目を凝らしてバランの装備を見ろって!」

 「もっと目を凝らして……? ……あ! 分かった!」

 「ったく、気が付くのが遅ぇよ」

 「だな、何年の冒険者やってて気が付かないのは流石に終わってる」

 

 ジューンとジュライの表情から安堵しているのがよく伝わってくる。

 何年もやってれば出会ったことのない素材でも一目見ただけで分かるようになるものなのだろうか?

 何だかちょっと、カッコいい。


 「終わってるって、それは流石に言い過ぎだって~。でもかなり運がいいよね。「生霊力(ライフ・コア)」を宿したままの素材を手に入れちゃうなんてね!」

 「「……」」

 「……え?」


 どうやら、メイは冒険者として終わってるらしい。

 一切口にはしていないが、ジューンとジュライの表情から「こいつマジか……」と声が聞こえてきそうだ。

 

 「——————というわけで、メイジとフラン。二人に一つお願いしたいことがあるんだが……」

 「ちょっと! 何、私変なこと言った!?」

 

 ジューンがそう言うと、二人は息を合わせて地面に膝をついて頭を深々と下げた。


 「ちょ、ちょっと! 二人とも何で土下座してるの!?」

 「テンペストホウオウを倒した二人に、「アマノサキ洞窟」に住み着いたアルガトロフを討伐して欲しいんだ」

 「え、えぇー!? あのテンペストホウオウを倒したの!?」

 「二人には迷惑なことを言ってるのかもしれない。都合の良い人間だって承知している。それでも、この国をどうか——————救ってくれないか!」

 「テンペストホウオウを倒したって、一体どこで戦ったの!?」


 うん、待って。同時に話を進められると反応に凄く困る。

 せめてメイも二人と同じ時間軸に合わせてから話を進めて欲しい。


 「一気に言われても分からないわ」

 「おい、俺たちの話の方が大切なんだからメイはちょっと黙ってなさい」

 「ちょっと! それじゃあ私一人だけ話について行けないじゃない!」

 「それで、どうだろうか? アルガトロフの討伐を引き受けてくれないだろうか。もちろん謝礼も用意しておく」

 「ちょっと! 話を進めないでってば!」

 

 アルガトロフの討伐……テンペストホウオウを倒した俺たちに依頼するぐらいなのだから恐らく77天災級モンスター」なのだろう。

 謝礼も用意してくれるとのことだし、テンペストホウオウを倒した俺たちにとっては別に悪くない話だ。


 だが、引き受ける前にアルガトロフとはどういうモンスターなのかしっかり聞いておく必要がある。

 不確定な部分が多い情報の中で討伐依頼を引き受けたら、きっと痛い目を見るから———————


 「とりあえず、アルガトロフってどういう——————」


 そう言いかけた途端、袖口をクイクイと優しく引っ張られて、振り返るとそこにはジッとこちらを見据えているフランの姿があった。


 「どうした?」

 「私、分からないわ」

 「あぁ、だからそれを今から聞くから」

 「そうじゃない。そうじゃなくて——————」


 フランは首を傾げながらゆっくりと言葉を綴る。


 「——————テンペストホウオウって、なに?」

 「「「「……え?」」」」


 この場にいる全員の声が見事に重なり、そして呆然とフランを見つめていた。

 

 「なに? テンペストホウオウって」


 そう言いながらクイクイと数回、袖口を優しく引っ張る。

 フランはこの世界の住人じゃないのだろうか?

 いや、でも生まれた時から「アナザー個体」の強力な力のせいで一人ぼっちだって言ってたし……。

 だとしたら、普通に知らなかっただけか?

 でも、世界に数種しか確認されていない天災級モンスターたちはそれなりの知名度があるはずだ。

 見たことがないとはいえ、一度くらいその言葉を聞いたことがあってもおかしくないのに、どうしてフランは一度も聞いたことがなさそうな表情をするのだろうか。


 何だか……違和感を感じる。


 「どうしたの?」

 「あ、いや、なんでもない。それよりテンペストホウオウについてだったな。ジューンさん、まずテンペストホウオウについて教えてもらってもいいですか?」

 「……! そ、そうだな! 依頼をする以上、まずはそこから説明しないといけないよな!」


 ハッと我に返ったジューンが丁寧にテンペストホウオウについて説明を始める。

 俺たちがこの近くの森で戦ったテンペストホウオウは、「天災級モンスター」と呼ばれる世界に数種しか存在しない化け物だということ、そして暴風を操るモンスターだということ——————。

 丁寧に説明しても、五分とそう長い時間は掛からなかった。

 

 「なるほど、理解したわ」

 「理解してもらえて何よりです……。それで同じ「天災級モンスター」アルガトロフがこの近くの「アマノサキ洞窟」ってところに住み着いたせいで貴重な鉱石が採れなくなったりして困ってるんだ」

 「そうだったんですね……。ちなみにアルガトロフって何を操るモンスターなんですか?」


 テンペストホウオウが暴風を操る天災級モンスターだったのだから、何かしらを操る天災級モンスターなのだろう。

 興味本位で聞いた素朴な質問——————それを尋ねられた途端、二人の顔色が急に怪しくなった。


 「あの、どうしました?」

 「……実は、「地獄の覇王」と呼ばれるアルガトロフは獄炎を扱うんだ。氷を扱うフランと相性最悪なんだ……」

 「なるほど、それで二人は暗い顔をされてたんですね」


 どうやらこの世界には相性というものが存在するらしい。

 有利不利の関係性は分からないが、フランの使う氷はアルガトロフの獄炎と相性最悪とのこと。

 つまり、アルガトロフという強敵に俺一人で勝てるかどうかが勝負の鍵になるようだ。


 テンペストホウオウ戦では何とか優位に戦いを進めることができたものの、今回もそううまくいくとは限らない。

 だけど、討伐した時のメリットが大きいのも事実だ。

 ここでアルガトロフを倒せば「ガパゴス王国」の困窮を救った救世主という立場を確立できるだろう。

 だが、下手をしたら全滅——————死ぬ可能性も否めない。

 死ねばもちろんそこで何もかも終わりだ。


 死を覚悟して戦いに挑むか、このまま尻尾撒いて逃げるか。

 俺の出すべき答えは——————すぐそこにあった。


 「やるわ」

 

 答えを決めかねている俺の鼓膜に、フランの迷いのない透き通った声色が突き刺さる。

 そうだ、人から距離を置かれ、殺される運命を背負った「アナザー個体」を助けるってそう簡単な話ではないことは最初から分かっていたはずだ。

 リスクを背負った人を助けるということは、自分も相応のリスクを背負う覚悟が必要なのである。


 なのに、俺は心のどこかで無自覚にもフランの強さに甘えていた。

 「何かあればフランが助けてくれる」、「フランがいれば死ぬことは絶対にない」。

 そんな甘さを持った愚か者が、誰かを助けるなんて出来るはずがない。

 そうなれば、俺の答えは必然的に決まってくる。


 「やります。俺たちが、アルガトロフを倒してみせます」

 「ふ、二人とも……頼んでおいてなんだが、本当に引き受けてくれるのか……?」

 

 若干潤んだ瞳でジューンが確認をしてくる。


 「もちろんですよ、男に二言はないです」

 「あ、ありがとう! 本当に、ありがとう! 謝礼はこの命に代えてもきちんと用意しておくから」

 「別に、そこまでしなくても……」

 

 アルガトロフの討伐に邪な考えを持って挑む以上、謝礼を用意するのに命を代えられたら罪悪感しか募らないのでやめて頂きたい。


 「美味しい食べ物がいいわ」

 「分かった、用意しておく」

 「甘いデザートも付けてね」

 

 フランとジュライの会話がふと耳に入ってくる。

 フランの要求があまりにも可愛くて思わずほっこりしてしまう。


 「それじゃあさっそく、必要なアイテムを買い揃えに行こう! もちろん、俺たちの奢りで!」

 「え、謝礼も用意してくれるのにそれは流石に申し訳ないんですが……」

 「俺たちのワガママのせいで危険な目に遭わせるんだ。それぐらいのことはさせてくれ!」

 「そうだよ! メイジとフランちゃんには無事に帰ってきて欲しいからね!」

 

 そう言いながら、三人がスタスタとメイン通りへと向かって歩き出す。

 どうやら、まともに取り合ってくれる気はないらしい。


 「そう。なら、よろしく頼むわ」

 「フラン、少しは遠慮というものを覚えような……」

 「……?」


 可愛げに首を傾げるフランと共に、俺は必要なアイテムを買い揃えるため三人の背中を追いかけた。

 

 


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