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天才たちのためのテンプレ作戦  作者: うちよう
テンプレ作戦① 仲間を増やそう
11/20

11 ガパゴス王国

 「さぁ、着いたぞ!」

 「ここが「ガパゴス王国」だよ~」


 ジューンたちに案内されてやってきたのは「ガパゴス王国」と呼ばれる国だった。

 きっちりと整備された石畳の道に煉瓦で作られた綺麗な街並み。

 まるで歴史の教科書で見た西洋諸国の街並みのようだ。


 「とりあえず、メイジとフランはこれでも羽織っとけ」


 そう言いながら、ジュライが頭に年季の入ったローブを被せてくる。


 「その服のせいで、周りから変な目で見られてるからな」


 確かに、ジュライの言う通り周りからの視線を感じる。

 「アナザー個体」であるフランはともかく、今の俺の服装はそんなに変だろうか?

 思わず自分の服装に視線を下げると、その理由がようやく分かった。


 ボロボロの服にべったりと黒色の絵具でも零したかのような跡が付いていたのである。

 シミの位置から考えると、これは傷口から滲み出た血が乾いた後で間違いない。

 だから、すれ違い様に変な目で見られてたのか……。


 「すみません、ありがとうございます。後で必ず弁償します」

 「助かるわ」


 そう言いながら、俺たちは頭に被せられていたローブを羽織る。


 「弁償なんていいよ。そこら辺の森で落ちてたやつだし」

 「……え。なんで拾ったんですか?」

 「んー、何かに使えるかなって思ってさ。ジューンとメイには汚いから捨てろって言われたけど」

 「そりゃ、言われますよ」


 ジューンやメイの言う通り、どう考えても衛生上良くないだろうけど、ジュライが拾ってくれてなかったら住人の視線を浴び続けてたに違いない。

 ローブ自体が臭いわけでもないし、このまま使わせてもらうとしよう。

 しかし、なぜか問題は何一つ解決していなかった。


 「あの、まだ見られてる気がするんですけど……」


 住人の俺たちを見る目は何一つ変わっていなかったのである。

 そんな俺の疑問に真っ先に答えたのは、紛れもなく彼女だった。

 

 「私のせいね」


 俺の後ろで控えていたフランが、移り変わる街並みを見渡しながら淡々とそう口にする。

 正体がバレないように「霊装(アナザーモード)」を隠したのに、それでもフランは嫌悪の視線に晒されるのか?

 それはあまりにも残酷すぎるだろ……。


 「こんな視線の中で生き続ければ、そりゃ生きる希望も失うよな……」


 ここまで聞こえてこないが、遠くからヒソヒソと話しながらこちらの様子を窺っている住人の姿が見受けられた。

 きっとフランの話でもしているのだろう。

 こんなの、当の本人からしたら居心地が悪いに決まってる。


 「フラン、大丈夫か?」

 「……メイジ、あれ美味しそうだわ」

 「……え、美味しそう?」


 フランの視界の先をよく見てみると、住人の後ろにはパンケーキのような食べ物を売っているお店があった。

 フランの視界には、最初から食べ物屋しか映っていなかったらしい。


 「お金が出来たら、食べてみたいわ」

 「よし、お金ができたらコミュニケーションの練習として行ってみるか」

 「コミュニケーションの練習は明日からするわ」

 「……それ、どんどん先延ばしにする典型的なダメなやつだな」


 何はともあれ、換金する前にフランがこの国から出て行きたいと言い出したらどうしようかと思ったけど、あまり気にしていなさそうで良かった。

 心の中にあった不安が一気に払拭され、自然と笑みが零れる。


 「メイジ、いきなり笑い出して気持ち悪いわ」

 「人の笑った顔に気持ち悪いって酷い言いようだな……」

 「気持ち悪いとキモイ、どっちが良かった?」

 「そういう話じゃないし、どっちも良くないから」

 「じゃあ、気色が悪いわ」

 「何一つ変わってないんだが……」


 そんなくだらないやり取りを繰り広げていると、前を歩いていた三人の足がピタリと止んだ。


 「着いたぜ、ここが素材の換金所だ」


 そう言って案内されたのは、煉瓦の街並みにひっそりと佇んだ小さなお店だった。

 外に看板が出ているわけでもないから、一見するとただの一軒家にしか見えない。

 そういえば、ここへ来るまでの間に一つも看板を見てないような……。


 「ちーす、今日も来てやったぜー」


 通い慣れたようなフラットな感じで、ジューンが扉を開けて建物の中へと入っていく。

 後に続いて中に入ってみると、目の前に店番用のカウンターテーブル、少し離れたところに大テーブルと大ソファーが設置されているだけの味気ない素朴な雰囲気が店内に広がっていた。


 「何だい、ジューちゃんか」


 店番用のカウンターテーブルに腰掛けたご老父が先頭を行くジューンに向けて声を掛ける。

 見た目から推測して、年齢は大体六十歳から七十歳ぐらいだ。


 日本とは違って、異世界に定年退職なんて制度が存在していないのかも知れないけど、高齢期に入っても尚働き続けているなんて普通に凄いと思う。


 「おいおい、アギルじいさんや。勝手に店番しちゃダメだろ」

 「そうだよ、私たちだから良かったものの‥‥‥」

 「新規客だったら、間違いなく問題になったな」


 三人が口々に言い、どういう状況なのか瞬時に理解した。

 どうやら、このご老人は店員じゃないらしい。


 「ワシはただ、色んな人と話がしたいだけなんじゃよ」

 「だからって、一人で店番する必要ないでしょうよ! せめてハギルスと一緒に店番しろよな」

 「大丈夫じゃよ。ワシじゃて接客の一つぐらいまだできるわい」

 「何年前の話してんだよ……。まあ、そこまで言うなら、さっそく素材の換金を頼みたいんだがいいか?」

 「どれどれ、ワシにみせてみなさい」


 身を乗り出して仕事をする気満々をアピールするアギル。

 そして、ジューンたち三人の視線が後ろで控えていた俺たちに移されたところで、アギルはようやく俺たちの存在に気が付いたらしい。

 目を真ん丸と浮かべながら、俺たちに問いかけてきた。


 「おや、そちらのお二人さんは初めて見る顔だねぇ」

 「は、はい。ジューンさんたちの紹介で素材を換金しに来ました」

 「そうかいそうかい、どれ? ワシが見てあげよう」

 「はい、お願いします」


 そう言って、ニードルベアーの素材が入った二袋をアギルに差し出す。

 知らない店とは違って、ジューンたちの紹介の店だから変に値切られることはないだろう。


 アギルは、一つ一つの素材に傷がつかないように慎重にしながら鑑定を始める。

 素材は「ハリネズミのような熊の皮」に「鋭利な爪」、「鋭利な牙」の計三つ。


 鑑定って、どのくらい時間が掛かるんだろうか?

 そんなことを思いながらアギルの作業を黙って見つめていると、ジュライが突然声を発した。


 「先に言っておくけど、俺らの時みたいに値切らない方が良いからな?」

 「そうだな、何だって客の中にはあの「爆氷の女王」がいるんだからな」


 ジューンがパワーワードを口にした途端、鑑定していた手がピタリと止まり、徐々にアギルの視線は一人の少女へと向かう。

 それと同時に、フランは空気を読んで覆い被せていたローブを剥いだ。

 煌めく純白のドレスに青色の不思議な光彩を放つ腰丈ぐらいのベルスリーブボレロ。

 アギルは何かを思い出したようにスッと腰を起こし、震える足で踵を返してから一言。


 「ふう、ワシも衰えたものじゃ」

 「ビビってるだけじゃねぇか」


 ジューンのツッコミを最後まで聞くことなく、アギルは完全に店の奥へと消えて行った。

 静かな沈黙が、店の中に漂い始める。


 「……えっと、換金はどうなったんでしょうか?」


 静寂に耐え切れなくなった俺が口を開くと、誰かが答えるよりも先に店の奥から一人の厳ついおっさんが姿を現した。


 「すまんな、うちのオヤジが勝手に換金作業しちまって」

 「まあ、無事ハギルスと変わったことだし、よしとしよう」


 この厳ついおっさんがハギルス……見た目からして換金所じゃなくて鍛冶屋で働いてた方が似合ってる気がする。

 そんなことを考えていると、ふとハギルスと目が合った。


 「初めまして、メイジと言います。ジューンさんの紹介で素材の換金に来ました」

 「そ、そうか! 俺はオヤジみたいに値切らねぇから安心してくれよな!」

 「別にその心配はしてないですけど……」


 何だか、凄い距離間を感じる。

 もしかしたら、店の奥でアギルが「客にあの「爆氷の女王」がいる」と言ったのかもしれない。

 というか、それ以外の理由が思いつかない。

 それからハギルスは、アギルと同じように一つ一つ丁寧に換金作業を行っていき、わずか五分という短時間で全ての換金作業を完了させた。


 「素材は全部で三つ、換金金額は金貨三枚ってところだな!」

 「金貨三枚……」


 この世界の金銭感覚は分からないが、多分相当な額なのだろう。

 その証拠にジューンたちは興奮気味だ。


 「金貨三枚って、やべぇな!」

 「魔物の素材だけで金貨三枚って初めて聞いた!」

 「一攫千金とはまさにこのことか!」


 ハイテンションな彼らを他所に、ハギルスが俺に声を掛けてくる。


 「とりあえず、金貨三枚は渡しておくぞ」

 「あ、はい。ありがとうございます」


 謝辞の言葉を口にしてから金貨三枚を受け取り、まじまじと金貨を眺める。

 当然だが、元いた世界の通貨とは全然違う。


 「ところで、残ってる二袋は換金してもらわなくていいの?」


 突然、不思議そうに首を傾げたメイが話しかけてくる。

 そういえば、この素材を装備にすることは言っていなかった。

 素材のレア度以外隠すようなことはないし、素材について触れなければ話しても問題ないだろう。


 「この素材は、俺の装備を作るのに使おうかなって思ってたんですよ」

 「あー、確かにいつまでもその格好でいるわけにもいかないもんね!」

 「でも、「ニードルベアー」の素材を売ってまで使いたい素材って一体何なんだ?」

 「それ、俺も気になるな」

 「あ、えっと……」


 しまった、うっかり余計なことを言ったのかもしれない。

 「ニードルベアー」という貴重な素材を売ってまで使いたい素材と知れば、気になって仕方がなくなるのが冒険者という職業なのである。

 その証拠に、彼らの視線は袋に釘付けだ。

 とりあえず、素材のレア度の事を悟られないようにしなきゃ……と思った矢先、問題が発生した。


 「あなたたちに、この貴重な素材は絶対渡さないわ」


 俺が口を開くよりも先に、フランが意味深な事を言い出したのである。

 「ニードルベアー」よりも貴重な素材と言われれば、冒険者である彼らが更に食いついてくるのは目に見えて分かることだった。


 この最悪な状況下で誤魔化しが効く点があるとするなら、恐らく「貴重」という部分だけだろう。

 盛大に勘違いしてもらおうと口を開きかけた、その時——————


 「ご、ごめん! 私たちは別に奪おうだなんて……」

 「ただ、どんな素材なのか知りたかっただけだったんだ……。余計な詮索して悪かった」

 「これ以上の詮索は絶対にしないからな!」


 俺たちが手に入れた素材がどれだけ価値があるのかは、フランの強張った表情からよく分かる。

 今回はその強気な姿勢と「爆氷の女王」という異名のおかげで功を奏したが、三人の頭の中にまだ件の噂がチラついているのが垣間見れた。

 三人と親しくなるにはもう少し時間が必要のようだ。


 「そ、それじゃあ、俺たちはここらで失礼するよ!」


 ジューンがハギルスに向けてそう言うと、メイとジュライが軽く会釈をする。


 「おう、いつでも来てくれよな!」

 「素材の換金、本当にありがとうございました」

 「いいってことよ、それが俺の仕事だからな! いつでも素材の換金しに来てくれていいぞ!」

 「分かりました、また近いうちに足を運びます」

 「おう、待ってるぜ!」


 そして、俺たちはハギルスに背中を見送られながら換金所を後にした。


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